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第8話 ウェリントンの行末

6000字くらいです。読んでいただけたら嬉しいです。

ウェリントン一家は元の宇宙船に戻る。宇宙船を新調しよう、これまでより丈夫で大きいものにしよう!とウェリントンは言う。でも奥さんはもう元の星に帰ろうと言うんだ。こんな広大な宇宙でちっぽけな人の意志や想いが漂っている。それが分かってなんだか怖いと言うんだ。そんな中で自分から何かを創造するなんて、罰当たりな様な気がすると。ウェリントンと奥さんはそれで喧嘩する。いつかあなたバチが当たるわよ。私はそんな気がする。思い上がるのも良い加減にしなさい!ウェリントンが反論する。何かを差し出さなければ何も得られない!バチが当たるのならそれも本望だ!アンドロメダは二人の間で飼い主を失った犬のようにオロオロとする。もうあなたのわがままに付き合うのはたくさん!あなたが自由気ままに生きるのは勝手だけど、周りに迷惑をかけないで!奥さんは二人の子供を連れて元の星に帰ることになるんだ。

宇宙船はアンドロメダとウェリントンの二人きりになってしまう。そして二人はゴミだらけの危険な宙域を更に進んでいく。時に宇宙ゴミを拾い、それを化合して生きる糧にしていく。彼は奥さんが出て行ってから満足に寝られたことがなかった。奥さんの「いつかバチが当たるわよ」という言葉がずっと心に残っていた。彼女は赤ちゃんを寝かしつける母親のように、彼を膝枕に乗せ優しく語りかける。きっと未来は明るいですよ。だから安心して眠って。ありがとうアンドロメダ。なんだかすごく不安なんだ。いつも同じ夢を見るんだ。この船が壊れ、宇宙に放り出されて、孤独な中で宇宙を漂い死んでいく夢。大丈夫。大丈夫。私がここに居るじゃない。安心して。ありがとう・・・・アンドロメダ。

あくる日、二人がゴミを探して船外活動をしていると、珍しいものを発見する。指輪だ金色に輝く指輪だ!星の光かと思った。まあ売れないだろうけれど、持って帰ろうか。なんでか分からないけれど、そのうち何かの役に立ちそうな気がするんだ。二人がそれを持って帰ると、宇宙船に拳サイズの穴が空いていた。その穴を覗き込むと、そこには使い古された手のひらサイズのカメラが漂っていた。そのカメラの中には何のデータも入っていなかった。彼は指輪とそのカメラを化合しようと思いつく。機械がガタガタ激しく音を鳴らし、そこから出てきたのは古めかしい映画のフィルムと映写機だった。それでその機械は壊れてしまった。彼は機械を抱きしめる。今までありがとう。自分の身体の一部を失ってしまったかのようだ。彼女も彼と機械を一緒に抱きしめる。

二人はその機械から出てきたフィルムを映写機にセットして見始める。それはある夫婦の生活の記録だった。親しみやすい顔をした、溌剌とした夫と気立ての良さそうな奥さん。彼らが狭いアパートでホームビデオを撮っている。西暦2450年、12月5日、今家に居ます、こっちが奥さんです。いえーい奥さんでーす!今日は3回目の結婚記念日!ケーキ買ってきました!高い店を予約したかったんだけど、ごめんね僕のお給料が少なくて・・・。家でパーティすることになりました。奥さんは微笑む。そんなの良いわよ。それにここに三人目の家族がいるし。奥さんは自分の大きくなったお腹を触る。僕らの宝物だ。天からの贈り物だ。うふふ。今お腹を蹴ったわよこの子。二人はアパートのベランダに出る。あれがよだか座、あれがノアの方舟座。夫が星座の事を解説する。ふふふ。あなた天文部だったのよね学生だった頃。あっ流れ星だ!夫が流れ星を見つける。本当ね!あ、あそこにも!二人はお互いに抱き合い、束の間の流れ星のようなキスをして、夜空を見つめる。ずっと前から、私達が生まれる前からこの夜空はあったのよね。なんだか不思議な感じがする。自分なんてこんなにちっぽけでくだらないのに、広大な宇宙を見つめて、また新たなちっぽけな命を産もうとしている。奥さんはまるで初めて星空を見た赤ん坊のように感慨深げだ。夫がそれに答える。多分それが尊いっていうことなんだと思う。僕らはちっぽけな片隅にしかないから、そこに尊さを感じるんだ。

