01(決意)
レオンは膝を抱えたまま、静かに天井の月明かりを仰いだ。
その手には、こぶし大の、透き通るような輝きを湛えた石。彼はそれを「ラウルの心核」と名付けた。古代の賢者「ラウル」が死の間際に遺した真実の核心をこう呼ぶ。
淡く光り、不思議な透明度と重みを持つその石は神秘的で、暗紫色の影で示された十の夜の文字を見つめた後、両手で包み込むようにぐっと抱きしめていた。
しかし——今は隠さねばならない。
看守ハウルの目が警戒を孕んでいる。小さな異変も、脱獄の意志も、何かを見逃せば死に直結する。
レオンは、粗末な藁の寝床に目を向けた。
糞尿にまみれ、悪臭を放つその藁を少しずつ手繰り寄せ、中央を手のひら大にくり抜く。中にラウルの心核をそっと納めると、周囲の藁を丁寧に戻し、外見を自然に整えた。
石には泥と灰をまぶし、光を反射しないよう表面の輝きを消してある。誰かが手を突っ込まない限り、見つかることはないはずだ。
「……今は潜めておこう」
レオンはかすかに石へ囁くと、再び足を抱えて背を丸めた。
まるで、自身の未来を抱きしめるように。
(……この石に自分の命運を委ねるしかない)
レオンは脱獄を決意する。そしてその夜から、レオンの「沈黙の十日間」が始まった。