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第4話「幼馴染の“魔法少女”」


 魔法師育成学園には、男女共用の広大な屋外訓練施設と、男女別々の屋内訓練施設とがある。


 そのどちらも、魔法の衝撃に耐えるだけの特殊な設備が施されていて、どれだけ魔法を使っても校舎や周辺地域への影響は出ないようになっている。

 そもそも、現在の“魔法都市”内の建設物に関しては、“対魔土たいまど”と呼ばれる、魔力を無効化する特殊な素材が含まれたコンクリートなどで作られているため、物理的な被害はあっても、魔法攻撃や魔術攻撃による被害は皆無となっており、当然魔法師育成学園の校舎にも、その“対魔土たいまど”が使われているため、仮に魔法が校舎の壁に当たっても校舎が破壊されることは無い。



 そんな、魔法師育成学園にある屋内訓練施設だが、広さは福岡ドームの半分くらいあって、中には、訓練のために使用される機械や、様々なデータを収集したり、解析するための様々な機械が置かれている。

 校舎からは、渡り廊下を歩いて数分の場所にあり、そこからさらに歩いて進んだ場所に生徒寮の建物が並んだ敷地(生徒寮は、女子寮が各学年ごとに別れて三棟あり、人数の少ない男子寮が一棟の合計四棟)があって、寮から直接訓練施設へ向かうことも出来るようになっているようだ。



 そんな施設へと近付いて行くと、中にはすでに先客がいるらしく、何やら魔法が炸裂するような音が聞こえてくる。



「ちょうど今の時間は私の妹が訓練施設を借りてて、この春休みの期間を使って魔法の練習をしているんだよ」



 訓練施設へ向かう道中で、緑川博士からこんな説明があった。



「実は、私の妹も黒霧兄君と同じで、元々“魔法師”ではなかったんだ」


「え、そうなんですか!?」


「ああ。だが、妹には“マジョリティ”適性があったため、“魔法少女”、“マジョリティグリーン”に変身することが出来、今年から魔法師育成学園に通うこととなったわけだ。ちなみに学年は君達と同じ一年生だ」


「なるほど、だから春休みに魔法の練習をしてるわけですね」


「ああ、そういうわけだ。

 【マジョリティ】システムの補助があるとはいえ、今まで魔法を使ったことがない妹が、いきなり“魔法少女”になるのだからな、入学前にある程度、基本的な魔法は使えるようになっておくに越したことは無いというわけだ」



 そうして、訓練施設へとやって来た俺達は、施設内で魔法の練習をしていた杖の形をしたデバイス(“マギアデバイス”というらしい)を持ったショートボブの少女、俺の着ていた衣装の色違い、緑色を基調とした“魔法少女”、“マジョリティグリーン”と出会った。



「おーい、珊瑚さんご!一旦、訓練を止めてこっちに来てくれたまえ!」



 緑川博士が、グリーンに声をかけると、グリーンは魔法の練習を止めて、こちらへとやって来た。



「やぁ、姉さん、それにマリちゃんにマチちゃんも、今日はどうしたの?それに、そちらの少年は…?」


「うん、彼のことを紹介しておこうと思ってね。彼は黒霧君の双子の兄、黒霧優人くろぎりまさと君だ、色々あって“魔法少女”をやることになってね」


「へー、そうなんだ!男の子なのに“魔法少女”なんて珍しいね!

 ボクの名前は緑川珊瑚(さんご)、よろしくね」



 緑川さんは、チーム“雪月花”のカノン先輩とはまた少し雰囲気の違う、爽やかボーイッシュ系のイケジョ、といったところか。

 そんな彼女は俺が“魔法少女”というのをあっさりと認めて握手を求めてきたので、俺は握手を返した。



「あ、はい、よろしくお願いします、緑川さん」


「ボクのことはサンゴでいいよ。緑川さんだと姉さんと被ってややこしいからね。あと、丁寧語もいらないから、ボク達同い年だよね?それから、君のことはマサト君でいいかな?」


