第5話「魔法少女と魔砲少女」
*
「よし、準備が整ったよ!
では、春休み特別講習の開始だ!」
緑川博士がそう言うと、訓練施設内に、今朝出現したのとそっくりな見た目の魔物、翼タイガーが現れた。
「うわっ!?魔物!?」
俺が驚いていると、ユウトが、
「はは!落ち着けって、マサト!あれは訓練用の“リアルホログラム”で作られた魔物っちゃ」
「“リアルホログラム”?」
「赤城君の言う通りだ。
あれは魔法科学技術によって作り出された、“魔法師”の戦闘訓練用システム、AI搭載型3DAR、通称“リアルホログラム”だ」
緑川博士の説明によれば、実際の魔物と全く同じ動きと思考、それに耐久力を持ったリアルなホログラム映像で、実戦さながらのリアルな戦闘訓練を行うためのシステムだという。
「ちなみに、この翼タイガーは、まさしく今朝我々が対峙した個体のデータが反映されている。
黒霧兄君、君はアレがどのようにして倒されたか覚えているかい?」
「え?えぇっと…、」
俺は今朝の記憶を思い出す。
「確か、最初にマジョリティローズが『アクアウィップ』で翼タイガーの動きを封じて、その後で、ウインディの『ファイアアロー』、そしてホークの『サンダーボゥル』が直撃して倒してたような…?」
「うむ、その通りだ!
では、その再現を行う前に、黒霧君と赤城君と青羽君は一度変身を解除してもらっていいかな?」
「「「はい」」」
緑川博士に言われて、マチとユウトとフレンダが変身を解除した。
「まずは、“魔法少女”がいかにこれまでの“戦闘魔法師”とは違うのかを知ってもらおうと思ってね。ちょうど三人は“雷の魔法師”、“炎の魔法師”、“水の魔法師”だから今朝の再現をするのにちょうどいいだろう」
そう説明しながら、緑川博士は三人に腕輪のようなものを渡していった。
「これは“魔法師”が魔法を扱うために必要なデバイス、“マギアリング”だ。
この中に、“魔石”が入っていて、この“魔石”に貯められたマナを消費することで、“魔法師”は魔法を扱える」
“魔石”とは、マナを一定圧力下で凝縮し、固めた物のことで、これを扱い、魔法を扱える者を“魔法師”と呼ぶ。
この魔法を扱えるかどうかというのは、純粋に生まれながらの才能のようなもので、運動神経が良いとか悪いというような個性の延長のようなものだそうだ。
そして、この“魔石”はある程度使用すれば、貯められていたマナが無くなり消滅する。
かつての“魔法師”達は、この“魔石”を直接手に持つなどして扱っていたそうだが、現在は“マギアリング”と呼ばれる腕輪に“魔石”をはめて使い、消滅したり摩耗した“魔石”は随時交換して使用しているらしい。
「ちなみに、“魔法師”の扱える属性も、生まれながらに決まっているのだが、闇属性の魔法を扱える“闇の魔法師”はこれまで確認されていないんだ」
そんな説明をしている間に、マチ達の準備が出来たようだ。
「じゃあ、まずは青羽君が『アクアウィップ』で翼タイガーの動きを封じ、そこへ赤城君が『ファイアアロー』を、黒霧君が『サンダーボゥル』を放ってくれたまえ!」
「「「了解っ!」」」
緑川博士の指示で、三人が位置につき、魔法を放つ。
「『アクアウィップ』っ!」
まずはフレンダが右手を前に突き出して、そこから水の鞭を出現させ、翼タイガーの全身に絡みついていくが、
『ニ゛ャア゛ァアアアアアアッ!!』
「うわっ!?ちょっ、暴れるな、このっ!!」
翼タイガーは絡みついた水の鞭を引き千切ろうと、その場で暴れまくっている。
「くっ、ちょこまかとっ!『ファイアアロー』っ!」
「狙いが上手く定まらない…っ!さっ、『サンダーボゥル』…っ!」
そこへ、ユウトとマチが魔法を放つが、翼タイガーは水の鞭を引き千切りながら、華麗に避けていき、当たったとしても、皮膚が少し焦げる程度で、致命傷には程遠いレベルだった。
「…と、まぁ、こんな風に、従来の“戦闘魔法師”の力では、こうなるんだ」
「ですから、今回の翼タイガークラスならば、最低でも7〜8人程度の“戦闘魔法師”を出動させる必要があります。勿論、プロの“戦闘魔法師”の話で、彼女達学生レベルなら10人以上が必要になるでしょう」
二人の博士がそう説明する。
「え!?でも、“雪月花”先輩達はたった三人で倒してましたよ!?」
「そう!それこそが私の発明した【マジョリティ】システムの優れた点なのだよ!
