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第12話 幽閉の祈り子6

「――これでよし。似合ってるよ、ソウ君」


 カスミから借りたフード付きのマントは、傭兵の上着ごと全身を覆えるもので、顔だけでなく剣も隠すことができた。カスミが着替え直すのを待って、ソウたちはすぐに祈り場へと向かう。


 祈り場があるのは、この町の中央。地上側はほとんど何もない広大な敷地であり、主に傭兵たちが竜退治や搬送などを行うための場所となっている。また、敷地は壁や幅のある水路で囲われていて、さらに出入りに対する監視も厳重だ。


 このため、ソウたちはまず地下に入った。祈り場とつながる定期便が出ており、また一般訪問者用の経路であればチェックは厳しくないらしい。まずはそこを目指す。


 閑散としていた地上とは違って、地下は王都の商業区に負けないほどにぎやかだった。たくさんの灯りにたくさんの店。そして、たくさんの人々が楽しそうな音を立てている。人の多い場所を避けてきたソウにとっては、別世界に入り込んだかのようだった。


「祈り子って堅いとか言われることもあるけど、ぜんぜんそんなことはないんだよ。みんな休みのときなんかは普通に楽しんでいるの」


 道行く人々の中には、祈り子たちも混じっているのだろう。ただソウの目に入ってしまうのは、楽しそうな子供たちの姿。祈り子の家族なのだろうが、ついヒナの姿を重ねてしまう。


 近くの店では、甘い匂いのする焼き菓子を売っていた。故郷にいたころ、似たものを大人が都会の土産に買ってきたことがある。自分の分を食べ終えたヒナがあまりに悲しそうな顔をしたものだから、ソウは好きな味じゃないと嘘をついて、ヒナにあげたことを思い出した。我慢はしたけれど、そんなことよりもヒナが喜んでいたことが――。


(嬉しかった……?)


「――ソウ君」


 カスミの声に気づき、ソウは思い出から覚める。いつの間にか立ち止まっていたみたいで、カスミが心配そうに顔をのぞき込んでいた。


「少し休む?」

「平気だ。行こう」


 歩き出そうとするソウの腕をカスミがつかむ。そのまま道の隅にまで引っ張られた。


「任せてくれてもいいんだよ。ヒナちゃんを連れ出すくらいならわたしでも何とかできると思うし、向こうにはミント君だっているんだから」

「いいや。行く。……ヒナのことを思い出していただけだから。あんな感じのお菓子が好きだったなって」

「え……? ふふ、そっか。今度買ってあげないとね。うん、行こうか」


 カスミがソウの腕から手を放す。その直前、ソウはカスミの手がわずかに震えていることに気づいた。


「おすすめのお店があるんだ。また教えてあげるね」


 カスミは何事もないように笑って歩き始めるのだが、その背中はどこか縮こまっているようにも見えた。

 これから行く先は祈り場。祈り子のカスミにとっては日常を過ごす場所。そこできな臭い何かが起きていて、しかも違反を犯して忍び込もうとしているのだから、カスミが不安を感じていないはずがなかった。

 それでもカスミはそんな感情をソウに見せまいと、あくまで『お姉ちゃん』であろうとしてくれている。


 ――君がしっかりしていないと。


(ミントの言う通りだな)


 会うことが苦しくても、ヒナを助けるとは決めている。だとすれば、カスミたち、そしてこれから再会するヒナを心配させてはいけない。

 せめて表面上だけでも直そうと、ソウは昔を思い起こしてみる。ヒナとどんな風に接していたのか――。


 そのとき、ソウは違和感を覚えた。自分自身を思い出そうとすると、いつも浮かんでいた光景がまるで違って見える。大変だった日々なのに、どういうわけなのかソウは笑っていた。ヒナと一緒に笑っていた。


(あ、れ……?)


 本当に煩わしかったのか? 本当に会うことが苦しいのか?

 そんな疑念が頭をめぐる。そのとき――。


 ヒナの泣く声がした。


 ゾクリとした何かがソウの背筋を走る。胸騒ぎがした。

 小さな、小さな声で。泣いている。怯えている。気のせいではない。これは――確かにヒナの声だ。


「カスミ!」

「ど、どうかしたの?」

「急ごう。時間がない気がする」


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