第5話 王都の竜狩り2
正面を避けろ。心臓を狙え。
それを最初に教わった。
竜の連れ去りと呼ばれる現象。あらゆるものが跡形もなく消されてしまう。
その原因までは解明されていないが、経験則から正面は危険だとされている。
そして、心臓は竜が持つ唯一の急所。
血のない身体。それが本当に心臓なのかはわからない。だが、破壊すれば――。
ソウが見下ろす先で、地面に横たわる竜の巨体がまるで煙のように立ち消えていく。
これが竜の死だ。
◇
「――毎度のことだが、よく剣でやれるもんだ」
移動用の車の中で、ソウは話しかけられた。
車は四人乗り。ソウは助手席で外を監視していて、運転席にはリーダー、後部座席には男女の若手の傭兵がいる。話しかけてきたのは男傭兵だ。二十代前半と年上ではあるが、傭兵としての経験はソウよりも浅い。人懐っこくて話好きだ。
ソウは後部座席に目を向ける。
「使いやすいんだ。移動の邪魔にもならない」
「それで斬れるなら俺も同じ意見だよ。はあ、俺の斧ちゃんはそろそろ限界かも。報酬はいいんだけど、出ていく金も多いんだよなあ。もうちょい何とか――」
「ぐちぐち言うな。みっともない。ソウ、こいつの言うことは放っておけ」
女傭兵が割り込んだ。こちらはすました性格。男傭兵と同期のためか、同じチームになっていることが多い。最近、ソウは警備などでよくこの二人と一緒になっていた。
「出たよ」
男傭兵があからさまに不満な顔をする。
「銃だと気楽でいいねえ」
「メンテは自費で、弾にも支給制限はある。おまえなら破産だ」
「へいへい。そりゃ手厳しいことで」
言い合いが始まったので、ソウはまた外に顔を戻した。
男傭兵の言うように、普通は竜に対して剣なんて使わない。大抵の竜はその全身を硬い鱗で覆われている。そうでなくとも骨や、厚い肉の壁。このため、一般的には銃か、あるいは重量感のある武器が選ばれる。
そもそも剣なんてものは人同士の争いがあった時代の名残でしかなく、今では演劇や展示くらいでしか見かけない。
「今朝の大型は助かったぜ」
ソウがぼんやりしていると、今度はリーダーが声をかけてきた。すぐ隣の運転席から目だけをソウに向けている。
「いや、手伝ってもらったのは俺の方だ」
「そんなかわいげのないこと言うなって。助かったことには違いないんだ。あれだけの大物だ。まともにやり合えば、一人、二人は連れていかれた。ソウのおかげで被害なしだ。俺たちだって別に死にたいわけじゃないからな」
「……力になれたならよかった」
形式的な返事にリーダーは慣れたように笑った。
「それにしても、たまには息抜きとかしないのか? 毎日が竜の相手だと疲れるだろう。俺がおまえさんくらいのころには、悪ガキなんて言われながら遊び回ってたもんだ」
「いい。そんなことより竜を狩る」
「ははは。そいつは熱心だな。サボり癖のあるやつらに聞かせてやりたいもんだ。だったら、メシでも食いに行くのはどうだ? おごってやるよ。今朝の礼くらいはさせてくれ」
「最近は高いって聞くけど」
「つまんねえことを気にしてんじゃねえよ。賛成ってことでいいな?」
「――賛成!」
男傭兵が勢いよく身を乗り出した。隣の女傭兵はあきれた顔をしている。
「さっすがリーダー、わかってる! こんな過酷な仕事には息抜き息抜き。俺もソウには娯楽が足りないと思ってたんだよなあ。誰も笑ったところを見たことないとか怖すぎるって。ここは大人のお兄さんとしていろいろ教えてやらないと。うん、見た目は悪くないんだ。名前だって知られているんだし、あとは愛想の一つでも覚えれば絶対にお姉さん連中の――」
「待て。おまえはソウに何を教えようとしている」
「ちょっと社会勉強させるだけだ――って、それはそれとして。リーダー、俺にもおごって!」
リーダーは「いいぜ」と前を向いたまま笑みを浮かべる。
「やった! 気前いい!」
「ただし、大型を狩ったらな」
「ええっ!? それ、俺に消えろってこと?」
大げさに嘆く男傭兵の横で、女傭兵が「よかったな」と鼻で笑う。
ソウはそんなやり取りから目を離すと、また窓の外に広がる黄金色の荒野を眺めた。
◇
王都の近くにはもう一つ町がある。そこを含めて王都とする者もいるくらいの距離だ。
町の構造も王都によく似ている。外周は高い壁で囲われて、さらに内部は警備用の通路を兼ねた壁によって区画される。見通し確保のために壁より高い建造物はなく、代わりに地下街が発展しているのも同じだ。
この町の中央にあるのは『祈り場』。各地から『祈り子』と呼ばれる者たちが集められ、国のエネルギー開発を担う最重要施設だ。その警備体制は王宮以上とも言われている。
ソウが初めてこの町を訪れたのは、大型竜の退治を手伝うためだった。それ以降、わざわざ頼んでまで巡回に同行している。どうしてなのか、この場所を守らなければならない気がしていた。