「はい…、いや、ああ、分かったよ、サンゴ。あと、俺のことは好きに呼んでもらっていいよ」


「了解。じゃあ、改めてマサト君、これからよろしくね!」


「ああ、よろしく!」



 ちなみに、サンゴとマリ達は、一年女子寮に入寮した際に、顔合わせをしており、今は共に寮で暮らしている仲なのだそうだ。

 他の新一年生もすでに入寮は済ませているが、マリ達以外の新一年生は春休み期間中なので帰省していて今は不在だという。



 そんな話をしていると、訓練施設に新たに二人の少女が入って来た。



「マサトっ!!」


「ワォっ!本当にマサトいるじゃんっ!!」


「ユウト!フレンダ!久し振り!」



 俺の幼馴染、赤城結都あかぎゆうと青羽あおばフレンダだ。



「マリからマサトが“魔法少女”になったって聞いて、とんで来たっちゃけど、どういうことなんっ!?」



 ショートボブで男勝りな性格と見た目だが、女子力は誰よりも高くて、料理から裁縫まで何でも家事をこなす上に、はち切れんばかりのおっぱい(チラッと聞いたところによると、バストサイズは98だという!)がとても魅力的な少女、ユウトが俺の両肩に手を置いて俺を前後に揺らしながら問い詰めてくる。


 そんなユウトを、俺から引き剥がすマチ。



「ちょっ!ユウちゃん、落ち着いて!お兄ちゃんが死んじゃうから!!」


「あ…、悪ぃ…、つい興奮しちまって…、ごめんっちゃ、マサト?死んどらんよな?」


「いやいや、さすがにそんくらいじゃ死なないでしょ。でも、ボクもマサトが“魔法少女”になったって話は気になってるとこなんだよね」



 一方のフレンダは、ショートヘアでボクっ娘、少年のような見た目と性格の元気印な少女だが、スタイルはグラビアアイドルも顔負けなスタイルをしている。


 二人とも、性格とスタイルのギャップが凄まじい、俺の自慢の幼馴染達だ。

 そんな二人に、緑川博士が俺に起こった経緯を説明した。



「…というわけで、黒霧兄君はこれから魔高女子科の私のクラスに特別推薦枠で入学してもらうこととなった。ちなみに寮も女子寮で、君達と同じ5階に住んでもらうから、部屋割りなんかは改めて皆で決めてくれたまえ」


「マジか…」


「にわかには信じ難いよね…」



 ユウトとフレンダが、驚きにも呆れにも見える表情で俺に視線を向けてくる。


 そんな中、説明を終えた緑川博士は、今度は何やら様々な色のコードが接続された小型のPCを取り出して来て、こう続けた。



「論より証拠と言うからね、今ここで黒霧兄君には実際に“魔法少女”に変身してもらおうと思っている。一応これは黒霧兄君の性別変化時における身体データや体細胞データなどなどの測定と、それによる今後の身体への影響を調査するための実験も兼ねたものだから、もし何か身体に異常があれば、すぐに言ってくれたまえよ?」


「分かりました」



 そうして、緑川博士がコードの先端に付いたパッチを俺の身体の至る所に取り付けていき、全てのコードが接続されると、小型のPCを起動させた。

 PCの画面が立ち上がると同時に、入口すぐ横の壁面が反転し、そこにモニターが現れ、俺を模したシルエットの人型が表示された。



「このPCとそっちのモニターは無線で繋がっていてね、このPCで観測したデータをそっちのモニター側のPCに飛ばし、自動解析したりしてくれるんだが…、まぁ、その辺の細かい説明は省かせてもらうよ。

 …と、よし、これでセットアップ完了だ。黒霧兄君、早速だが変身してみてくれたまえ」



 緑川博士にそう言われたが、改めて“魔法少女”になれ、と言われると恥ずかしさが先に立つ。

 さっきはわけの分からないまま、命の危機に瀕していた状況だったので変身せざるを得なかったが、いざこの場で変身しろとなると…、さすがに躊躇ちゅうちょしてしまう。


 だが…、



「さ!早く!マサト君!」


「マサトの“魔法少女”姿…!はぁ…、はぁ…!」


「わくわく♪」



 マリとユウトとフレンダからの熱い視線が、早く俺に変身しろと叫んでくる…!

 残り二人、マチとサンゴは、



「ん〜…、お兄ちゃんの“魔法少女”姿…、見たいような見たくないような…、めっちゃ複雑っちゃけど……」


「あはは、まぁ、兄妹きょうだいとしては複雑だよね…

 ボクも、姉さんが男になると考えたら…、正直複雑だしね」



 と、微妙な表情を浮かべていた。



「どうした、黒霧兄君?何か心配事かい?大丈夫さ、私の計算上では、変身して女子の身体に変化しても、また男子の身体には問題無く戻れるハズだ。そのための、この設備だ」



 緑川博士が言うには、俺に繋がっているコードから、常に身体の状況をモニタリングしつつ、数秒先に起こり得る状況なんかをAIがシミュレーションし、取り返しのつかない事態になりそうな場合は、緊急停止信号を送り込んで、俺の変身を強制解除出来る仕組みになっているらしい。


