郭
一、不自由な生活はさせない
二、命に関わる仕事はさせない
三、手紙は半年に一回(精進により変更有)
四、電子機器の使用可能(監視あり)
五、一生を華灯で過ごすものとする
六、華火の家族を一生扶養援助する(必須月五十万支給)
等々
取り急ぎ気になっていた項目だけを教えて貰った。
隣に座っている征示は涼しい顔をして座っている。
黒塗りの高級車の座席はフカフカしていて落ち着かない。
「深月くん、いい弟さんですね」
「・・・俺と違ってあいつは優秀で優しいから」
『絶対、絶対迎えに行くからな。諦めんじゃねぇぞ陽向』
最後くらい兄ちゃんって呼べよ。
別れ際に泣くのを堪えながら深月はそう言った。
「では着くまでに色々説明しましょうか」
「・・・はい」
「これから君には華灯と言うところで華火として咲いていただきます」
「華・・・?」
「えぇ。難しい漢字の方ですよ。簡単に言うと遊郭で男娼として男を相手にしてもらうということです」
は・・・?
男娼って、遊女の男版だろ?売られるくらいだから普通じゃないとは思ってたけど、男を相手にする?
有り得ないだろ。
「華灯は容姿端麗で金を持ってる方しか来れない場所。中々繁盛してるんですよ。客は顔立ちも悪くないと思いますし、貴方が好きな客をとればいい」
「でも男を、ど、どうにかするなんて」
「男は妊娠する心配もなく、同じ性別だからこそイイところがわかる。それに、上流階級にいる方ほど女性に疲れているんですよ。自分自身を見てくれないならば偽物でも癒しが欲しいと」
「癒し?」
「・・・だから貴方たち、華火と呼ばれる男娼も先ずは見て呉れが良くなくてはならない。探すのに苦労しますよ」
探すのに苦労するって、やっぱり全部知っているんじゃないか。分かっていてやっているんじゃないか。
沸沸とまた怒りがわいてくる。
「他は、生活しながら覚えるか先輩にでも聞いてください」
「先輩?」
「貴方の他にも華火はいますからね」
俺と同じ様な境遇な奴らがたくさん。
コイツ、どんだけ腐ってんだ。
どうせぼろいホテルか何かで俺は過ごすんだろ。
そこで一生を終えるんだ。
そういえば・・・
「俺と深月、本当はどっちが欲しかった?」
「どうして?」
「深月を渡すのは嫌だけど、実際顔がいいのも頭がいいのもあいつの方だ」
「・・・そうですね。でも貴方が欲しかった」
「え?」
「貴方だから欲しかったんですよ陽向」
急に呼び捨てにされ甘い言葉を掛けられる。
俺が欲しかった・・・?
深月じゃなくて俺が?
きっと俺たち家族の素性は全て調べ挙げられてるだろう。
その上で俺を選んでくれたってこと?
「ほんと?」
「えぇ。嘘はつきませんよ」
「・・・そっか」
「はい」
不謹慎だけどちょっと嬉しい。
俺は売られて、征示は俺を買ったけど俺を認めてくれてる。
ちょっとだけ救われた気がした。
「さぁ着きましたよ」
そう言って降ろされたのは細い路地裏への入口。
此処?
スタスタと歩く征示を懸命に追いかける。
暗くて何も見えないから追いついていくのに必死だ。階段らしきものを転がらないように踏ん張りながら降りる。
甘い匂いが鼻腔を擽る。
「ぶっ」
「大丈夫ですか?」
征示の背中に思いっきりぶつかった。
痛い・・・。
って、門?
