62(冒涜)
礼拝堂の高窓から射し込む光が、彩色ガラスの中で歪み、血の色に染まっていた。
ミリアの信徒たちは、神の影を映す空間を踏み荒らした。
イシュメルの目――それはかつて祈りの中心だった象徴。
だが今、狂信者のひとりがその目の中心に鉄棒を突き立て、亀裂が放射状に走る。
***
灰色の霧が漂う朝、石造りの旧教会は静けさの中に佇んでいた。
鐘楼にかすかに響く足音――それは祈りを捧げに来た者ではなかった。
黒い衣を纏ったミリアの信徒たちは、静かに祭壇に近づき、十字を切る振りをしてから、静かに刃を抜いた。
司祭は抵抗すらできぬまま、礼拝台に額を打ちつけられ、聖典と共に血の海へ沈んだ。
石壁に彫られた「イシュメルの目」は、信徒の斧によって幾度も叩き割られ、最後には眼窩のようにくぼみ、闇の口となって笑った。
***
“イシュメルに祝福あれ。”
跪いてそう唱えていた首が、次の瞬間床に転がっていた。
旧教会の扉は破壊され、ミリアの狂信者たちがなだれ込んできた。
その目は濁り、口からは泡が垂れていた。まるで操り人形のようだった。
狂信者は剣を振り回し、イシュメルを唱える者の首を払っていく。
悲鳴と笑い声が混ざり合い、床に転がった死体が踊るように痙攣する。
そして、城内の暗がりでミリアが身を横たえていた。
腹が、どくん……と脈を打つ。
「嬉しいんだね、ゼレファス……」
彼女は目を細め、背を反らした。
その胎は、内側から火照るように――まるで喜悦に打ち震えるように――じんわりと、熱くなっていた。