では、今度は赤城君と青羽君にはもう一度“魔法少女”に変身してもらい、黒霧君の代わりに白瀬君が入ってもらおうかな?」
「「「はい!」」」
そして、再び変身するユウトとフレンダ。
「じゃあ、三人とも、さっきの攻撃の再現をしてくれたまえ」
「「「了解っ!」」」
緑川博士に言われて、先程の攻撃と同じ攻撃を行う三人。
と、そこで俺はおかしな事に気付いた。
確か、マリは“炎の魔法師”だったハズで、雷の魔法は使えないハズなんじゃ…?
そんな俺の疑問に構わず、まずはマジョリティブルーに変身したフレンダの魔法が放たれた。
「そりゃーっ!『アクアウィップ』っ!」
すると、先程よりも太い水の鞭がフレンダの手から放たれ、翼タイガーに絡みついた。
『ンニャッ!?ンニャニャアアアアアアアッ!?!?』
今度は、ガッチリと翼タイガーの全身を締め付け、その動きを完全に封じてしまった。
「よっしゃ!これなら余裕で当てられるぜっ!『ファイアアロー』っ!」
「『サンダーボゥル』っ!!」
『ンニ゛ャア゛アアアアアアッ!?!?』
続けて、ユウトの放った『ファイアアロー』と、マリの放った『サンダーボゥル』が翼タイガーを直撃し、翼タイガーは断末魔の悲鳴をあげて、その場に倒れ込んだ。
かろうじて、まだ生きているようだったが、皮膚や翼の至る所が焦げ付いたり、燃え尽きたりしていて、明らかに先程よりも魔法の威力が上がっていることが伺えた。
「どうだね、黒霧兄君!
さすがに“戦闘魔法師”として彼女達よりも戦闘経験のあるチーム“雪月花”の三人程とまではいかないが、少なくとも彼女達“魔法少女”は学生の段階で、すでに一般のプロ“戦闘魔法師”以上の魔法力を発揮出来るようになっているのだよ!」
「す…、すげぇ…っ!!」
「へへっ!どうよ、マサト!オレの魔法の威力は!」
「私もなかなかだったでしょ、マサト君♪」
「マサトー、ボクの足止めあっての、二人のトドメだっての忘れないでよー?」
さすがは次世代型“戦闘魔法師”システムと呼ばれているだけはある…!
マリ達三人がドヤ顔で俺に成果を自慢してくるので、俺は三人に「ああ!三人ともマジですげぇよ!!」と正直な驚きの気持ちを伝える。
「でも、なんで“魔法少女”に変身しただけで、こんなに魔法力に違いが?それに、マリは“炎の魔法師”だったハズで、雷の魔法は使えないハズなんじゃ?」
俺が疑問に思っていたことを尋ねると、緑川博士は目を輝かせ、身を乗り出すようにして説明を始めた。
「うむ、いい質問だよ、黒霧兄君!君の疑問に一つずつ答えていくとしよう!
まず、最初の質問の答えだが、それは君達の変身アイテム、“マギアコンパクト”の中にある“マジストーン”に秘密がある」
“マジストーン”とは、ごくごく簡単に説明すれば、“魔石”の進化形のようなものだという。
「マナは四種類の“魔力元素”と呼ばれる元素から構成されており、どの“魔力元素”を消費するかで、魔法の属性が決まるわけだ。
そして、そのマナを凝縮した“魔石”にも四属性全ての“魔力元素”が含まれており、“魔法師”は“魔石”に含まれる“魔力元素”の中から一種類を無意識に抽出し、一つの属性の魔法のみを使用するわけだ」
「え、じゃあ残り三つの属性を構成する“魔力元素”は…?」
「魔法としては使われずに、ただマナとして放出されるだけだ」
「じゃあ、かなりマナを無駄遣いしてるってことですか?」
「そう!その通りなのだよ、黒霧兄君!
