06(病態)
古びた納屋のなか、乾いた藁の上に横たわる婦人――イレナの目は閉じられ、既に数日は霧の中を過ごしていた。
「……どうしても治らないの」
ミリアが絞るような声でつぶやく。
「母は……信仰が深くて、毎日のように神殿に通っていたんです。少しずつ目が悪くなってからも、回復を望んでイシュメルの“浄眼の祈祷”を欠かさず……。
でも、徐々に霧がかかったようだと言って…見えなくなって……痛みもあるみたいで」
レオンは眠っているイレナを確認すると目を伏せ、思案しながらうなずいた。
「……それはおそらく“光晶性視膜病”。浄眼の儀式に使われている光は、人工の光で長く晒されると、徐々に視界が曇ってきてしまう」
ミリアは目を見張った。
「神殿では神罰が下ったのだと……それは……神罰ではないの?」
「いや。むしろ、神を騙る者の偽りの光に晒された結果だよ。これは、神の意志ではなく、人の罪だ。治療方法は明らかではないが……」
レオンは懐からラウルの心核を取り出す。
石の奥から滲む、金色の光がミリアの手元を照らした。
「この石に示されるのが、真実なら……治療することができるかもしれない」
すると石は淡く光った後
『フィレアの花を携えて来たれ』
と内部に言葉を記していた。