23(対峙)
セリアスは厚手の蒼い神官装束をまとい、騎士団を伴って集落に足を踏み入れた。
黎明の光と呼ばれるこの集団の調査を、王は“異端の芽を摘むための視察”と称して命じたが――
(何かが違う)
その直感は、集落の空気に触れた瞬間に確信へと変わった。
信者たちは神官と騎士団の威圧に怯えるでもなく、彼を“待ち望んでいた存在”として迎える。
「神官様だ――!預言のとおりだ!」
その一声を皮切りに、群衆がざわめき始める。
「見よ!クリス様は言っていた。神官が裁きに来ると!」
「預言は成った!神の導きが証明された!」
セリアスの眉間に深い皺が刻まれる。
(――これは罠だ。私の行動すら、奴らは計算していたというのか)
私兵団の統括ダグラス・ヘルヴィンは信者たちの称賛の中、静かに一歩踏み出し、セリアスに目を向ける。
「ようこそ、神官様。光の真実を見届けに来たのですね?」
セリアスは答えず、ただ黙してその場を離れた。
この場で刃を抜いても、彼の正義は群衆の信仰に飲まれてしまうと悟ったからだ。
王城に戻ったセリアスは、すぐさま王に進言した。
「この集団は確固たる宗教的信念を持ち、予言という仕組まれた思想によって統制されています。
クリスという男は、姿を見せることはありませんでしたが、逃亡中のレオンでほぼ間違いないでしょう。クラウスの護衛であるダグラス・ヘルヴィンを私兵として確認しました」
王の顔色が険しくなる。
「放っておけば、民の信仰がこの王都から離れるぞ……早急に始末せねばなるまい」
***
一方その頃、黎明の光では“新たな儀式”が始まっていた。
クリスが壇上に立ち、民の前で高らかに宣言する。
「今こそ、新たな時代が始まる。我らはもはや“黎明を待つ者”ではない。闇を裂き、光をもたらす者として――今ここに“ルクス教”の誕生を宣言する!」
信者たちの歓声が爆発する。
「ルクス!」
「クリス様!!」
「我らこそ、真の光!」
クリスは、静かに目を細める。
(民が信じるのは、力でも正義でもない。信じられる“物語”だ。それを与えた時点で、勝負はついている)