目の前には頑丈な門が聳えたち隣には門番らしき人が立っている。
なんだ此処・・・。
「さ、開きますよ」
ギィと重苦しい音をさせながら扉が開く。
光が漏れて暗闇に馴染んだ目が痛くなる。
「おいで」
手を引かれ一歩前に踏み出すと、そこは青空が広がっていた。
「空?」
「ここは地下なのであれはプロジェクターで投影させてますよ。夜にも夕にもなります。匂いや風も忠実に再現してます」
「地下!?」
「えぇ。地下に街を作った感じです。ほら真っ直ぐ行くと大きな広場みたいなところがあるでしょう」
「うん。なんかお祭りみたい」
「色々な出店が出てますよ。そして広場から五つの道が出てるでしょう?奥に進んでくと遊郭、華灯があります。左の道から十四から十七の【百合】。次が十八から二十三で【桃】。真ん中飛ばして次が二十四から二十八は【菊】。最後の【椿】が二十九から三十四までの年齢の華火がいる華灯」
「真ん中は?」
「主に私がいたり、それ以上の年齢の華灯がいたりと総本部のような場所ですね」
「へぇ」
「そして貴方は今日から陽向ではなく蓮。日向は捨てなさい」
日向じゃなくなる。
蓮。
此処での俺の名前。
「蓮は十八になっているので桃の華灯です」
「全部花の名前だ・・・。ねぇなんで俺は蓮って名前になったの?なんで征示さんはここ作ったの?」
「源氏名みたいなものですよ。直感的に決めた迄です。さぁ行きましょう」
言わないってことね。
この人はなにを隠しているんだろう。
こんな狂った場所を作った理由は?
その綺麗な笑顔を貼り付けて何を望んでるの?
桃の華灯に連れてこられて直ぐに女が着るような着物に着替えさせられた。
肩をだしてパンツも穿けない。
そういう場所なんだって嫌でも思い知る。
あーぶらぶらする。
落ちつかん。
華灯はすごく大きな建物で五階建て。
何百部屋あるんだってくらいのお屋敷みたいな場所だった。
一階は客用の入口と華火達が集団生活する為の大浴場、大広間など。
二、三階は客をとる部屋。致す場所。
五、六階は華火の自室。なかなか広いひとり部屋。
全て和室。テレビはなし。携帯は連絡機能が遮断され監視機器を内蔵されたらしいから実質出来ることは少ない。
着替えた後に連れてこられたのは入口。
この遊郭はコの字型になっていて中央には池なんかあったり桃の花が咲いていたり。
敷地の大門以外は檻のような、社会の教科書とか映画とかで見るような仕切りがあってその内側から華火が覗いている。
その手には一輪の花。
様々な男達が華火を見定めて花を受け取っていた。
そうか。あれが買ったっていうことか。
その後男は番頭のような人に小判のようなものを一枚渡して、華火には貰ったはずの花を返して二階に消えていった。
「では頑張ってくださいね」
「え!?」
「どうかしましたか?」
「もう行っちゃうの?」
「すみません、やる事が多くて。大丈夫ですよ、先輩方が教えてくれますから」
では。と言ってそのままスタスタと歩き去った征示。
嘘だろぉ・・・。
心無しかめちゃくちゃ見られてる気がするし。
怖い。怖い怖い。
「名前は?」
凛とした声に振り返ると美形な男がこっちを見ながら手招きをしていた。
ボーッと見惚れるくらいに整った顔。切れ長の瞳に薄い唇。赤い口紅が色っぽく映る。
「おいで、名前は?」
「ひな、じゃなかった蓮です」
すすすっと控えめに近寄る。ふんわりと甘い香りがした。
みんな綺麗だけどこの人は特別美しい。一歩引いたような場所で控えめなのに貫禄がある。
「何歳?」
「十八になりました」
「今日来たばかり?」
「さっき・・・」
「そうか」
切れ長な目を細めながら頬を撫でられる。
「俺は夏汀。連の面倒見てあげるよ」
「俺の?」
「そう。俺じゃなくて他の兄さん達がいい?」
悲しそうな顔をする夏汀にぶんぶんと首を横に振る。
よかったと安堵する夏汀はすごく可愛かった。
「ほら、お前らも見てないで声かけてやりなよ」
夏汀の視線の先には綺麗な人たちがこっちを見ていた。
「此処にいるのはごく一部。此処は広いからね。」
そう言えば部屋がいっぱいあるっていってた。その分だけいるんだろうか。
格子に仕切られた一階の見世はコの字型に広がっていて彩りどりの華が咲いている。
格子越しに遠目にみえるそれは本当に花が咲いてるみたいだった。
「なぁ、お前なんで来たの?」
