表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/108

13(野心)

 クラウスは机に肘をつき、薄暗い灯火のもとで啓示を見つめていた。羊皮紙に写した文字すら、まるで意志を持つかのように思えた。明かりを反射するたび、彼の胸の奥に何かが灯っていく。


「……当たった。まさか、あの“メギル草”の件が現実になるとはな」


 治療薬としてラウルの心核が示した啓示のとおりだった。そのおかげで自分は多量のメギル草を確保でき、いまやその在庫は十倍以上の価値を持っている。


「啓示は使える……真意を読み取ることが出来れば」

 クラウスは静かに笑った。その目には、鋭い光が宿っていた。

「俺に、ついにチャンスが巡ってきた」


 商会長として動いてきたが、そろそろ“商売人”という立ち位置に甘んじるつもりはなかった。レオンは誠実だが、理想に殉ずる覚悟を持ちすぎている。自身の命より他人の命を優先するような男だ。だからこそ、自分が動かなければならない。


「この予言を使えば……信仰を通じて、通貨と流通を支配できる。世界を牛耳ることも、夢じゃない」

 クラウスは席を立ち、部屋の隅にある小型の金庫に目をやった。聖貨。あの腐敗しきったイシュメル教と王政を象徴する通貨だ。どうやってそれを“崩す”か――。


「……いや、“交換”すればいいんだ」


 はっと息を呑む。

「聖貨を無理に潰す必要はない。新しい価値で“置き換える”んだ。“啓示”と、それを買うためのコイン……“新しい経済”を作る……!」

 思いついた。勢いそのままに、彼は机の下の引き出しから図面とインクを取り出し、コインの意匠を書き始めた。


「そして……そのコインには、模倣できない仕掛けがいる。エメル……あいつならやれる」

 変わり者だが、芸術を宿した天才職人の顔が脳裏に浮かぶ。クラウスは笑った。自分の足元で、未来が形を持ち始めていた。


 ――だが、クラウスは一枚の地図を見つめていた。

 彼の指は、北東の山間にある古い採掘坑をなぞっていた。


「……このままじゃ、いつ追手が来てもおかしくない」

 声に出さずに呟き、彼は地図の端を折り返す。


「表向きは静かに進める。だが、その裏で……秘密裏に防衛拠点を整える。宰相が動き始めたなら、俺も手を打たねばならない」


 琥珀の瞳が静かに光った。

「“預言”に酔う前に、“備え”を忘れてはいかんからな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