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第10話 幽閉の祈り子4

 翌朝、ソウたちはアイトの運転する車で祈り場のある町に到着していた。

 まずはカスミが祈り場へ行き、ソウとヒナを会わせるための手続きをする手筈だったのだが――。


「もう、ぜんぜん話を聞いてくれない!」


 路肩に待機していた車に戻ってくるなり、カスミは苛立ちを抑えられない様子で声を上げた。道行く人が何事かと振り向くほどだ。


「仕事はどうしたとか、証明の書類を出せとか、そんな話ばっかり。だいたい兄の証明って何よ。ヒナちゃんが会えばすぐにわかるのに」

「証明……?」


 座席で話を聞いていたソウに緊張が走る。


「ソウ君、気にしなくていいの。そんなのヒナちゃんがしてくれるんだから。もう一回行ってくる。今度はソウ君も一緒に行こう。先生を見つけて相談して、絶対にヒナちゃんに会わせるから」

「やめておけ」


 車の中からルアが諭すように言った。


「でも、こんなの絶対におかしい。面会くらい許してくれたって――」

「結果は変わらんよ。でたらめな理由をつけて追い返されるだけだ。表に出せるはずがないのだからな」

「表に出せないって……どういうこと?」

「まずは中に入ってドアを閉めろ」


 カスミは言われるままに車内に入った。王宮から借りたこの車は傭兵用のものよりやや広く、後部座席は四人が向かい合って座れる。窓ガラスには外から見えない加工がされ、防音の対策もされているらしい。カスミがソウの隣に座ると、正面に座っていたルアが続きを話し始めた。


「昨夜のうちに確認は取った。ソウよ、おまえの妹には()()()()()。あくまで記録上の話ではあるがな」

「存在が……?」

「つまり守衛の監視をすり抜け、人知れずこの町――さらには祈り場へと連れ込まれ、そのまま育てられてきたということだ」

「ど、どういうこと、それ……?」


 カスミがゾッとした様子でたずねる。


「憶測に意味はない。わかることだけを話そう。昨日にも言ったが、これは竜葬ではない。()()()()()()()()を持って動く何かだ。はっきりと言っておく。少なくともその目的には、ソウの妹の命が含まれている」

「ヒナの……命?」

「間違いなくな」


 ソウは高所から突き落とされたような感覚に陥る。確かにヒナに会うのを辛いとは感じた。だけど、それは会えると思っていたことの裏返しでもある。心の奥底では会えると――期待があった。


「どうしてそんな……」

「……さてな。それよりカスミよ、祈り場でソウについてを話したとき、『竜狩り』についても触れたのか?」

「う、うん。素性がわからないって言われたから『王都の竜狩り』だって言い返したけど」

「ふむ。なるほどな」


 ルアはちらっとだけ窓の外を確認してから、またソウたちに視線を戻す。


「目的が目的だ。場合によっては手遅れの可能性だってある。だから、ソウ。おまえにきいておきたい。おまえはまだここに妹がいると思うか? ()()()()()()()()()? 直感でいい。答えてくれ」


(ヒナがいるか……?)


 唐突ではあったが、何となくソウはルアの言いたいことを理解した。

 この町からはずっと不思議な感じがしている。この場所に引きつけられるような感覚。それは祈り場という特殊な環境のためだと思っていたが、故郷にいたころ、ヒナからも似たようなものを感じていた。

 あまりに当たり前すぎて気づけなかった。ヒナだ。もしこれがヒナなのだとしたら――。


「…………いる」

「よし。だったら連れ出してこい」


 ルアはくっきりした瞳で、力強く笑みを浮かべる。


「存在がないということは、いなくなっても騒ぎにできないということだ。……わたしとアイトもついて行ってやれればいいのだが、おそらく事態をややこしくする。おまえたちだけで行ってくれ。その代わりに、後始末はすべて引き受ける。多少強引でも構わん。必ず助けてくるんだ」


 そう言った後、ルアは運転席のアイトから何かを受け取る。小さな白いキューブの取り付けられた首飾りだ。


「カスミにこれを預けておく。祈り場のマスターキーだ。祈り子であれば使い方はわかるだろう」

「え……キーならわかるけど、マスターキーなんて……」

「使い方は変わらん。あとこれは祈り場内部の図面だ。必要そうなものだけ用意した。場合によっては、竜葬場へ行くかもしれんからな」


 ルアから渡された数枚の図面の中には、あらかじめ印がつけられているものもあった。どうやら祈り場のずっと地下へとつながる経路のようだ。


「もし竜と遭遇するようなことがあれば、そのときはソウの力が頼みだ。竜葬場があるのは地底。そこに巣食う竜どもは、地上のやつらとはまた生態が違う。油断だけはするな」

「竜……」


 故郷を襲われた日の光景がソウの目に浮かぶ。無意識に手が伸びて、座席に立て掛けていた剣をつかんでいた。


「ソウ君……大丈夫だよ。絶対にヒナちゃんを助けよう」

「……絶対に」


 自身に言い聞かせるようにして、ソウはもう一度図面に描かれた印へと目を落とした。


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