そこで場面が切り替わる。西暦2451年3月10日、女の子が産まれました!名前はユア。生まれてきてくれてありがとうユア。僕らの希望が詰まった宝物。お父さんが、男の子が初めて人形を扱うように乱暴にユアに頬擦りをすると、彼女がぐずり始める。もうお父さんったら、もっと優しくしてあげて。一体どんな成長を一緒にしてくれるんだろうなユアは。生まれてきてくれてありがとう!

また場面が切り替わる。今日は西暦2457年4月1日、ユアの小学校デビューの日です!ユアこっちに来て!やだよお父さん恥ずかしいよ!良いから良いから、ほらにっこり笑って。そこにはおさげで、制服を着て大きなリュックサックを背負われているユアの姿があった。お父さん!カメラを向けないでよう!もう!ユアお弁当は持った?うんちゃんとあるよお母さん!ユアがんばれ!友達をたくさん作って、お勉強もして、大切な思い出をたくさん作るんだよ。お父さん達は全力で応援するから!もう、恥ずかしいったら!

また場面が切り替わる。今日は西暦2460年12月15日。ユアのお友達と一緒に田舎にキャンプに来ています!山の中にテントをはり、ユアと両親、それからユアの友達が夜空を見つめている。ユアはスープの入ったマグカップを手に都会では見られない、世界の秘密を全て詰め込んだような満天の星空に夢中になっている。お父さんが星空について解説する。冬の夜空にはたくさんの星座があります、あれが赤十字座、その右に見えるのが穴熊座。その下のがひまわり座。あ、流れ星だ!とユアとその友達が叫ぶ。すごーい!流星群だ!でも予報はなかったよな。お父さんが携帯端末を確認する。宇宙ゴミじゃないあれ?本当だ。お母さんも確認する。巨大なスペースコロニーが宇宙ゴミの衝突で大破したってニュースになっているよ。ユアには秘密にしておこう。ユアとその友達は流れ星を見て盛り上がっている。キレーイ。キラキラ光る宝石みたい!宇宙って不思議!

また場面が切り替わる。今日は2470年3月10日。ユアの19歳目の誕生日です。のはずでした・・・。二人はアパートのゴミや服が乱雑に積まれた部屋の中で、余命宣告をされた病人のように項垂れていた。お母さんの方はカメラの向こうを向いて何かを抱きしめシクシク泣いている。3ヶ月前にユアが死にました。交通事故でした。せっかくこれから就職したり結婚したりいろんな楽しみがあっただろうに。今でも実感がないです。あなた何撮ってるのよ!ユアが死んだことなんて記録しないで!ごめん、ごめんユアごめん・・・。お父さんはこれからたくさんの涙に変わるであろう、悲しみの酒の入った瓶を持って別の部屋に行ってしまう。

また場面が切り替わる。今日は西暦2475年4月25日、ペットのロボット犬を買いました。可愛いです。本当は成人したユアが寂しくないように買ってあげるつもりだったんだけど、僕らが慰められちゃってるなあ。ジョンと名付けました。ジョン、こっちおいで!ワン!ワン!外見は本物の犬と見分けがつきません。でもこの子は本物の犬と違って成長することもなければ死ぬこともない。お母さんはジョンのおかげで少しずつ鬱から回復しています。そうね。ユアの代わりではないけれど・・・。お母さんがアパートの窓を開ける。ジョンも隣に立って、夜空を見つめる。死んだら人は星になるというけれど、あの子も私達を空から見守ってくれているのかしら・・・・。奥さんは一番遠くでわずかに瞬く恒星のような涙を流す。