「好きなひととかいない?」
「蓮可愛いなぁ。直ぐに人気になるから大丈夫だよ」
「そうそう心配すんなって」
「最初は不安だよね」
「なんでも聞けよ!」
綺麗な人たちが次々に話しかけてくれる。
ちょっと怖かったけど皆優しいって分かったら警戒心も段々薄らいでいった。
「あ!来たよみんな」
「じゃ、蓮あとでな!」
「え?」
急に皆一目散に格子に張り付いてしまった。
格子の隙間から花を差し出している。
その先にはこれまた格好いい男。
その男が可愛らしい華火の花を受け取っていた。
「あれが合図だよ」
「合図?」
「そう。花を受け取って貰ったら俺達は買ってもらえるの。お花は返して貰えるからそのまま自分でとっておく子もいれば、相手に渡す子もいる」
「へぇ・・・」
「好きな相手にだけ花を差し出せばいいんだよ?」
「え?でも、これが仕事なんじゃ」
「うん。でもいいんだって。自分が好きな相手の時だけ花を出すの。嫌な相手はこうやって花を出さずに見てればいい」
「じゃあずっと嫌だったら花を出さなきゃいいんですか?」
「まぁね。誰かを相手にした次の日と体調が悪い日以外は毎日見世には出なきゃいけないけど、誰かに買われないといけないわけではないかな」
ならこのままずっと後ろに下がって見てればいいんじゃないか。
本当に俺に嫌な暮らしはさせないんだ・・・。
「でもね、相手にすればするほどご褒美が増えるよ」
「ご褒美?」
「働くからこそ罪悪感や後ろめたさなく欲しいものや要望を伝えられるし、誰かに手紙を書くことも出来る。それに噂では電話も出来るんだって」
「誰かって家族にも!?」
「そう。出来ることが増えるかもしれない、自分の頑張り次第で」
「頑張り次第・・・」
「ここに来る間に出店があっただろ?好きな時に遊びに行けるんだけどその商品は華火は全部タダなんだよ」
「タダ!?」
「うん。それは他の華火たちが頑張っているから成り立つシステムなんだよ。そう考えると頑張るしかないでしょ?」
なんとなく夏汀さんには俺の考えてる事がバレた気がした。
お前も頑張れと言われているような。
でも責められてる気はしなかった。
「蓮。突然連れてこられた場所で有り得ない様なことをさせられるなんて混乱してると思うし受け入れるのにも時間がかかると思う。でも俺も、俺達もいるから頑張ろう。・・・守りたい人達がいるんだろう?」
真剣に泣きそうな顔で訴えかけられた言葉。
そうだ。守るんだ。
頑張んなきゃ守れない。
嫌なことはさせないんじゃない。自らするしかない。
夏汀さんも皆も守る人達がいるから頑張るんだ。
頑張っている間は保証される未来。
「はい。頑張ります」
「いい子だ」
よしよしと撫でられるのはいつぶりだろう。
心地よくて擽ったい。
「あ、まやだ!!」
「まやーーー」
「まやー久しぶりー」
一際大きく上がった歓声に興味を惹かれちらりと覗き見をする。
「おー久しぶりだな」
そこにいた男はスーツ姿でオールバック。デキる男が代名詞のような格好いい男。
そしてどこかで見たことあるような顔。
あ、宝石売ってる人だ。
テレビで見たことある顔。テレビで見たのは怖い顔だった。冷たそうな瞳で周りを見ていた。
でも今目の前にいる男の顔は穏やかで優しそうだった。
「なに?まやが気に入った?」
「え!?そうわけじゃ」
「結構顔もいいし優しいと思うよ多分」
「多分!?」
「だって俺あいつとは寝たことないし、ま、気になるなるなら花出してみな」
はい、と渡された一輪の薄紫色の可愛い花。
花と夏汀さんの顔を何回も見比べるとウインクされて蹴り出された。
・・・案外実力行使だな。
まやと呼ばれた男はちょっと先で先輩達と楽しそうに話している。
その間にも花はひっきりなしに格子から飛び出てくる。
人気なんだなぁ。そんな人が俺の花を受け取るなんて有り得ない。そう思うと、軽い気持ちで練習くらいの気持ちで花を出してみようかなと思った。
周りの華火の真似をしてみる。
お花を格子から少し出す。
皆はまやまやって甘い声で呼んでる。
ちょっと初対面なのにそれは無理。
段々まやがにゃーにゃー言ってるみたいに聞こえてきた。
「にゃー・・・」
・・・なっかなか恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。にゃーってなんだ、にゃーって!