 だが、それでも俺が変身するのを躊躇ちゅうちょしていると、ユウトがこんなことを言い出した。



「分かった!それならオレも変身しちゃる!」


「え!?」


「一人だけ変身ってなると、やっぱ恥ずかしいもんな!」



 いや、別にそういう理由で恥ずかしがっていたわけでは…


 しかし、俺が何かを言うよりも先に、ユウトは自分の“マギアコンパクト”を取り出して、こう続けた。



「オレの変身姿を見るんは博士以外やとマサトが初めてやけんね!しっかり見ちょきーよ!」



 そう言うと、ユウトは“マギアコンパクト”を胸に当てて、こう叫んだ。



「『“マギアコンパクト”、起動』っ!」



 すると、コンパクトから赤い炎が噴き上がり、ユウトの全身を包んだ。

 そして、次の瞬間にはユウトの全身は、赤を基調としたフリフリの可愛らしいデザインの“魔法少女”姿へと変わっていた。



「おーっ!!」


「へへっ♪どうよ?これがオレの変身した姿、“マジョリティレッド”っちゃ!」



 俺やサンゴと同じデザインの色違い衣装に身を包んだマジョリティレッドは、普段の勇ましいユウトの印象を残しつつも、そこに可愛さも合わさって、もうそれだけで最強に思える(勿論、普段のユウトも可愛いんだけどな!)。



「ちょおっ!ユウトだけズルい!!」


「私もっ!マサト君に私の初変身見てもらいたいっちゃっ!!」



 そんなユウトの変身姿に見惚れていると、マリとフレンダが対抗心を燃やしたのか、二人とも自分の“マギアコンパクト”を取り出し、胸に当てると、同様に叫ぶと、マリのコンパクトからは虹色の輝きが、フレンダのコンパクトからは水飛沫みずしぶきが舞い上がると、二人は“魔法少女”へと変身を遂げた。



「これが私の変身、“マジョリティホワイト”!」


「そしてボクが“マジョリティブルー”だよっ!」



 マリが白を基調としたデザインに、虹色のラインが入っているのに対し、フレンダは青を基調としたデザインの“魔法少女”姿で、どちらもとても似合っていて、可愛かった!


 こうなると、マチの変身した姿も見たくなるが、マチは“魔法少女クラス”では無いから、“魔法少女”には…、



「皆が変身するなら、私も変身するしか無いやん…!」



 と、マチが予想外のセリフを呟いた。



「え、マチも変身出来るの?」


「うん、私の場合は“魔法少女”やなくて、“魔()少女”、やけどね」


「…え?」



 俺が疑問に思っている前で、マチは“マギアコンパクト”のような球状の物体を取り出したかと思うと、次の瞬間、その球状の物体から細い棒が伸び、杖のような形状に変化し、その柄の部分を掴み、叫んだ。

 


「『“マギアロッド”、セットアップ』っ!」



 すると、杖からリボンのような形状の光線が放たれ、マチの全身を包み込むと、次の瞬間にはマチの姿が変わっていた。

 マリ達の“魔法少女”が、プリティでキュアキュアなイメージだとすると、マチの姿は、セーラー服な美少女戦士といった感じの、スタイリッシュでクールビューティーなイメージの姿だった。



「“【マギキュリィ】システム搭載型戦闘魔法師”、“マギキュリィアインス”、通称“魔砲少女”、これが私の変身した姿よ」



 “魔法少女”ではなく、“魔()少女”、それがマチの変身した姿の“マギキュリィアインス”らしい。




 “【マギキュリィ】システム搭載型戦闘魔法師”、通称“魔砲少女”。

 それは、魔法研究者の一人にして、現在12魔高の教師でもある翠山瑠衣みどりやまるい博士が数年前から開発していて、ようやく今年になって実用段階へと入った“戦闘魔法師”システムである【マギキュリィ】システムを使って変身する新たな“戦闘魔法師”のことだそうだ。



翠山みどりやま…、ってことはマチの所属する“翠山みどりやま組”の?」


「うん、私達の担任の先生になる人やね」


「なるほど。でも、その“魔砲少女”ってのは…?“魔砲”と“魔法”って違うと?」



 俺の疑問に、今度は緑川博士が答えた。



「厳密には同じものだが、“魔法によって放たれる広域殲滅砲撃弾”、略して“魔砲”って感じだな」



 うん、よく分からん…


 と思っているところへ、新たな人物が訓練施設へとやって来た。



「“魔法”は、主に四属性、炎・水・雷・闇という魔力それぞれを単独で扱い、術として放つものですが、“魔砲”はそれら四属性の魔力を一つにまとめて扱い、術として放つことで、一撃の威力の高い純粋な砲撃魔法となるのです」


