第17話 幽閉の祈り子11
ソウは竜を見つめ、すっと剣を抜く。
本来であれば正面を避けるのが鉄則。だが、あえてそれを破る。まずは竜の注意をソウに引き付ける。
ソウは竜に駆け寄った。竜の口元が動く。何かが飛び出す。ソウは反射的にかわして跳躍すると、地面がうがたれる音を背に、竜の顔面に素早く一太刀を浴びせた。そのまま流れるように顔面を蹴って、さっと竜の側方へと回る。
竜がガラガラとした咆哮を上げて、のっそりその巨体をソウへと向けた。
ソウは後方へじりじりと距離を取りつつ、冷静に竜を観察する。
見たことのない種類。光沢するイボだらけの身体に鱗はなさそうだが、刃が通りにくいと感じた。表面を覆うネバついた液体が邪魔をしている。普段の竜より硬いと考えていい。動きは鈍重なようで、瞬間的には侮れず、また予測不能。先ほどの――おそらく舌による攻撃は、地面に穴をあけるほどに危険だ。
ソウは剣を振り、付着した粘液を飛ばしてみる。また、竜を蹴った方の靴で地面を踏み鳴らす。違和感はない。表面の体液に連れ去りなどの効果はないようだ。
あと無視できないのはその巨体。標準的な大型竜よりも一回りか二回りほど大きい。
大型竜が厄介なのは、その身体の奥深くに心臓が隠されていることだ。ソウの持つ剣の長さでは、一振りで心臓に届かない場合もある。
もちろん退治するだけなら心臓にこだわる必要はなく、例えば首を落とすだけでも事足りる。ただし、竜の生命力は高く、その状態でも十数分ほどは生きてしまう。意識がソウから離れた状態で、しかも先ほどの機動力で暴れさせれば、ヒナたちに危害が及んでしまう。四肢を落とすにしても手数はかかり、同様の懸念は拭えない。今ここにいるのは、訓練された傭兵たちではない。
必要以上に傷つけず、一気に仕留める。狙いはただ一つ。
(心臓――)
この竜の身体構造はわからない。まずは心臓の位置を特定する。
ソウが持つのは『竜狩りの力』だけではない。あまたの戦いで得た知識や経験もまたソウの武器となっている。これまでの戦いを、竜の特性を思い出していく。
竜の心臓は一般的な生物のものとは役目が違う。脈を打ってはいるが、血液を送っているわけではない。その一方で、竜の身体を斬りつけるとまれに流れのような抵抗を感じることがあった。特に大型竜では顕著だ。そして、心臓は常にその中心にある。
ソウはまた竜に接近する。舌による攻撃をかわしつつ、側面から一刺し。感じる――この竜の体内を駆け巡る流れを。
竜の意識はまだソウに向いたままだ。ソウは反撃をかわして距離を取る。側方に回り込み、ときには竜の背を踏み越えて、竜の視界にヒナたちが入らないよう調整しながら剣を突き立てていった。それを何度も繰り返していく。
(腹だ)
やがて、あたかも見えるかのように流れの中心――心臓の位置がつかめてきた。腹面からであれば届く。これ以上は時間の無駄だ。
(――仕留める!)
ソウの放つ空気が変わったことを感じ取ったのか、竜の瞳孔がカッと刃のように鋭くなった。だが、怖れる理由にはならない。むしろ竜から仕掛けてくるなら好都合だ。
ソウは大きく距離を取るように背後へと跳躍した。釣られるように、竜の重心が下半身に傾く。
――――跳ねた。
それと同時にソウは突起のように盛り上がった岩を手早く砕き、人の頭ほどの欠片を作って竜に投げつけた。それが空中で竜の喉にめり込み、その体勢がひっくり返るように崩れる。腹を上にして、バチバチっと音を立てながら炎の真上に落下した。
地鳴りで足元がぐらつく。ソウはそれが始まるより先に竜との距離を詰め、地面を蹴って飛び掛かり、剝き出しとなった竜の腹に――その先にある心臓に目掛けて剣を突き刺した。竜の体内に埋もれた腕へと、確かな手応えが伝わってくる。
「その姿、二度とヒナに見せるな」
剣を引き抜き、体液を払う。そして、飛び降りて見つめた先で、竜の巨体が炎に焼かれ、煙となって消えていった。




