51(陰趣)
In primis, erat puer.
其の子は、愛せし者の名を忘れし時より、扉の音を聴きたり。
「――望み、汝にあらば、汝の最も深きものを、わが黒布に封ぜよ」
かくて、**B⸺⸺lna⸺⸺**は現れたり。
…指より滴りし赤にて、契約の印は刻まれぬ。
(挿絵:古代契約書の上に滴る血。子どもらしき影が羊皮紙に口づけしている)
Et lux in tenebris non apparuit.
予言は吐かれ、夢は燃え
彼の子、涙に暮れ、荒れ地を彷徨う。
…なれど、そはすべて、既に定められし「破滅」への道なり。
薄明の地にて、第二の声甦りたり。
「破壊は我が悦び」
「塵となれ。骨を枕に、夢を屍にせよ」
…誰か、其の名を…
(挿絵:墓地と骨、鱗に眼球。名前と思われる部分が黒く焦げて消えている)
…そして二柱は
影に潜みて世界を蝕みぬ
(挿絵:名なき墓。正面に大きな影が一つ。中、小含めた多くの影に囲まれている)
最も深き暗黒の底より
染み出づる声あり
「我が名は、記されずとも、汝の内に在り」
黒き頁のうらに、小さく刻まれし文字がある。
Z_E_
ミリアはページの端に、焦げ跡と埃の下から一文字ずつ拾い集めていく。
R_E_P_H_A_
子供の筆跡のような震える手で書かれた言葉が、断片的に浮かび上がる。
最後の一文字「S」が、裏表紙の内側に爪で刻まれていた。
それを読んだ瞬間、ミリアの喉から、止められぬ声が漏れた。
「……ゼレファス」
地下書庫の空気が震え、蝋燭が音もなく消えた――