また場面が切り替わる。今日は2500年12月5日、僕達はもう80歳になりました。二人の老夫婦がアパートのベランダから星空を眺めている。隣にはジョンも居る。ワンワン!お母さんが星座を指差す。あれがよだか座よね。あれがノアの方舟座。二人は顔を合わせて微笑みあう。年齢を重ねても、星空は何も変わらないわねえ。いやいや本当はちょっとずつ変わっているんだよ。あの星の光なんか500年前の光なんだ。お母さんが答える。でも何度生まれ変わってもあなたと一緒にいたい。僕もだ。僕らが死んだらこの結婚指輪は宇宙に放出してもらおう。お金がなかったから宇宙旅行なんかには行けなかったけれど、僕らとユアの思い出を宇宙に連れて行ってもらおう。良いわねそれ。お母さんは微笑む。そこで永遠に僕らは宇宙を漂うんだ。ワンワン!ごめんなジョンお前を一人残して。お前のことは新しい引取り手に頼んであるから。そこから僕らのことを見守っていてくれ・・・。ワン!ワン!

 ウェリントンは自然に泣いていた。そうか尊いという感情は、僕らがこの広大な宇宙で、ちっぽけな片隅にしか存在していないから感じるんだ。だってもしこの宇宙が人間で満たされていたら、何も尊くない。同時に何も広大でもなくなってしまう。尊さを感じることも永遠を感じる事もなくなってしまう。

その時宇宙船のAIが警告音を鳴らす。多数の大きな宇宙ゴミが接近しています!いますぐ宇宙服を着て、退避ポッドへ乗ってください!彼は急いで宇宙服を着る。アンドロメダ!急いで!彼女が宇宙服を着ようとした時、宇宙船が大破する。宇宙船はその骨格を失ってバラバラになり、破片とともに彼らは宇宙ゴミとして宇宙空間に放り出される。二人は逆方向に逸れていってしまう。アンドロメダ!アンドロメダ!行かないでくれ!君まで失ってしまったら僕は・・・。 アンドロメダは微笑みながら、こちらに手を振る。今まで家族でいてくれてありがとう。私の事は心配しないで。もしあなたがあのクマのぬいぐるみを拾ってくれなければ私は死んでいたままだったのよ。私のバッテリーが尽きるまでは通信もできるし。

彼は宇宙船の破片と共に真空の世界を彷徨う。その間彼女と通信する。細くちぎれそうな糸電話でなんとかコミュニケーションを取ろうとする。多分僕の方が早く宇宙服の空気が尽きるから、そうしたら僕の為に歌でも歌ってくれ。何が良い?フランクシナトラのマイウェイがいいな。あれ好きなんだ。船内でも良く流してたよね。そうだね。フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーンでもいいな。それもよく流してた。そうだね。

彼女が思い出話を始める。そういえばさ、覚えてる?私が怪しい船で変な調味料を買ってきて、それで料理をしたら毒ガスみたいなのが船内に蔓延してみんな咳と鼻水が止まらなくなったの。彼が答える。そういえばそんな事あったね。結局私だけロボットだから影響がなくて、みんなの看病しなければならなかった事。君はロボットだから生理現象をシャットアウトできるんだったよね。あんなに君が羨ましいと思った事はないよ。ふふふ。船内を換気するのに結構時間かかって辛かったなあ。それまで鼻水と涙が止まらなくて・・・。僕の妻はそれでお冠になっちゃって、料理は材料買うところから、家事全般も私がやるって宣言して、君はずいぶん楽そうだったね。なんかちょっとした休暇をもらったって感じ。それでカズエさん頑張りすぎて身体壊しちゃって風邪ひいて・・・。それでみんなにその風邪が移って、結局私が一人でみんなを看病する羽目になったのよね。彼女は吹き出す。彼は答える。ははは!そんなこともあったね。貧乏だったし、毎日が死と隣り合わせだったし、君に苦労もかけたけれど、その毎日が充実していた。ありがとうアンドロメダ。いえいえこちらこそ、私もロボットに生まれ変わってからの日々はとても充実していたわ。ありがとう。それでね・・・。ザザ・・・。あれ、通信が出来ない・・。ザザ・・・。距離が離れすぎてしまったみたいだ。ああ、これで僕は本当にひとりぼっちなのか・・・・。ザザ・・。ウェリントンさん!・・・。ザザ・・・。ほ・・・と・・・感謝・・・ままで・・がとう!こちらこそありがとう。今まで本当に楽しかった。彼は独り涙ぐむ。さて宇宙服の酸素もつきそうだな。この広大な宇宙の片隅にはちっぽけな魂が漂っていて、それが繋がったり、離れたり、また繋がったり。僕はまだ誰も見たことのないものを見たくてこんな母星から遠いところまで来てしまったけれど、後悔はない。・・・。苦しい。嫌だ・・・。死にたくない・・・。もっとやるべきことが俺には・・・。もっと生きていたい・・。ウェリントンは意識が混濁し、全身の血が沸騰したかのような熱い苦しさに襲われる。身体中が空気を求めている。空気が吸いたい。ああ、なんとしても・・。俺もカズエと一緒に母星に帰ればよかったのか。そんな人生の方がよかったのか。ああ、情けない・・。情けない・・・。

