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独りきりの部屋で

作者: 御伽人

   『独りきりの部屋で』


 部屋で独り。酒を呑んで寝ている。もう何もしたくない。悪夢のようなものだ。

 不安を拭うように、ネットにはまっていく。私は14才でこんな生活をスタートした。男に告白をされた事はあるが、付き合った事はない。

 ただアルバムを見て、告白してきた男はもう大人になったかなと、思ったけど、考えても仕方ない。

 酒を呑みながら、部屋で寝る。身支度はするけど、「下界」には行けない。たまにメイクをしてみる事もあった。似合わない。いくら着飾っても「下界」に堕ちていくぐらいなら、一生家にいたい。

 いい顔だと言われる。痩せているし、背もそんなに低くは無い。私はでも、鏡が割れそうなくらい自分を過去と重ね合わせる。

 14才の頃よりは大人になったと思う事にしている。ネットは生命を宿った生き物のように私を癒してくれる。ずっと茶髪にしている。髪は適当に切ってもらう。

 時を逃したようだ。もう外に行く気がしない。

 私は何時でもここにいたい。あの少年だけが思い出す。唯一の優しく、甘やかせてくれた。

 今もそうだけど。


「付き合って欲しい」

「私といても面白くないから」

そう言って、14才の悪夢のような中学生の最後の思い出だろうと思った。付き合ってみたかった。でも、私はもうここにはいられないし、付き合える自信がなかった。

「ごめんね。我侭で」

「そっか。大丈夫。慣れているからさ」

「泣いてもいいかな?」

「誰の為に?」

「さあね」

そうして強くハグをした。私を唯一認めた人だから。せめて、最初で最期のデートをした。と言っても、一緒に帰っただけだが。振っといてデートはないだろう。でも、初めて楽しいと思っていた。もう今日を過ぎたらと思い、正直に話した。

「明日から学校には行かないよ」

「そっか」

そんな会話を最期にした。初夏で、空模様は雨だった。桜は散った。あんなに綺麗だったのに。一生忘れないようにしようと思った。儚い花びらを涙に見立てて、また泣いてしまった。今度は自分で、ハンカチで眼を拭いた。私の中ではもう二度と咲かない花であった。いつかは、私も散る。独りきりで。そう思った。


 私は部屋で風呂に入り、ファッション雑誌をたまに読む。買いたい服をネットで買っている。サイズはあまりかわらない。死ぬ時はあの時見た桜の花びらを重ねて欲しい。

 また夢を見る。叶わぬ社会人の夢や本物の恋愛ごっこ。どちらも今の私に足りないものだ。酒を呑んで忘れようと思って呑んだ酒が、いつの間にか癒しになった。

 空に舞う雲も見る事を忘れた。光は青白く、私はいつの間にかここしか居場所が無くなった。外に出れば、もう完全に壊れるだろう。

 ずっと待っている。私を「下界」へと連れて行ってくれる人を。


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― 新着の感想 ―
[一言]  悲しい……。そして、何かを考えさせられるような作品でした。少女の退廃的な雰囲気がよく描写できていると思います。何て言いますか、その文章力に学ばされることも多かったです。没落や斜陽、退廃的な…
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