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16(教団)

 古びた礼拝堂の祭壇奥、ラウルの心核がふたたび淡い輝きを放った。


『偽りの仮面を被り、剣を集え。盾を鍛え、時を待て』


 その光の言葉を受け、レオン──今はクリスと名を変えた男は、苦々しい表情で立ち尽くしていた。


「軍備、か……それも“宗教”を利用して私兵を……しかも表向きはイシュメルを謳わなければならないのか。俺の望んだやり方じゃない。」


 呟く声に、背後から声がかかる。

「イシュメルの光会は唯一神ですから、ルクス教の存在を知られれば王国が黙っていないでしょう。偽証は仕方ありません。私兵についても……必要なんでしょう? 心核が示したのなら」


 ミリアだった。真っ白なローブを身にまとい、信者たちに説法を終えたばかりのその瞳は、燃えるように信仰に満ちている。

「クリス様は導く者。あたしたちは守る者。そして広める者。そう信じて集まってきた人たちを、裏切るおつもりですか?」

 クリスは返す言葉がなかった。ただ静かに頷き、遠く王都の方角を見やった。


 偽装の教団「黎明の光」は、かつての礼拝堂跡地を拠点とし、少しずつだが確実に力を蓄えていった。

 鍛冶場の奥から金属を打つ音が響く。力強く、だが無骨なその音を生む男の名はバロム。


「おう、クリス様。お前さんはどうにも信用ならねぇが……この腕と炉の火だけは、誰にも負けねぇ。剣も盾も作ってやるが、安売りはしねぇぞ」


 頑固で不愛想だが、作る武具の質は確かだった。かつては王都でも名を馳せた鍛冶師だったが、王家と対立して姿を消した男だった。


 一方、隣の工房では、精巧な鋳型と格闘する細身の男がひとり。

「エメルっていうんだ。呼び捨てでいいよ。そっちのローブの子たち、案外鋳造の才能があるんだよ? 神の加護ってやつかな」


 気さくな笑みとジョークを交えるエメルは、精密部品の鋳造を得意とする職人で、治療具から機械仕掛けの細工まで手掛けていた。彼の工房では、矢尻や金属部品、時に奇妙な仕掛けが生み出されていた。今は、ルクス教で新たに使用する硬貨を作成しているらしい。


 そして、私兵団の統括には、一人の実直な男が立った。

「私の名はダグラス・ヘルヴィン。かつては騎士爵に連なる身でしたが、無実の咎を着せられ、我が館は業火に。家族や使用人も殺されました。栄誉も名も捨て、ただ一途に敵である王国軍を討ちたいと思っています」


 行き場を失っていたところをクラウスが護衛として拾い、ここへと導いた。規律を重んじ、兵の訓練も厳しく、私兵団とは思えぬ統率力を誇っていた。


 ミリアは今日も街の広場で説法を行っていた。布を染めて作った神聖衣をまとっている。


「痛みは心の奥に光を灯す者にしかわかりません。でも、クリス様ならきっと癒してくださる」


 人々はミリアの熱に吸い寄せられるように集まってきた。飢えた目で、救いを、力を、希望を求める者たち。誰もがそれぞれの痛みを抱えていた。


 こうしてミリアは、捨てられた者、忘れられた者、居場所を失った者たちに光の言葉を伝え続けた。

 また、彼女は「説法」というより「対話」に近い形で、人々と向き合った。日々の炊き出しや包帯交換、仕事の斡旋などだ。


 そして彼らは、気づけばクリスの元に集い、鍛えられ、整えられ、静かに、力となっていた。

 その中心に立つレオン──クリスは、静かに心核を見つめる。


「俺は……どこまで導かれる?」


 ラウルの心核は、ただ静かに、淡い光を灯していた。

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