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第8話 幽閉の祈り子2

「我々は警備に戻るが、手伝えることがあれば遠慮せず言ってくれ」

「頼れるお兄さんの見本ってのを見せてやるからな。カスミちゃんも、困ったことがあったらいつでも頼ってくれよ。じゃあな」


 傭兵の二人と別れ、ソウたちは帰路についた。その道すがらアイトがルアについてカスミに話す。


 ルアが王宮の関係者なのはソウも知っている。顔は相当に利くようで、それこそ当時十歳だったソウの竜退治を即日で許可させたほどだ。『竜狩りの力』に気づいていた節はあるが、それでも幼い子供を外壁から出して竜と戦わせるなど、規制に厳しい王都では異例のことだった。アイトの言うように、今回の件では頼りになるだろう。


 そのルアは、朝よりマシな程度に散らかった部屋で、相変わらず床に寝そべったまま分厚い本を読んでいた。一度寝て起きたのか、服装は楽そうな普段着に変わっている。

 ルアはソウたちに気づくなり、得意げな笑みを向けてきた。それからカスミを視界に入れると、今度は興味深げな顔に変わる。


「カスミというのか。まさかソウの同郷とはな。よく来た。ゆっくりとくつろいでくれ。祈り子など、退屈で疲れるものだからな。休みの連絡がいるなら、そこの男に入れさせるといい」


 上機嫌にあぐらをかいていたルアは、また読書に戻るため寝転がろうとする。それを見たアイトが「ルア」とため息まじりに言った。


「な、何だ。ひとっ走りするだけだろう。了見の狭いやつだ」

「その件ではありません」

「では何だ? 片づけなら見ての通りに終わっている。なあ、ソウ。見事なものだと思わないか?」

「……ソウ、答える必要はありません。この話はまた後ほどしておきますので。それよりも今は重要な話があります」

「重要な? いったい何があった?」

「ソウの妹が見つかったようです」

「む――」


 ◇


「――それは竜葬ではない」


 カスミから話を聞き終えて、ルアははっきりとした声で言った。その表情は、普段の緩やかさとは打って変わって険しい。

 壁沿いのソファにソウと隣り合って座っていたカスミは、ルアの言葉に首を傾げる。


「でも、わたしは竜葬って――」

「誰が言ったかは知らんが、竜葬とは国が取り仕切るものだ。その際には広く公示が出されるはずだが、そんなものはあったか? わたしは知らないな」

「それは……わからないけど」

「聞けば本来の管轄とは違うし、王家の承認もない。いいか? イケニエというのは、それはもう同情するくらいに手続きが複雑なんだ。間違いなど許されんからな。それと子供は対象外だ。身寄りがどうのも関係ない。国の管理にない土地ならまだしも、王都でこんなでたらめな竜葬があるものか」


 そこまで言ったところでルアは一息つく。


「カスミよ、知っていたら教えてくれ。ソウの妹――ヒナだったか。その子は祈り子だな?」

「え……確かに適正はあるって。どうしてわかったの?」

「ただの勘だ。祈り場と聞こえたからな。……しかし、祈り場か。これは盲点だった」


 独り言の後、ルアは何やら深刻そうに考え始める。傍らに立つアイトもその様子をじっと見守っていた。その重たい空気にカスミが困惑する。


「あ、あの……? ええっと、竜葬とは違うのかもしれないけど、それでもソウ君が迎えに行けばきっと大丈夫だから。ね、ソウ君。…………ソウ君?」


 ソウは先ほどからうわの空でいたのだが、カスミの声に気づいて我に返った。


「どうかしたの?」

「……いや、何でもない。ヒナ……だよな。行って、やらないと」


 うわごとのように言いながら、ソウは無意識にうつむく。


 ――お兄ちゃんなんだから!


 その言葉がソウの頭の中に響く。カスミたちが話している間も、ずっとまとわりつくように離れずに、胸が鈍痛に苛まれた。それはまるで恐怖のような締め付ける痛みで、まるでソウの心がヒナを拒絶しているかのようだった。


(……どうしてだ。会いたく……ないのか)


 ヒナの置かれている状況は理解している。行かなければならない。それなのに、いざ会うとなると心に壁のようなものを感じてしまい、それが()()()()()()()を裏付けるようで、さらにソウの辛さを加速させた。


「……ごめんね」

「え……?」


 つぶやくようなカスミの声にソウは顔を上げる。カスミの悲しげな表情が目に入った。


「本当はね、ヒナちゃんのことをソウ君に話すか迷ったんだ。絶対に心配するってわかってたから。もっとちゃんとした形で会わせてあげればよかったんだけど、わたしではどうにもならなくて。だから……ごめん」

「……いいや、違う。カスミのせいじゃない」


 ソウが言葉を続けられずにまた顔を落とすと、その先を引き取るかのように「ソウの言う通りだ」とルアが声を割り込ませてきた。


「カスミが気に病むことはない。よく教えてくれたな」


 ルアはニッとカスミに笑ってみせると、今度はソウの方を向く。


「ソウ、何をボーっとしている。明日の朝には出発するぞ。おまえの妹なら迎えに行ってやらんとな。……見つけてやれなくて、悪かったとは思っているんだ。ソウがどれだけ会いたがっているかは、よくわかっているつもりだからな」

「ルア……」

「だが、武器を忘れるな。おそらく竜が出る」


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