表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

第14話 幽閉の祈り子8

 狭く、薄暗い階段を下りていく。そしてドアを開けた先にあったのは、まるで祈り子を象徴するかのような白の世界だった。『祈り場』。壁がわずかに発光しているのか、まぶしさにソウは一瞬だけ目を細める。


「本当に案内はいいのか?」

「ここまででいい。ありがとう。助かった」

「気にすんなって。あっちにでかい入口があるから、待つならそこだろうな。トラブルあったら呼びな」


 顔見知りの傭兵が持ち場に戻っていく。リーダーの言った通り、ソウが祈り場に入りたいことを伝えると、まるで事情を察しているかのようにあっさりと中に入れてくれた。


(……カスミはいないか)


 幅のある廊下に、無駄なものは置かれていない。身を潜めて待つのは難しそうだ。この辺りは祈り子も入れるらしいが、主に徘徊しているのは傭兵だとソウは聞かされた。なるべく人と遭遇するのは避けたい。

 スライド式のドアが並んでいるので、ソウは取っ手の一つに触れてみた。どうやら施錠されているようだ。他もすべて同じだろう。『竜狩りの力』を持つソウならこじ開けることもできるが、逆に怪しまれるだけだ。


 ソウは警戒しながら足を進めてみる。側方の壁にひときわ大きな上下スライド式のドアがあった。先ほど教えられた場所だと思い、その向かい側に目をやってみると、どこまでも続きそうなほどに伸びる廊下が目に映る。まるで進んだら二度と戻れない、そんな一本道の迷宮のようだ。


 ソウはものさびしさを覚える。こんな場所でヒナは過ごしたのかと思った。

 ヒナの気配は、屋外よりもはっきりと感じられる。が、まだ遠い。ここよりずっと地下にいるようだ。


 ――竜葬場があるのは地底。


 ルアの言葉を思い出して、はやる気持ちが強くなった。このままカスミを待っていいものかとソウは迷う。そのとき、先ほどやって来た側の廊下から足音がした。ソウはフードを深く被り、曲がり角に身を潜めて様子をうかがう。


(……ミント?)


 それがわかって、ソウはミントの前へと姿を現す。


「ミント」

「……っ? 何だ、ソウか。驚かせないでよ。それカスミ姉から借りたやつ?」


 マントのことを言われていると気づいて、ソウは「ああ」とうなずく。


「ここで何か調べているのか?」

「そんなところ。どうも今日は警備が少ないみたいなんだ。それでこの辺りはどうかなって。警備どころか人が少ないね。搬送の予定なんかも遅らせるって聞いたし、何だか祈り場全体の機能が止まっているみたいだよ。で、カスミ姉はどこ?」

「別々に入って、この辺りで待ち合わせることになってる」

「なるほどね。ごたごたしていたし、それも関係あるのかな。ここでソウと合流できてよかったかも。それじゃあ俺もここで待つよ。ヒナの部屋を知っているのはカスミ姉だしね。それにしても――」


 ミントがソウの顔をじっと見てくる。


「少しは元気を出せたみたいだね。今の君ならヒナも安心してくれるよ」

「だといいな。……ところで、ミント。ききたいことがある」

「何?」

「祈り場って、どれくらい下まであるんだ? ヒナの気配をずっと下の方から感じる」


 ソウは真っ白な床へと目を落としながらたずねる。ミントは「ヒナの気配?」と首を傾げるが、すぐにソウの問いに答え始めた。


「事務なんかで人が立ち入るのは三階か四階のはずだよ。少なくとも警備の仕事はそこまでだね。あとは、祈り子の仕事場がそれよりずっと下にある。階層で言うなら……たぶん三十階とかそんなところ。さらに下となると、もう祈り場ではなくて天然の地下空洞。竜が徘徊していて、竜葬なんかはそこでやっているね。……ソウ、まさかそこにヒナがいるって言うのか?」

「そんな気がする」


 ヒナの気配があるのは、三階や四階といった距離ではない。もっと、もっと下だ。

 ミントが悩ましげにうなる。


「イケニエってのを考えると可能性がなくはないのか。まいったね」

「竜葬場への行き方はわかるか?」

「それはわかるけど……まさか行くつもり?」

「もしヒナがいるのなら手遅れになる。ミントはここでカスミを待っていて欲しい」


 ミントは一瞬迷ったような顔をしたが、すぐに「わかったよ」とうなずいた。


「君はあの『王都の竜狩り』だしね。竜葬場は遺体を運ぶ搬入口とつながっている。ちょうどのこの突き当りだ」


 言いながらミントが目を向けたのは、搬出口の反対側。迷宮のように続く廊下の先だ。


「だけど、今日は竜葬の予定なんてないよ。ロックはどうするつもり? キーはカスミ姉が持っているんだよね?」

「壊す」


 それを聞いたミントが苦笑する。


「それは強引だね。でも、君らしいか。中に入ると、エレベータと緊急階段があったはず。たぶんエレベータは動かせないから階段を探すといいよ。部屋の奥の方にドアがある」

「わかった」

「俺はカスミ姉が来たらヒナの部屋を見てみるつもりだけど、いなければそっちへ行くよ」

「こっちに? 竜がいるなら危険だ」

「その竜と君が戦っている間、ヒナを一人にさせるつもり? いざとなったら俺たちがヒナを逃がす。その方が君も安心できるだろ?」


 ソウの脳裏に、ヒナと別れてしまったときの記憶がよみがえる。あの日、ヒナの傍に誰かがいてくれれば、離れることはなかったのかもしれない。


「……頼む」

「任せなよ」


 時間がない。ソウは搬入口に向かって走った。フードが外れたのも気にとめず、ただひたすらに走った。長い、長い通路。それを一気に駆け抜けると、巨大な上下スライド式のドアが見えた。


(ルア……後始末は頼む)


 ソウは速度を落とすことなく体当たりをして、ドアをぶち破りながら中に入る。ミントに言われた階段を見つけると、考えるより先に下りていた。灯りは心細いほどに弱く、永遠のように折り返す階段の先には真っ暗な闇しかない。だけど、ソウには光が見えていた。


 ヒナが近づくのを感じる。この先にいる。


 終点ではしごの掛かった穴を見つけて、ソウは迷うことなく飛び込んだ。着地して立ち上がると、一目でわかった。


(ここか……)


 目的の地下空洞だ――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