「にゃー?」
「違います違うんですこれは」
誰かのからかい声に意味のない否定をしようと顔を上げる。
そこにいたのはにゃーと呼んでみたまやがいた。
き、聞かれてた。
皆もこっちを見ながらにたにた笑っている。
すっごく恥ずかしい。小さい声だった筈なんだけど。
「結構大きかったよ?」
「・・・すみませんもうやめてください」
顔から火が出そうだ。
なにが練習だ。なにがにゃーだ!!
「なぁ、花貰ってもいいの?」
「え?」
徐々に引っ込んでいた手。
花は格子から出ているのか微妙な線。
どうする、俺。
この人に渡しちゃうのか?
それともやめる?
「紫君子蘭、か・・・ねぇ俺に可愛がらせて?」
ぐるぐるしていた頭の中がピタリと止まり真っ白になる。
だって、あんな好きな人を見る様な目で言われたら断れない。
しかも凄く格好よくて人気な人に。
気づいた時には花は男の手の中にあった。
タンっと襖が閉まる音が耳に響く。
部屋の中には俺を買った男。
俺、今日初めて・・・---
「お腹空いてる?」
「へっ!?あ、え?」
拍子抜けする質問にぐるんと振り向くと座布団に座りながらこっちを見ていた。
「なんか食べようか」
「でも」
「お腹空いてない?」
「お腹は、空いてるけど、あのそんな事していいんですか?」
「いーのいーの。お腹すいてるなら良かった。頼んでくれる?」
「た、頼む?」
「客と一緒に飯食べるの初めて?」
「・・・ご飯も、来たのも今日が初めてです」
にこやかに話してたまやが固まる。
やっぱり初めてって面倒臭い?前になんか女子が騒いでた気がする。あ、それは処女の話で男は関係ないのか?
なんとなくいたたまれなくなってギュッと手のひらを握りしめた。
「そう。じゃあ、廊下にサングラス掛けた男の人がいるからその人に食事二人前頼んで」
「は、はい」
「嫌いなものある?」
「・・・大体食べれます!」
「大体以外は?」
「あっと、レバーと、那須が少し嫌い・・・苦手です」
「それも忘れないで伝えて」
スッと襖を引くと確かにサングラスを掛けたスーツ姿の男が巡回していた。
従業員みたいなものなのかな。
恐る恐る話しかけると強面な雰囲気とは違い気さくに話してくれたので何とか頼むことが出来た。
何もわからないと人に頼むのも大変だ。
しかも教えてもらうのかお客様って・・・。怒ったらやばくない?
