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【初作品】DAO ~私鋳貨と異形による国家崩壊~  作者: Geppetto
Demons Are Operating ー 悪魔の手引き
95/108

91(見極)

 一方その頃――。

 王城の東側、瘴気が薄らと漂う荒れ果てた石畳の道を、レオンたちは慎重に進んでいた。つい先ほどまで交戦していたゼレファスの残骸が、黒煙とともにくすぶっている。大小様々な異形の死体が焼け焦げ、辺りには焦げた肉の臭いが鼻をついた。


「……また現れたが、手慣れてきたな、俺たちも」

 ザモルトが斜めに刃を振り払いつつつぶやいた

「だが油断するなよ。鱗の硬さといい、しぶとさは侮れん」

 ゲルハルトが警戒の目を周囲へと向ける。


 そのとき、イレガンがふと空を仰ぎ見て立ち止まった。

「……見ろ、王城の上空……」

 誰かの声に導かれるように、全員が一斉に顔を上げる。そこには、重く垂れ込める雲を突き抜けるように、異様な瘴気の渦が塔から湧き上がっていた。


「……なんだ、ありゃ」

 ザモルトが呻くように言い、視線を走らせた。

 南の山影、そして北の街道――

 王城を囲うように、幾筋もの行軍の列が進んでいるのが見て取れた。旗を掲げた軍勢。規律ある歩調。明らかに、討伐隊の動きだった。


「いったい何がどうなってやがる?」

 ザモルトが半ば独り言のように呟いた。


「情報収集が必要だな。こちらも動かないと不利になる」

 ゲルハルトが低く言い、振り返った。

「……俺が行こう。南の奴らを見てくる」

 リオスがそう言って、無言で身を翻し、影のように姿を消していった。


「残った俺たちは、周囲の安全確保だな」

 ゲルハルトが短く指示を出す。

 その矢先だった。


 瘴気の中から、ぬらりと姿を現す黒い影。

 ゼレファス第四世代――。


 ひと回り大きな体躯と異様に鋭い目つき、鈍く光る鱗に覆われた体が、こちらを見据えていた。その背後には、数体の六世代の群れも控えている。


「来た……。あの図体……ひと回りでかい。知能も高そうだ」

 イレガンが槍を構えながら前に出た。

 ゼレファスが咆哮と共に跳躍する。鋭い尾が空を切る。しかし、イレガンの体はそれを紙一重でかわし、反撃の一閃が鱗の隙間を穿つ。すぐに構え直し、咬みつきをいなす。


 「重くなった……が、それだけだ」

 一撃、二撃、そして三撃目で脳天を真っ二つに割り、ゼレファス第四世代は地面に崩れ落ちた。


 「……やっぱ、でけぇ分、やり応えがある」

 同時にザモルトが叫ぶ。「油断すんな!尾が速ぇぞ、警戒しろ!」


 他のゼレファスも襲いかかってくるが、既に備えていた面々が素早く応じる。

 ザモルトは咄嗟に割れた街路の隙間に罠として剣を差し込み、追ってきたゼレファスの脚を絡めて転倒させる。


「今だ!」

 リオスが戻ってきたタイミングで弓を引き絞り、矢を放つ。

「……眼を狙う!」

 矢はまっすぐに飛び、ゼレファスの単眼を貫いた。悲鳴と共に地に倒れる化け物。


 残った六世代の2体は、イレガンとゲルハルトによって、一蹴されるように斬り伏せられた。

「ふう……全滅か」


***


 リオスが戻り、討伐隊がシグルド王とベルド神官長らによって編成されていることを報告した。そして王都を離れてから起こっていた、城内での惨状も。


 レオンが周囲の様子を確認しつつ、城を見上げた。

「まさか……ミリアが……処女懐胎……だと?」

 レオンの顔には、複雑な困惑が浮かんでいた。

「……彼女は、城内に入った時点で、不穏な気配を宿していました」

 ゲルハルトが淡々と語る。

「おそらく……心核の影響を受け、悪魔の傀儡と化していたのでしょう」


「ミリアは無事なのか?」

 レオンの表情が変わった。強ばった眉、わずかに開いた口元――心の奥に沸き上がった不安が、そのまま顔に現れていた。

 ゲルハルトはレオンの問いに一瞬ためらい、慎重に言葉を選ぶように口を開いた。

「それは、現状では確かめようがありません。……おそらく王城内を実際に確認してみるほか、手立てはないでしょう」

 その声音は冷静だが、内に緊張を孕んでいた。


 そのやりとりの傍らでは、リオスとザモルトが密かに作戦の細部について言葉を交わしていた。二人の表情は厳しく、緊張感が漂っている。

「じゃあ……おれたちはこのまま東側を押さえれば、包囲が完成するってわけか」

 ザモルトが肩を鳴らしながら言う。

「……やるしかねぇだろ」

「レオン様の安全が第一ですが、王位が……王国が揺らいでいる今……静観は悪手かと。ここは動くべき時です」

ゲルハルトが厳しく応じた。


 レオンは静かに前へ出て、城を見据えた。

「ミリアがこうなってしまったのも、すべては……心核の啓示に従い、私が選択を誤った結果にある。……だからこそ、自らの目で、真実を見定めなければならない」


 一行は、瘴気の満ちる石畳の道を、ゆっくりと東門へと向けて歩みを進めていった。

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