“魔石”を用いた魔法は、マナ効率が極端に悪いんだ!故に、従来の“戦闘魔法師”システムでは、一対多の集団戦に特化せざるを得なかった、というわけだ!」
その非効率なマナ運用システムを効率化したものが、緑川博士の【マジョリティ】システムであり、翠山博士の【マギキュリィ】システムなのだという。
「【マギキュリィ】システムについては、この後で瑠衣から説明してもらうとして、まずは【マジョリティ】システムについて簡単に説明しておこう!」
【マジョリティ】システムの要となるのは、緑川博士の発明した新型“魔石”、“マジストーン”だ。
これは、一つの“魔力元素”のみを抽出して生み出した“魔石”で、一属性に特化しているため、100%の効率でマナを使用し、魔法を放てるのだという。
さらに、“マギアコンパクト”が周囲のマナから特定の“魔力元素”を取り込むことで、“マジストーン”が消費したマナを自動で回復するため、交換の必要が無いというのも、従来の“戦闘魔法師”より優れた点であるという。
「で、赤城君の“マジストーン”は炎の“魔力元素”、青羽君の“マジストーン”は水の“魔力元素”で作られているというわけだ」
「なるほど…、じゃあ、マリの“マジストーン”は?それに、俺の“マジストーン”、確か“マジストーンブラック”と呼んでいた気がしますけど…?」
「うむ。二人の“マジストーン”はさらに特別仕様でね。
白瀬君の“マジストーンホワイト”は、三属性の“魔力元素”、つまり炎と水と雷の“魔力元素”から作られていて、“マギアコンパクト”が任意の“魔力元素”を抽出して魔法を放ってくれるんだ」
「つまり、マリは三属性の魔法を使えるってことですか!?」
「ああ、厳密には白瀬君ではなけ、マジョリティホワイトが、だがな」
ごくごく簡単に説明すると、“マジストーンホワイト”は、“魔力元素”がごちゃ混ぜになった“魔石”とは違い、“魔力元素”が各属性ごとにきっちりと分けられた上で、必要の無い闇の“魔力元素”は含まれていないということらしい。
だから、マジョリティホワイトは三属性の魔法を操れるということなのだが、しかし二属性以上の魔法を操ることは不可能だと言われているが、この“マジストーンホワイト”を使えば、マリ以外にも三属性の魔法を操れる“魔法少女”が誕生するのでは…?
「ところがそう話は上手くなくてな、今のところ白瀬君以外でこの“マジストーンホワイト”を扱える“魔法少女”はいないのだよ」
「あ、そうなんですね…」
「そして、君の“マジストーンブラック”も、君以外の“魔法少女”では扱えなかった“マジストーン”なのだよ」
「え、そうなんですか!?」
「ああ、というより、それは本来、人間が扱える前提で作った物では無いからね」
「はい……?」
人間が扱える前提で作られていない…?
それって、まさか……、
「そう、その“マジストーンブラック”は、闇の“魔力元素”から作られた物で、君は人類史上初の“闇の魔法師”になった、ということになる」
*
俺が人類史上初の“闇の魔法師”…!?
「っても、人類史上初の男が“魔法少女”になった、っていう事実の前では霞んどっちゃけどな?」
まぁ、確かにユウトの言う通りではあるが…
「まぁ、そのことはとりあえずおいておきまして、次はわたくしの発明した“【マギキュリィ】システム搭載型戦闘魔法師”、通称“魔砲少女”の説明を致しましょう。
黒霧さん、紗々羅、準備はよろしいかしら?」
「「はい!」ですわ!」
と、俺に関しての説明は程々に、“魔砲少女”の説明をし始める翠山博士。
「従来の“魔法師”では、マナの運用効率が悪かった点を、“マジストーン”という一つの属性に特化した“魔石”を使うことでクリアした“魔法少女”に対し、わたくしの発明した“魔砲少女”は、従来の“魔石”のマナに含まれる“魔力元素”を無駄無く全て使用することでクリアしたものになります」
そう言えば先程の説明で、“魔砲”は、四属性の魔力を一つにまとめて扱い、術として放つ、みたいなことを言っていたな…
「では、紗々羅と黒霧さん、お願いしていいかしら?
それと、申し訳ありませんが、実験の再現性を高めるために、青羽さんにはもう一度『アクアウィップ』をお願いしていいですか?」
「了解ですわ、お姉様!」
「了解です!」
「了解っ!
