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第4話 加藤

3500字くらいです。読んでいただけたら幸いです。

午後の授業を受け、玄関口へと歩いていると、後ろから何者かに突き飛ばされた。

「おい、誰が宇宙人だって?」

 振り向くとデブの加藤が立っていた。彼のシャツは破れてぼろ切れのようになっていて、ところどころ擦りむいて腕には包帯が巻かれている。

「何の用だよお前。」

「保健室に行ってきたんだよ。先生に包帯巻いてもらって、江口さんとも少し話した。」

「江口さんと?」

「江口さんは俺に宇宙人だって勘違いさせてごめんって言ってた。ほんとに悪い嘘つきはお前なのにな。何にでも責任を感じてしまう素敵な子だ。」

「なんでそんな満身創痍なんだよ。」

「あいつらが江口さんのことをサボりだって悪口いうから…それで喧嘩になって…リンチされた。」

 彼が取り巻きにリンチされたと聞いて、僕は少し笑ってしまった。

「なんで笑うんだよ!」

「いやごめんごめん。お前本当に江口さんのことが好きなんだな。」

 彼は熟れすぎてまずいりんごのように顔を真っ赤にした。僕は彼には見た目に似合わない純情さもあることを知った。

「良かったじゃない。自分に正直になって。江口さんは味方してくれる人が増えて嬉しいんじゃないの?」

「そうなのかな。」

「彼女孤独だから、誰も味方してくれないから、僕は彼女を支える杖になろうと思ったんだ。人を支える為の杖はいくつもあったらうっとおしいけど、それで足りないことはないと思う。」

 僕は彼と一緒に帰路についた。彼とどうとでもないことや江口さんのことをだべった。彼は思いついた冗談をすぐに言い、あまりその前に思慮深く考えることはない奴なのだということを知った。深い意味のない、冗談や世間話で、その場を明るく照らしてくれた。僕はなんだか、本当に江口さんが欲してるのは光を振りまく、こんなお日様のような純粋で明るいやつなんじゃないかとさえ思った。僕と彼女が重なってもジメジメしてもっと雰囲気が暗くなってしまうような気がした。もしかしたら彼女が彼と付き合うようになったら、彼女は人形になることを諦めてくれるかもしれない。出来たら僕は陰ながらそれを応援したいと思った。

 その日の晩僕はおばあちゃんと夕食を食べながら、今日あったことを話していた。

「おばあちゃん、僕、嘘つきかもしれないけど、でも誰かの為に嘘をついたよ。後、意外なところで友達が出来そうだよ。」

「そうなのね。きっとたかしは本当は優しいのよ。友達ができたのはあなたが良いことをしている証拠よ。まごころや優しさの隣には必ず誰かが一緒にいるものなのだから。あと、今本当のことっていうのは、実は時間が経てば、嘘になってしまったりもするからね。自分から誰かの為に嘘を本当にしていかなきゃね。」

「でも、僕はなかなか、誰かを照らしてあげられるような、太陽のような優しさは持っていないんだ。ジメジメしていて、自分の心の穴を誰かを助けることで埋めたいだけなのかもしれない。本当は自分のことしか考えてないのかもしれない。」

「自分の悩みや苦労は見せちゃだめよ。みんな明るい顔をしながら、誰にだって触れられたくない過去や話題はあるものだから。みんな闇を抱えつつ、誰かや自分のために明るく振る舞ってるの。誰かと本当に分かり合うことがその人のためになるとは限らないのよ。」

「僕は江口さんと分かり合ってしまったんだ。彼女の心の暗い奥底に入り込んでしまったんだ。どうしたらいい?おばあちゃん。」

「誰かと完全に分かり合えると思うことは、ある意味暴力なのよ。そして、依存されたり依存してしまうこともあるのかもしれない。だからその人の弱いところではなく、エネルギーというか強いところを促していかないと。それがその人の秘密を尊重するということじゃないかしら。」

「僕にそんなこと出来るのかな。」

「きっと出来るわよ。」

 おばあちゃんは優しく僕に微笑みかけた。

「ゲホッゲホッゲホッゲホッ。」

「大丈夫?おばあちゃん。」

「大丈夫よ。ちょっとご飯が喉をうまく通らなくて…。」

 その日僕は夢を見た。江口さんが加藤と話をしながら、明るくて、暖かい方へと歩いていくのだ。僕は逆の光が届かない、暗くてジメジメしているところに釘付けにされている。僕の手には江口さんに似ている人形が握られていた。

