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【初作品】DAO ~私鋳貨と異形による国家崩壊~  作者: Geppetto
Demons Are Operating ー 悪魔の手引き
76/108

72(凶手)

 薬草の匂いが漂う中、レオン一行は準備を整えていた。リシェラの手による、正規通行許可証を持つ交易商──エドワルド・カルヴァン宛の紹介状が出来上がった。

「――では、この紹介状を見せれば、おそらく護衛を装って商隊キャラバンへ同行できるはずです」

 リシェラは言いながら、封蝋に指を当て、ほんのり微笑む。


 次の日、正午を少し回ったころ、一行はガルドランにたどり着き、ある屋敷を訪ねた。重厚な木戸をノックすると、エドワルドが快活に現れる。彼は中肉中背、深褐色の短髪に無精ひげ。商人特有の厚手コートと革手袋が特徴的な男で、王都でも名の知れた交易商だった。


「リシェラ様の御紹介ですか。お待ちしておりました!」

 紹介状を手渡すと、エドワルドは中身を眼で追い、にっこりと頷いた。

「ふむ。これは間違いなく本物だ。護衛として同行は可能ですが――絶対に顔を知られてはなりませんよ。交易商と共に行く“品物”だと思われるのがよろしい」

 レオンが真顔で返す。

「わかりました。その上で、隊列には決して隙を作りません」

 エドワルドは軽く拍手し、先を告げた。

「明日の朝早く出発予定でしたが、昼過ぎに出馬すれば、中継地であるサンデル村には日暮れまでに着ける見込みです」

 一行の緊張は解け、感謝の声がこだまする。

「ありがとうございます。貴方の信頼に応えます」

 エドワルドがふと笑いを浮かべ、尋ねる。

「ところで着いた先、東方帝国で拠点が必要じゃないですか? 安く寝泊まりできる場所なら心当たりがありますが、どうです?ご紹介しましょうか?」

 仲間たちが一斉に顔を見合わせ、嬉しげに頷く。

「ぜひお願いします!」


***


 しかしその頃、暗い影が動いた。

南方へ向かう一行の足取りを追っていたマウリクスの刺客が、情報源へ辿り着いていた。エドワルドの屋敷近くを調査し、暗殺態勢もすでに整いつつある。

「商隊に紛れ込んだ“王”一行か――」

 命令を受けた刺客は、冷たい眼差しを浮かべながら夕闇に消えた――。


***


 早朝、王城内。

 レオン一行の情報は、早馬によってすぐさまマウリクスに伝えられていた。

「東へ向かうのは予想外だ。奴が南にいる今しかない。追手を急がせろ。ガトラント領内で“事故”を演出する」

 マウリクスは一枚の地図を指差した。そこは交易路の分岐点――馬を止めさせるにうってつけの場所だった。

「“護衛”に紛れているとなると、強引に殺るしかあるまい。馬を止めさせ、一気に包囲して射抜け」

 刺客のひとりが口を挟んだ。

「ですが、レオン一行の馬車は三台。荷の量は少なく、旅人風の扮装ではあるものの、並の護衛より動きが鋭いと……」

「ふん、ならばなおさら囲むしかない」

 マウリクスは苛立ちを隠さず、拳を机に叩きつける。

「護衛同士の戦闘に見せかけろ。正規通行証があろうと、死人に証明はできん」


***


 一方そのころ、レオン一行はエドワルドの指示通り、昼過ぎに旅路へと出発していた。

 列は馬車三台を中心に構成されていた。馬車には交易品が多く積まれ、それぞれが布に覆われていたが、中には調理器具や乾燥薬草、金属部品などがちらりと覗く。

 レオンとゲルハルト、バロム、エメルはそれぞれ馬車に随行し、交代で荷を監視していた。武装こそ控えめだったが、目線と姿勢に隙はない。

 一方、隊列の外側にはイレガン、ザモルト、リオス、カレリアが散開。彼らは馬を乗りこなして常に外周を監視しつつ、隊列の死角を埋めていた。

 

 ザモルトが小声でつぶやく。

「……本気で襲う気なら、あの分岐道が怪しいな。馬車の車輪が軋む場所だ。速度も落ちる」

 イレガンが鋭く頷く。

「囲まれたら、外にいる俺たちが要だ。まずは動きを止めず、押し返す」

 リオスは短く笑った。

「楽な旅にはならなそうだな、こいつは」

 その背後で、エメルがそっと積み荷の袋を抱えながら、静かにぼやいた。

「なんで荷の傍なんだろ……」

 バロムがニヤリと笑いながら肩を叩く。

「商隊の荷は命だ、エメル。お前が一番頼りになるってことさ。怖じ気づいて、またこそこそ隠れるなよ?」

エメルは目を見開き、わざとらしく胸を押さえて「それを言わないで」と大げさにのけぞる。

 レオンは遠くの山稜を見つめながら、そっと呟いた。

「行くぞ。どんな障害があろうと、必ずネミナを見つけ出す」

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