マサト!よーく見ててよー!ボクの勇姿!『アクアウィップ』っ!!」
翠山博士に言われたフレンダは、少し調子に乗りながらも、再び『アクアウィップ』を翼タイガーに向けて放ち、翼タイガーの動きを先程同様に見事に封じてみせた。
「では、行きますわよ!マチさん?」
「ええ!」
「「モードチェンジ!カノンモード!」」
『『CANON MODE ACTIVATE.』』
すると、ガチャンガチャン!という機械音に続き、女性を思わせる機械音声が、変身に用いていた“マギアロッド”から聞こえてきたかと思うと、“マギアロッド”の先端が鋭利な槍状に変化した。
そして、その先端を翼タイガーへと向けた二人が同時に叫んだ。
「「『バスターキャノン』っ!」」
『『BUSTER CANON FIRE!』』
“マギアロッド”の先端にマナが集束していくと、次の瞬間、ドンッ!という空気を震わせるような振動と共に、魔力の塊が一直線に放出され、身動きの取れない翼タイガーの胴体を貫いた。
『ギニ゛ャアアアアアアアッ!?!?』
翼タイガーは、断末魔の悲鳴をあげながら、消失していった。
「うおっ!?た、倒した…!?」
「とまぁ、こんな感じですわ♪」
「どう?お兄ちゃん、“魔砲少女”もなかなかやるでしょ?」
「ま!ボクの足止めあってのことだけどね!何度も言わせてもらうけど!」
自慢気に胸を張る二人とフレンダ。
その二人の持つ“マギアロッド”からは、プシュー!という排気音と共に、再びその形状が元の杖状に戻っていった。
「このように、四属性の“魔力元素”を一つに集束させ、純粋な砲撃魔法と化し、一撃の威力の高い魔法を放つことを可能としたのが、わたくしの発明した【マギキュリィ】システム、ということになります」
ちなみに、“マギアロッド”は今は失われたかつての科学技術を、翠山博士と、もう一人の博士が蘇らせて作った物らしく、その中に“魔石”が収納されており、“マギアコンパクト”同様、消費したマナを自動で取り込み、“魔石”を修復する機能もあるという(この修復機能に関しては緑川博士から提供されたものだそう)。
二人の博士がさらに補足的な説明をしてくれる。
「瑠衣の発明したシステムは、私の“魔法少女”とは違って、特別な適正は必要無いから、“魔法師”ならば誰でも変身出来るというメリットがあるんだ!」
「ですが、勿論デメリットもあります。
空気中に放出されるマナの無駄遣いは無くなりますが、その分“魔石”の消費速度が早くなるのです。“魔石”自体は自動修復されますが、強力な一撃を放った後などは、再び強力な魔砲を使用可能となるまではリキャスト時間が必要となります。なので、短期決戦向けの“戦闘魔法師”ということになります」
「元より、“魔砲少女”と“魔法少女”は互いの欠点を補い合う、共闘することを前提としたシステムなんだ。なのに、世間では私の【マジョリティ】システムだけがやたらと取り沙汰されて、瑠衣の【マギキュリィ】システムが蔑ろにされていることが納得いかん!」
「まぁまぁ落ち着いて、瑠璃。世間的にはアナタの方が魔法研究者としての知名度は高いのだし、【マジョリティ】だとか【マギキュリィ】だとか、“魔法少女”に“魔砲少女”と、名称も似ているせいでややこしく、世間も混乱するでしょうから…
それに、わたくしはあくまで瑠璃と恵璃の影、表に出る必要は無いんですよ」
「しかしだな…!」
「とりあえず落ち着こう、姉さん?今はそれよりマサト君のことだよ。
マサト君、とりあえず従来の“戦闘魔法師”と、そして“魔法少女”と“魔砲少女”の違いについては理解出来たかな?」
翠山博士の言葉に出てきた恵璃という名の人物が気になったが、サンゴが俺に話を振ってきたので、今はその疑問はおいておくことにした。
「あぁ、まぁ、なんとなく理解出来た、かな…?」
「ふふ、ま、そもそも細かい裏設定なんかは分からなくとも、魔法を使う上では問題無いことだからね。
肝心なのは、ボク達は“魔法師”では無く、“魔法少女”ということ。言うまでもなく、“魔法師”の中には、戦闘に特化した“戦闘魔法師”と、戦闘以外の分野で活躍する“職業魔法師”の二種類が存在するが、ボク達は“魔法少女”なので、必然的に“戦闘魔法師”の分野でしか活躍することが出来ない。
故に、魔法を上手く使えなくては話にならない、ということになる」
“職業魔法師”の場合、多少魔法の扱いが上手くなくとも、その知識を活かしたサポートだったり、魔法の発展のための研究は出来る。
緑川博士もその例で、かろうじて魔法は扱えるが、それは素人に毛が生えたレベルで、しかし魔法学に関する天才的な知識と閃きがあって、魔法研究者という“職業魔法師”の職に就けている。
しかし、“戦闘魔法師”の場合はそういうわけにはいかず、魔法を上手く扱えなければ、人々を守るどころか、自分すら守ることが出来ない。
そしてそれは、性質上“戦闘魔法師”に近い“魔法少女”、“魔砲少女”にも同じことが言える。
「というわけだからマサト君!
