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26(処刑)

 ──その日、王都は早朝から異様な熱気に包まれていた。

 処刑場は城内でなく、城壁近く、かつて反逆者の血が幾度も染み込んだとされる古き石畳の広場。

 民衆が押し寄せ、喧騒と緊張が空気を重くしていた。


 中央に設けられた高台。そこには既に三つの処刑台が並び、それぞれに縄がぶら下がり、あるいは血を拭ったばかりの斧が静かに光っていた。

 壇上に立ったのは処刑執行官と、宣告を司る王国審問官。その手には王印を刻んだ罪状書が握られていた。


「──今ここに、国法により三名の大罪人を裁く!」

 重々しく読み上げられる声が、場の空気を凍らせる。


「一人目、元看守ハウル!」


 黒い布をかぶせられた男が引き出される。ハウルは顔に打撲の跡を残し、縛られたまま足を引きずっていたが、歯をむき出して吠え立てていた。


「罪状──脱獄幇助未遂。王命により拘束していた“死刑囚レオン”を、看守中に酒に酔い、居眠りし、逃亡を許した。これにより王の威信を著しく損なわせた!」

「違う!あの野郎が!アイツが勝手に──!」


 縄を引かれ、処刑台に押し倒されるハウル。最後まで口汚くレオンを罵り、目を血走らせて叫んでいた。

「ぶっ殺してやる、レオンッ!見ていやがれぇ──ッ!」


 だがその声は、処刑人が静かに振り下ろした斧の音で断ち切られた。

 ドシュッ。

 鋭い音が辺りに響き、一瞬で首が飛んだ。頸動脈から拍動して噴出する赤が、石畳を染める。


 喧騒は一拍遅れて沈黙へと変わり、群衆は息を呑んだ。悲鳴も、歓声も、どよめきもなかった。

 風の音だけが、高台を吹き抜けていた。


「──続いて、元宰相。シグナス・ユリシオン」

 王国審問官が再び高らかに罪状を読み上げる。


「罪状──第一級の国家反逆。“燐光の挙兵リンコウのきょへい”と名付けられた私兵団を組織し、王命に背いて重要人物──“ネミナ・エルディス”の誘拐を企てた。加えて、兵との交戦により複数の兵士が死亡。これらを総じ、国家転覆未遂と認定する」


 白髪混じりの長髪を背に、シグナスは黙して処刑台に立った。

 鎧も羽織らず、ただ深い赤の法衣に身を包み、その顔には後悔でも怒りでもなく、ただ静かな憂いがあった。

 頭を垂れ、眼差しは地平を見つめていた。


「……彼女だけでも、救えていればな……」

 呟いたその言葉が誰の耳に届いたかは分からない。

 処刑人が斧を持ち上げた──その瞬間。


「やめろぉぉおおおおッ!!」

 閃光のように現れた影が、処刑台に躍り出た。


 フードの男。群衆がざわめく。彼の手には短剣が握られ、護衛兵を一人、二人と斬り伏せながら壇上へと駆け上がってきた。


「退けッ!その命、絶たせてなるものか!」

 叫びながら処刑人に斬りかかる。シグナスの鎖を断ち、体を庇うように前に立った。


「シグナス様、俺はあんたに救われたんだ!今俺が……命を懸けてあんたを助ける」

 兵士たちが次々に処刑台を取り囲み始めた。弓兵が矢をつがえ、矛が光る。


「ここで死んでもいい……でも、絶対にあんたをこのまま殺させやしない……!」

 白昼の処刑場、血と決意が交差する。

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