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第11話 幽閉の祈り子5

 祈り場へと向かうにあたって、ソウはいったんカスミの家に寄ることになった。


「うちに儀式用のマントがあるから貸してあげる。室内でフードまで被る人は珍しいんだけど、いないわけじゃないし、いざとなったらわたしがごまかすよ。あと、なるべく声は出さないでね。男女兼用だからおかしくは思われないはずだけど、どこでボロが出るかわからないから。わたしに任せておいて」


 ソウが顔を隠すのは、『王都の竜狩り』の名によるためだ。普段から警備でこの町を訪れており、さらに剣などのわかりやすい特徴まであることから、ただ道を歩くだけで『王都の竜狩り』だと気づかれてしまう。そこで祈り場内でも都合がよいからと、カスミが祈り子になりすますことを提案した。


「ソウ君って本当に有名なんだね。わたしも噂くらいは知っていたけど、ちょっとおかしな感じ。……何で名前くらい聞いてなかったかなあ」


 車を出てから、カスミは少しだけ口数が増えていた。無理に話題を作っているようで、たまにぼやくような発言もある。ただソウにしても、軽く相槌を返すくらいしかできていない。まだヒナに会うことへの抵抗が消えたわけではなかった。


 壁を潜り抜けて区画が変わる。ここから先は祈り子とその家族が暮らす場所で、ソウはあまり訪れたことがない。世間から厳格とされる祈り子のイメージ通りに閑静な雰囲気。人の姿はなく、ただ大きな民家がいくつも並んでいた。


「ほら、あの家だよ」


 カスミが暮らしているのは、祈り子に用意された借り家。やや大きい以外に特徴のない民家だが、地下は共同の空間とつながっていて、そこにはさまざまな店やサービス施設があるらしい。暮らしに必要なものは地下で完結しているので、他の一般人と祈り子の生活が交わることはほとんどない。


「ただいま。誰かいるかな」


 居間に連れられると、ソウと同じくらいの歳の少年がソファに腰掛けて本を読んでいた。カスミと同じく身なりは整然としていて、理知的な雰囲気がある。


「ん……カスミ姉? 戻ったんだ」

「あ、ミント君。今日は仕事ないんだね」


(ミント……?)


 それはカスミの弟の名前だった。


「急に休みになってね。で、そう言うカスミ姉こそいきなり王都へ行ってどうしたの? 帰ってこないから母さんたち心配して、ちょうど祈り場に問い合わせに出たところだよ」

「え……そうなんだ。ちょっと急いでて連絡足りてなかったかも」

「あとで謝っとけよ。で、そっちの彼は? まさか王都から彼氏を連れてきたとかじゃないよね」


 ミントの淡々とした視線がソウと合う。


「違う違う。ふふ、誰だと思う?」

「誰って言われても……いや、剣? まさか『王都の竜狩り』? でも、どうしてうちなんかに。それに何でそんな目で俺を見るんだ? …………んん? あ、いや、もしかして……君はソウなのか?」

「当たり。ソウ君だよ」


 ミントは「ソウ!」と本を置いて立ち上がると、表情を驚きから満面の笑みに変えてソウへと近づいて、「久しぶりじゃないか!」と肩をたたいてきた。


「何だ、竜狩りってソウのことだったのか。何でそんなことやってるんだよ」

「ああ……いや。久しぶりだな、ミント。でも、カスミ姉って?」


 昔はそんな呼び方はしておらず、ソウと同じく『カスミ』と呼んでいたはずだ。


「それね。ほら、こっちでは『姉さん』だとかそんな風に呼んでいるだろ? それを見たカスミ姉がうるさくてね。これで黙ってくれるならって。ま、世渡りってやつかな」

「ちょっと、ミント君。聞こえてるよ」


 カスミの不満をミントは笑って流す。


「だけど、こんな話をするとヒナを思い出すな。カスミ姉に君のことを『にぃ』だとかしつこく教え込まれて。ヒナもこっちにいるのか? ん? 急にそんな顔してどうしたんだよ」

「あ、あの、ミント君。実はね――」


 ◇


「……俺たちの故郷が、そんなことになっていたのか。ソウが竜狩りをしている理由もわかったよ。で、今はヒナも危ないってわけね。考えもなくきいて悪かった」

「黙っててごめんね」

「いいよ。口止めされてたんだろ? 俺だってこんなことを話すかは悩むしね。だけど、何で祈り場がそんなこと――考えても仕方ないや」


 ミントは小さく息を吐いてからソウたちに向き直る。


「今から二人でヒナを助けに行くんだよな? 俺も手伝うよ」

「ミントも……?」

「驚くことじゃないだろ。ヒナは俺にとっても妹なんだ。みすみす死なせるわけにはいかないよ」


 さらっとヒナを助けると言うミントに対し、ソウは叱責のような心苦しさと羨望のような感情を覚えた。


「ソウみたいに竜と戦ったりはできないけど、最近は祈り場でいろいろと雑務をしているんだ。警備の配置を調べたりとか、できることはある。そうと決まったら、のんびり話をしている場合じゃないな。先に行くよ。やることが終わったら、一般のゲートあたりで巡回してるから」

「お願いね、ミント君」

「……ミント、頼む」


 声に力の入らないソウを見て、ミントは励ますように肩に手を乗せてくる。


「ソウ、元気出せよ。君らしくない。ヒナは俺たちの妹だけど、ヒナにとっての『にぃ』は君だけなんだ。君がしっかりしていないと、会ったときに心配させてしまうだろ。今度またヒナも入れて話をしよう。じゃあな」


 ミントは軽く手を振って、さっさと家から出ていってしまった。


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