第13話 幽閉の祈り子7
「現在一般の入場は禁止されている。祈り子なら専用のゲートに回ってくれ」
警備に立つ若い男は、いかにも事務的な態度で言ってきた。ゆったりと幅のある通路はバリケードで封鎖されている。
「あの、禁止って……どういうこと?」
カスミが困惑したようにたずねる。
「急に連絡が入ったことで、理由は知らされていない。中にいる訪問者も戻されているところだ。待ち合わせの約束があるならその辺りにいるといい」
「そんな……!」
カスミは食い下がろうとしたが、すぐにやめてしまった。怪しまれると判断したようだ。監視の甘さを狙うという思惑も外れてしまっている。
その一方で、ソウの焦る気持ちは強くなっていく。まだヒナの気配は感じるが、声はパタリとやんでいた。
「何とか……何とかならないのか?」
「ソ、ソウ君?」
ソウは警備の男に詰め寄るのだが、淡々とした対応しか返ってこない。
「無理なものは無理だ。祈り子なのだろう? さっきも言ったように専用ゲートに回ってくれ」
「だけど――」
「ソウ君!」
カスミが大声を上げてからソウの手を引く。
「仕方ないよ。言われた通りにしよう」
しかし、祈り子専用の経路を使う場合、厳しいチェックが行われる。ソウの正体はすぐにばれてしまい、侵入することはできないだろう。ソウは奥歯をかみしめる。最悪の場合、力ずくで通ることも――。
「そこ、何かあったのか?」
馴染みのある声に振り向くと、体躯のいい傭兵の男がこちらに近寄っていた。リーダーだ。フードを被ったソウに気づくと、驚いた顔で見つめてきた。
「んん? ソウじゃないか。どうしたんだよ、そんな祈り子みたいな恰好して」
リーダーは首を傾げるが、すぐに「ああ、そういうことか」と笑みを浮かべ、警備の男に「迷惑かけたな」と話しかけた。
「ちょっと手違いがあったみたいだ。こいつは傭兵仲間でな。今日の搬送でどうにも人手が足りなくて、それで手伝いを頼んでいたんだが――ソウ、集合場所を間違えてるぞ。先に祈り場に行くやつがあるか。祈り子の姉ちゃんまで巻き込みやがって。しょうがねえな。こっちだ」
「いや、俺は……」
腕を引かれながら戸惑うソウに、リーダーがニヤッとささやくように言う。
「祈り場へ行きたいんだろ?」
驚いたソウはぼう然とリーダーの顔を見る。そこにカスミが追いついてきた。
「あの……」
「ソウのことは任せときな。搬出口だ。そこで拾ってやってくれ」
カスミは面食らったようにソウとリーダーを見るが、すぐに状況を理解したようで、リーダーに「ソウ君をお願い」と告げると、「行ってくるね」と走ってその場を離れていった。
「俺たちも行くぞ」
リーダーに連れられてソウは地上に出る。ちょうどそこに搬送用の大型車が通りかかったので、リーダーが大きく片手を振りながら呼び止めた。リーダーは運転していた老人の傭兵に事情を伝え、交代するようにして運転席へと乗り込んでから手招きをする。
「ソウ、乗れ」
ソウが突っ立っていると、車から降りた老人の傭兵がうながすようにソウの背中をたたく。慌てて助手席に乗ると、すぐにリーダーは車を出発させた。
入場のチェックをいつも通りに難なく終えて、ソウたちの乗った車は祈り場の敷地内に入り込む。
ソウが緊張の面持ちでフロントガラスの向こうに伸びる舗装路を見つめていると、すぐ隣の運転席からリーダーの含み笑いがした。
「ああ、悪い。おまえさんと初めて会った日のことを思い出しちまってな。もう何年になるのやら。懐かしいもんだ。だが、今でもはっきりと覚えているぜ。あの日は本当に驚くことばかりだったからなあ」
リーダーはそのまま語り始める。
「竜退治を叫ぶ血気盛んなガキなら珍しくもねえ。憧れやら、恨みやら、理由なんていろいろだ。だが、許可まで持ってきたのは初めてだった。不審に思うやつらもいたが、爺さん連中なんかは、わしが育ててやるとか張り切ってやがったなあ。で、そんな子供が本当に竜を仕留めちまうんだから驚きだ。それも大型をな。『竜狩り』ってのがいるのは知っていたが、改めてすげえもんだと思ったよ」
黙ったままのソウに小さく笑いかけて、リーダーはさらに話を続けた。
「――にも関わらずだ。当の本人はといえば、まるでこの世のすべてをなくしちまったみたいな顔して泣いてやがった。何が何だかって話さ。……だけどな、それがまた次の日にもやって来て、竜を前にすると戦う顔に戻っちまうんだ。毎日、毎日、飽きもせずにな。そんなおまえさんの姿を見て、俺たちは勝手に思っているのさ。こいつはただの子供じゃねえ。意地を通せるほどに大事なもんを抱えて、そのために戦い続けているんだってな」
ソウがはっと顔を向けると、リーダーは横目を合わせて口角を上げた。
「今日は、いい顔してるな」
倉庫のような建物が密集する場所に着き、ソウは車から降ろされる。石造の入口はまるで空洞のように開いており、大型車でもゆうに入れそうだ。内部は薄暗くてよく見えなかった。
「そこの担当はうちの連中だ。まあ、違ったところで、おまえさんが言えば中にくらい入れるさ」
リーダーは車を降りて、力強くソウの肩をつかむ。顔を上げるソウにうなずくと、まるで自信を分け与えるような強い笑みをして、もう片方の手で力強く拳を作った。
「もう、泣くんじゃねえぞ」
遠ざかっていく車を見つめながら、ソウはまるで力を受け取ったかのように両の拳を握っていた。
(ヒナ……)
ソウは目を閉じて、ヒナと過ごした日々を一つ一つ思い浮かべていく。そして目を見開き振り向くと、光を宿した瞳で無機質な空洞へと視線を飛ばした。
「今行く――」




