Eランク転生者
――ピピピッピピピッ
深く沈む意識を叩くようにアラームが耳を刺す。
「何時だ今...」
片目を薄く開け、壁にある秒針が進むにつれ音が響く時計に視線を動かした。
短針が2になっていた。
「ああ、深夜ね。起きるか」
「腹減ったコンビニ行こ」
背中と足が重い。
部屋を出て階段を降り玄関の扉を開けた。
寝巻のジャージのまま、深夜の道へ出る。
冷たい夜風が腕に刺さる。
「寒っ」
スマホをズボンのポケットから取り出し、ボタンを親指で押した。
「ふっこいつ馬鹿だなあ」
――ブオオオオオオオオン!!
「は?」
音の方向に首を回すと大型トラックの淡いライトが俺の視界のすべてを覆った。
運転手の顔がはっきりと見えたが、寝ていた。
ひどく鈍い音と同時に俺は吹っ飛び硬く寒い
アスファルトに鞭のようにたたきつけられた。
「あ?んだ、これ...」
脳の信号が全身にうまく伝わらない。
かろうじて動くのは目だけ。
目をスッと上に動かすと、画面が割れたスマホが目に入る。
人が何か言っているし、甲高いサイレンのような音が薄い紙きれのように俺の耳には届かない。
――あなた、見つけた。
何か優しくすべてを包み込むような言葉が聞こえた。
目を閉じていた俺は暗闇で聞こえる声に耳を澄ませた。
「誰だ、何言ってるんだ?」
「私は女神のヴィーナ。貴方を適応させに来ました」
「女神...?適応...?」
暗闇。
何も見えないし、何も感じない。
なのに、声だけははっきりとしていた。
「俺はどうなったんだ」
俺はその意識の中で大きく声を荒げた。
沈黙が流れてから女神は俺に淡々と事実を告げた。
「貴方は死にました。死因は交通事故、トラックとの接触です」
「し、死んだ?」
「ええ、なので貴方を適応者として神聖王国ユグドラエルの冒険者として転送させます」
「それでは、神の加護があらんことを」
「あ、あれっ。何でだ?おかしいなこの転生陣であってるはずなのに」
「あちょっとヘラ!何するのやめ、やめて!」
「きゃああ!」
――鳥のさえずりがほのかに聞こえ、温かい風が頬を舐め体を起こした。
「死んだ!?」
起こした体は息が上がったまま、肩が上下に細かく揺れていた。
俺は首を下に下げ、手を胸から腹にかけて感触を確かめた。
「体は、ある」
ため息を深くついた瞬間横目で見える人影があった。
首を上げ人影に向けると女が一人、寝ていた。
青髪に白く長いローブのようなものを羽織っていて、肌の露出が高い。
「誰だこいつ....」
俺は女の肩を揺らして起こした。
俺は直感でこの世界に来るまでの女神なのだと確信していた。
「うーーん」
女がよだれを垂らし、片目を開けながら体を起こして女座りをしている。
その女の瞳を見ると、"深紅のように輝く瞳"をしていた。
「あんた...誰よ」
「誰はこっちのセリフでもあるが、お前ヴィーナだろ」
女は両腕を胸に当て後ずさりして、顔が引きつった。
「げっ、何で知ってんのよ」
――お前が自分で言ったんだろうが。
「まあいいわ、私までここに来たとなるともう帰れないか」
「ほんとに最悪だわ」
ヴィーナが天を仰いで小さく言った。
その姿を見て俺はヴィーナに聞いた。
「なあここは神聖王国のユグドラエルなのか?」
ヴィーナは凛々しい目をしながら鋭い声で俺に言った。
「ええ、スキル至上主義国」
俺は手を顎に置き、眉間にしわを寄せながら呟いた。
「そうなのか、ところで俺のスキルは何なんだ?お前俺を飛ばしたんだからそれくらいのことは分かるだろ?」
「仕方ないわね、手出して」
ヴィーナは俺の方に体を向け、綺麗な白い腕が伸びてきた。
俺はその白い手を凝視していた。
「早くしなさい」
「ああ、わかった」
俺はヴィーナに手を伸ばしその肌に触れた。
ヴィーナは俺の手をギュッと握り、目を閉じて沈黙した。
――!?こ、これは...適応成功したのかしら?でも、なんで。
俺は唾をゴクッと飲み込みその時を待った。
――俺も異世界で最強になっちゃったり!?
目を開け、俺の方へと視線を向けたヴィーナは言った。
「はい、終わったわ」
俺は食いつくように身を乗り出し聞いた。
「で?で?どうだった?」
「Eランクね、最低ランクよ」
「は?最低...ランク」
俺はその瞬間体がしなるようにその場に崩れ落ち下唇を嚙み締めた。
「Eランクって何が使えるんだ...?」
俺は四つん這いになった体でヴィーナに聞いた。
「そうねぇ...Eランクだとファイアとかサンダーとかじゃないかしら」
――"あれ"はまだ隠していた方がいいわね
俺は膝に手を当て立ち上がり一番先に目に止まった大木に向かって一歩ずつ歩いた。
目の前に立ち、足を肩幅に開き右腕を前に出し左腕は支えるように手首を握った。
「ファイア!」
その詠唱ともに出たのは自分の拳より小さな炎。
その炎は吹いた風に消されて大木には届かずに熱さも感じないうちに消えてしまった。
俺はまた地面に跪いて、声を上げた。
「全然だめじゃんっ」
「まあしょうがないわね、Eランクスキルをたくさん使うしかないわよ」
ヴィーナは地面にうずくまっている俺の肩をポンっと叩いた。
俺は悔しさでくしゃくしゃになった顔をヴィーナに向けると、彼女は苦笑いしながら俺の肩をさすっていた。
俺は拳を爪の跡が付くくらいに握りしめ、同じようにファイアの構えをした。
「くそ!ファイア!」
「ファイア!ファイア!ファイア!」
何度も詠唱したファイアは連発して手のひらから放たれ、大木にぶつかった。
「え?」
直立不動の大木の脇に穴が開き、そのまま枝のこすれる音を立てながら
倒れた衝撃で俺の髪が大きくなびいた。
倒れた大木まで行くと真っ黒な焦げている部分があり、
大木の腹をえぐるように燃えていた。
「これがEランクのスキルって?しかも永遠に打てそうな気がするのは気のせいか?」
俺は手のひらに視線を滑らせ首をかしげながら握ったり開いたりを繰り返した。
後ろを振り向くとなぜか一歩足が下がっているヴィーナに疑問を抱いた。
「どうしたんだ?」
「なんでもないわよ!やるじゃない」
――え、ただのファイアよね?だって、いや...嘘よ。