「二人共行かないで!」

 僕は汗をびっしょりとかきながら飛び起きた。

 その時、チャイムが鳴った。

「たかし、お友達が来てるわよ!」

僕が寝ぼけ眼で下の階に降りていくと、玄関には加藤が居た。

「よっ!おはよう、一緒に学校行こうよ!」

僕はにこやかに対応しながらも、加藤の明るさに嫉妬し、そんな彼を羨ましく思った。

「俺なんか教室に行きづらくて…もしかしたらあいつらがいじめてくるかもしれないから…。でも俺もお前をいじめようとしてたんだし。ごめんな、俺お前のことが羨ましかったんだ。」

「江口さんのことだろ?」

「そう、俺も江口さんの力になりたいんだ…。でも江口さんクラスで孤立してるから、なかなか勇気がわかなくて、そんな自分が嫌で…。」

「良かったじゃん自分に素直になれて。今日一緒に保健室行こうよ。江口さんもきっと嬉しいと思う。」

「そうかな…ははは、そうだといいな…えへへ。」

 僕らは二人で教室には行かず、保健室へ向かった。いつも玄関口を掃除している鷺浦さんが見当たらなかった。

「やーい、女好き、サボりのクズとデブが一緒にいるぞ〜!」

「帰れ帰れ、なんで社会不適合者が学校来てるの?」

 かつての加藤の取り巻きが冷やかしてくる。2年生の玄関口にいる他の同級生がくすくす笑っていた。僕らのことはもうすでにクラスで話題になってるらしかった。

「行こう。」

 僕と加藤は二人で多数派に流されず逆方向に歩いていった。孤立というのは人当たりは悪いけれど、隣にそれを共有してくれる人が居るだけで、安心できる居場所になる。これからは3人だけの秘密の居場所が出来あがるのだ。

 保健室の扉は空いていた。この時間はまだ保健医さんは来ていない。部屋の奥かから江口さんのすすり泣く声が聞こえる。

 僕はそれを聞き、嫌な予感で胸がドクドク脈打っていた。なんだかこの保健室のどこかに目に見えない透明な怪物が潜んでいるかのようだった。

 すすり泣きの方に二人は近づいていく。

「ごめんなさい、…もうやめてください…。」

「そんなこと言わないで、きっと気持ちいいから、ホラ、指を入れるよ…。」

 加藤が隅のベッドに恐る恐る近づいて行ってカーテンを一気に開けた。

 そのベッドの上には服を脱がされた江口さんと、それに覆いかぶさる用務員の鷺浦さんが居た。

 僕の頭の中は真っ白になってしまった。

 加藤が激怒して鷺浦さんに飛びかかる。

「何してんだてめぇ!」

 鷺浦さんは加藤にボカボカ殴られながらも、それをものともせずに加藤をぬいぐるみのように投げ飛ばし、加藤の首根っこを掴み、持ち上げながら両手で首を締め上げた。

「子供が生意気してんじゃないよ。」

 僕はそこから動けなかった。鷺浦さんに感じていた、なまなましさという透明な怪物が、一気に僕に襲いかかり、僕は蛇に襲われた蛙のように固まってしまっていた。江口さんは相変わらずシクシク泣いていた。僕らにこんな所を見られたのが相当ショックなのだろうと思った。

「田中…助けて…。」

 加藤から助けを求められても、僕は固まったままだった。口から文章にならない言葉の羅列しか出てこなかった。

「か…かとう…おれ…俺は……えぐち…江口さん。鷺浦さん…。」

「次はお前だからな、ガキのくせに生意気しやがって…お前ら二人共殺してやる。」

 その時、鷺浦さんの後ろから何者かが重い何かを振り下ろした。

 ゴーン!とすごい音を立てて、鷺浦さんは崩れ落ちた。

「うひゃあああ。」

 鷺浦さんは変な声を叫んで倒れ込んだ。加藤がその手から開放される。

「ゲホゲホオエッ!」

 鷺浦さんの後ろには、消化器を持った、担任の先生が居た。小さい目から涙を流して、鷺浦さんを睨みつけている。

「信じてたのに、あんたの事信じてたのに!」

 先生は更に鷺浦さんに向かって何度も消化器を振り下ろす。すでに鷺浦さんは気絶していた。騒ぎを聞きつけた何人かの先生や生徒が駆けつけて、僕ら3人は職員室に連れて行かれ事情聴取を受けた。相変わらず江口さんはシクシク泣いていて、僕は固まっており、加藤が見たことを断片的に喋っていた。なんだかもうかつての明るい江口さんや加藤とは二度と会えないような氣がしていた。


透明な怪物って、どこにでもいると思います。

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