君も早く魔法を使えるようになるために、今日からボクと一緒に魔法の訓練をしよう!
勿論、任意だけど、明日以降もボクは毎日この訓練場にいるから、いつでも時間のある時に来てくれて構わないよ!」
サンゴのその言葉に、マリ達も乗っかってきた。
「うんうん!それがいいよ!
私もマサト君の特訓に付き合うからさ!」
「オレだって一緒にやっちゃるぜ!」
「勿論、ボクもね!」
「お兄ちゃんの体調を管理するのは、妹である私の役目やけん、当然私もその特訓には参加するっちゃ」
「わたくしも、微力ながらお手伝い致しますわよ?」
「ああ、分かったよ。
…と言っても、自由登校とはいえ、まだ中学を卒業してないし、卒業式には勿論出らないかんけん、春休み中毎日ってわけにはいかんけど、訓練する時はよろしく頼むよ」
俺は皆の心遣いに礼を述べた。
…と、そこでふと気付いたことがあった。
「ん…?というか、サンゴは中学はどうしとっと?“魔法師”やないなら、普通の中学に通っとーはずや無いと?」
「ああ、ボクは不登校なんだよ」
しれっとそう答えたサンゴに、俺は「あ…、すまん…」と謝ったのだが、サンゴから意外な答えが返ってきた。
「いやいや、何もイジメとかそういう深刻なものじゃないんだ、いや、ある意味ボク以外の生徒達にとっては深刻な問題なのかもしれないけど…」
「ん?どういうこと?」
「ボクは女子校に通っていたんだけどね…、その、ボクに惚れた女生徒達が、ボクに見つめられただけで集団想像妊娠するという事態が起きてね…」
「ええっ!?」
「まぁ…、そんなわけでボクだけ、登校禁止例が出されて、リモートで授業を受けるという特例措置を取られたんだ」
そ、そんなことが…
イケジョってのも大変なんだな…
「俺なんて生まれてこの方モテた経験が無いから、ある意味、羨ましい限りだよ…」
「え…、マサト君、本気で言ってるのかい…?」
そう言うと、何故かサンゴが俺を珍獣を見るような目で見つめてきた。
「本気も何も、事実だしな〜…」
「え〜……?」
サンゴが何故か困惑したような表情を浮かべると、マリ達も何故か「うんうん」と深く頷いているのが見えた。
「お兄ちゃんって、今時珍しい、大昔のラノベの主人公みたいな性格しとるんよ…」
「まぁ、小学校時代はずっとオレらとつるんどったし、中学に入ってからはユウナがマサトに付きっきりやったみたいやしな〜…」
「はっきりと言ってないボクらにも問題はあるんだろうけど…、それにしても、ね〜…?」
と、妹や幼馴染達が何かコソコソと話しているが…、俺が何をしたというのだろう…?
ところで、ユウトが口にしたユウナというのは、中学で知り合った俺の女友達のことで、本名は緋崎郁凪。
ユウナと俺の幼馴染達は、長期休暇の時に、俺を通して知り合っており、仲の良い友人同士となっている。
本当なら、俺とユウナは今日、同じ高校の試験を受けているハズだった。
「そういや、ユウナは俺のこと心配しとーやろな…」
「なん?まだユウナと連絡取っとらんと?」
試験会場となる高校の校門前で、試験前に落ち合う予定だった俺とユウナだったのだが、翼タイガーの襲撃やら何やらのせいで、結局ユウナとは会えず、今に至っている。
「ああ。携帯で連絡取ろうにも、向こうは今試験中やろうしな…」
試験開始前の時間帯に、ユウナから俺の携帯宛に何度も連絡が来ていたのだが、“魔法少女”になっていたりしたせいで着信に気付かず、まだ連絡を返せていない。
「そっか。
なら、とりあえずそれまでは、ここで魔法の練習しとって、試験が終わる頃合いを見計らって連絡してあげて?ユウナちゃんもきっとマサト君のこと心配しとっちゃろうけん」
「ああ、そうやな」
マリにそう言われ、俺はユウナのことを頭の片隅に置きながら、まずは魔法の基本を習うことにしたのだった。