「今日来たってほんと?」
「はい」
「へー・・・名前は?」
「蓮、です」
「蓮か。俺は真椰律希」
「真椰って名前じゃなかったんですね」
「まぁ皆好きに呼ぶし、呼びやすいんじゃない?」
そんな話をしている間に食事が運ばれてきた。
お造りの様な結婚式でしか食べたことのないような懐石料理みたいなもの。
めちゃくちゃ高いんじゃ・・・。
勧められるまま食べてみると今まで食べたことないくらいに美味しくて夢中になって食べた。
真椰に料理を譲ってもらうくらいには美味そうにほうばってたんだろう。
食事も終わると真椰は日本酒を俺はオレンジジュースベースのカクテルを呑みながら話をしていた。
「お酒初めて飲んだ・・・」
「え?初めて?」
「だってまだ未成年だし」
「偉いなぁ」
「でも美味しいです」
「カクテルだからジュース感覚で飲めるしね。あ、蓮」
「はい?」
「注いで」
ずいっと差し出される御猪口。
そうだ、この人はお客様だ。俺の方が至れり尽くせりでなにやってんだ。
お酒を注ぐのはやった事ある。父さんと母さんが晩酌が好きだったから。
一緒にお酒呑みたかったな。
「へぇ、やった事あるの?」
「まぁ・・・あの、すみません、俺真椰さんをおもてなし出来てなくて」
「いいよ。てか俺で色々覚えな。ちゃんとは君の先輩に教えてもらうべきだけど、やってもらったことや嬉しかったことは蓮に教えられるからさ」
「・・・ありがとうございます」
「ん、いい子」
さっき両親を思い出したからだろうか。頭を撫でられた感じがなんか、堪らなくなって涙が零れた。
「どうしたの」
「す、みませっ、なんでも」
「何でもないわけないでしょ」
困った顔をする真椰。
どうしよう。早く泣き止まなきゃ。
泣いたって何も変わんないんだ。困らせるだけだ。泣くな俺。泣きやめ!
「こら、目を擦んな」
手を掴まれ顔を覗き込まれる。
途端に恥ずかしくなって抵抗してみるけど出来るのは顔を逸らすことだけ。
「はぁ」
「・・・すみ、ません」
溜息が俺に重くのしかかる。
呆れられた?怒った?
でも真椰は困った様に笑っているだけだった。
さっきから困らせてばっかりだ。
「泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ」
「俺が悪いから、真椰さんのせいじゃないです」
「そうかな」
「そうです!」
こんな良くしてもらって悪いわけあるだろうか。
「蓮はさ」
「はい」
「どうして此処に?」
「それは・・・」
“売られたから”なんてどうして言えるのか。
事実だけど言いたくない。
「・・・そっか」
察してくれたんだろうか。
周りの華火も似たようだと聞いたから。
「悪いこと考えちゃ駄目だよ」
「悪いこと?」
「復讐、とかね」
「なんで?」
すんなりと自分でも知らないうちに声が出た。
でも、なんでダメなの?
悪いことなの?
今まで溜めてたものが一気に口から吐き出される。
「俺たち悪くないのに?」
「蓮」
「悪いのはアイツだ、俺たちを騙してバラバラにして苦しめて」
「やめろ、蓮」
「復讐して何が悪い!?俺はアイツを絶対に許さない、いつか殺して」
「蓮!!」
ガッと喋れない様に口の中に指を突っ込まれた。
なんで?真椰も征示の味方なわけ?
「駄目だそれ以上は言っちゃ」
何も知らないくせに。俺たちの痛みが分からないくせに。
ギリギリと真椰の指を噛み締めていく。
顔を歪めながらも指は口からだそうとしない。
言うことすら赦されないの?
ずっとお人形でいるしかないの?
俺は人間じゃなくて花として枯れるしかないの?
「う・・・ぅぅぅぅ・・・」
唸り声のような俺の声が部屋に響く。
出したくない涙がぽたぽた落ちる。
首が頭を支えきれず項垂れる。
ゆっくりと警戒するように口から指が出されたけどもう叫ぼうとは思わなかった。
そんな気力はなかったし、真椰の指が内出血で酷いことになっていたから。
「歯型綺麗についた」
「・・・」
「痛いね」
「・・・」
「でもお前はもっと痛いんだろ?」
「・・・え?」