「バカっ何言ってんのよ。」ウェリントンは混濁した意識から急に目を覚ます。そこは古びた渋い匂いのする、狭い映画館のシアターだった。モノクロの古い映画が流れている。あれはローマの休日か・・・。隣に座っている人がウェリントンの右手に手を重ねる。それは彼の奥さんだった。カズエ・・・。安心してここは私達専用のシアターよ。私達を邪魔する者は誰も居ない。でも誰もが人生で通過する場所でもあるのよ。よく見ると画面に映っていたのはローマの休日ではなく、ウェリントンのこれまでの人生の記録だった。あなたと出会ったのは大学のキャンパスの並木道だったわね。あなたとてもシャイで、私から積極的にアプローチしたのだったわね。ああ、君の強気なところに惚れちゃったんだな僕は。この映画館はねあなたの人生そのものなの。人の人生とは一つの映画なのよ。人生の最期のエンドロールに自分の人生の醍醐味が、全ての意味が詰まっている。ここに来られる人は自分と自分が一番大切にしている存在だけなの。それで私が選ばれたってわけ。光栄だわ。カズエが微笑む。僕には結局君の言った通りバチが当たってしまったよ。宇宙は人間が背負うにはあまりに広大すぎる。それが分かったんだ。カズエが答える。そう、外の世界に比べれば映画館はあまりにもちっぽけなのよ。でもその映画がなければ外の世界だって味気なくなってしまう。本当はね。本当は、私達は一つなのよ。私たちの表面が、皮膚が外の世界と内面を分けているだけなの。彼は気づく。そうか!宇宙と自分とは同じものなんだ。ただ自分の皮膚が外界と内面を分けていただけなんだ!僕は人生という名の映画館に閉じ込められていたんだ!奥さんが答える。そろそろ映画も終わるわね。最後は喧嘩別れになってしまったけれど、たくさん苦労したけれど、あなたと一緒に居られた時間は、私にとって、とってもとっても楽しい映画だった。僕こそ、君に感謝しているよ。こんな遠い宇宙まで着いてきてくれてありがとう。さあ、あなた、宇宙人に会いに行きましょう。宇宙人?彼はおかしくなって微笑む。そう、宇宙人。人は人であることを捨てることによって初めて宇宙人になれるのよ。彼は尋ねる。宇宙の彼方には宇宙人の集いがあるのかい?そう。宇宙中から宇宙人が集まってくるのよ。でも君は子供達の人生を見届ける義務があるだろう。・・・そうね。私はまだ人を捨てられないわね。彼が答える。またいつか会おう。奥さんが答える。そうね。またいつか、会いましょう。彼はスクリーンの光の方へ歩いていく。光の中の人影がウェリントンに手を差し伸べる。」

僕はアイデアノートを閉じる。剣崎は黙って聞いていた。


人生の最後に自分の人生を映画にしてもらえたら嬉しいですよね。

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