03(解放)
月明かりが、苔むした城壁の隙間から射し込む。
鉄格子の錆びついた影が床に落ち、夜の牢屋は静寂に包まれていた。
かすかに聞こえる、向こうの見張り小屋からのいびき――今夜も、看守ハウルは酔っている。
指先で震えを抑えながら、匙の柄を差し込み、ゆっくりとテンションをかける。
(レバー鍵は…4段。2番目と4番目が重い…)
薄く削った木片を滑り込ませ、レバーをひとつずつ探っていく。
石壁の冷たさと、心臓の鼓動だけが身体を支配していた。
「…カチ」
一つ。二つ。レバーが正しい位置で止まるたび、小さな確信が胸に灯る。
三つ目に差し掛かったとき、不意に向こうのいびきが止まった。
(――まずい…起きたか?)
全身を固める。牢の外、木製の椅子がギシリと軋んだ音がした。
だが、数秒後、再び重く眠るようないびきが戻る。
(……焦るな。あと一つ)
指先の感覚を頼りに、最後のレバーを撫でる。
抵抗の先に、小さな沈みを感じた。
「……今だ」
柄を押し上げ、テンションを強める。
一瞬の静寂。そして、
「ガチャリ」
重たくも鈍い音が、牢の扉から響いた。
静かに、慎重に、鉄格子を押すと、「ギィィィ……」と軋む音と共に開いた。
冷たい夜風が、外から吹き込む。
月明かりが彼の手を照らした。
レオンは一度だけ牢を振り返った。
過ごした日々、刻まれた痛みと屈辱、そして――
「北へ……赤い外套の少女に出会わなければ」
そして彼は固い決意を持ち、月光を背にして城壁の陰へ駆けた。
夜は静かに、しかし確かに彼の脱出を祝福するように、風に歌っていた。