「おお!瑠衣るい!君も来たのかい?」



 緑川博士に瑠衣るいと呼ばれた白衣を着た女性こそ、“魔砲少女”の生みの親である翠山瑠衣みどりやまるい博士のようだ。



「ええ。何やら面白いことをしているという話を小耳に挟んだものですから。それで、その子が噂の“魔法少女”に覚醒したという少年ですか?」


「ああ!君の生徒、黒霧君の双子の兄である黒霧優人くろぎりまさと君だよ!」


「なるほど、黒霧さんの…

 初めまして、わたくしは翠山瑠衣みどりやまるい、来年度から“翠山みどりやま組”、通称“魔砲少女クラス”の担任をすることになりました、よろしくお願い致しますね?」


「あ、は、はい、よろしくお願いします、翠山みどりやま博士!」



 俺は差し出された手を握り返し、挨拶をした。

 と、そこで俺は、翠山みどりやま博士の背後にもう一人、ザ・お嬢様といった見た目の少女がいることに気が付いた。


 俺の視線に気が付いたのか、翠山みどりやま博士が横にずれると、その少女を俺に紹介してくれた。



「この子はわたくしの妹で、黒霧君達と同じ新一年生の、」


翠山紗々羅(みどりやまささら)と申します。

 わたくしのことはササラと呼んで下さいまし、あと敬語も無しでお願い致しますわ、マサトさん」



 肩にかかったドリル状に巻いた髪を左手で払う仕草と共に、自己紹介をしてくれた彼女、翠山紗々羅(みどりやまささら)


 そんな彼女の側に、緑川博士の妹、サンゴが近付いていくと、



「やぁ、ササラも来たんだね」



 と言いながら、ササラの唇にキスをした。



「えぇっ!?ちょっ、サンゴ!?」



 俺が驚いていると、サンゴは何も無かったようにこう続けた。



「ふふ、彼女はボクの幼馴染であり、ボクの大切な恋人でもあるんだ」


「もう…!だからって人前でキスは恥ずかしいですわ…!」



 この男子が少ない世界では、女性同士のカップルは当たり前とはいえ、目の前で見せつけられるとさすがに驚く。

 しかし、二人の関係については周知のことのようで、俺以外の全員は「また人前でイチャついてる…」みたいな顔をしていた。



「そんなことより、黒霧兄君!君も早く変身したまえ!ちょうど瑠衣るいも来てくれたところだし、彼女にも君の変身を見てもらおうじゃないか!」


「あらあら、ベストタイミングでしたわね。わたくしも、黒霧君の変身にはとっても興味がありますわ♪」



 マチ達の変身した姿に見惚れていて忘れかけていたが、ここには俺の変身と、それによる身体への影響を調べるために来ていたのだった。


 俺が変身しやすくなるようにと、皆がわざわざ変身してくれたわけだから、ここで俺が引くわけにはいかないだろう。

 覚悟を決めて、“マギアコンパクト”を握りしめた。



「…ま、『“マギアコンパクト”、起動』っ!」



 すると、“マギアコンパクト”からドス黒い炎のようなオーラと共に、全身が熱く燃えるような感覚に包まれたかと思うと、俺の身体は女子のものへと変化していき、着ていた服も黒を基調としたマリ達とお揃いの可愛らしい衣装へと変化した。



「「「「おーっ!!」」」」


「へー♪」


「あらあら♪なんと可愛らしい♪」



 そんな俺の変身した姿を見て、マリ達は感動したような表情を浮かべ、サンゴとササラは弟の成長を見るような、そんな微笑ましい表情を浮かべていた。



「なるほど…、これが“マジョリティブラック”なんですのね。本当に性別が反転しているなんて…

 それに、“マジストーンブラック”の適合者が現れるなんて…」


「ああ。驚きだろう?しかし、この数値を見る限り、身体機能などへの影響はほとんど見られず、むしろ心身共に健康そのものなのだよ!」


「確かにそのようですわね…

 AI予測によるグラフでもおかしな所は見られないようですし…」


「ああ!そうなんだよ!この結果をどう見る、瑠衣るい?」


「そうですわね…マナの細胞構築能力と細胞再生能力と彼の持つ“マジョリティ細胞”が影響を……、……」


「ああ、さらにこれだ!致死遺伝子と“マジストーンブラック”が影響しあって複雑な相関関係を生み出し……、……」



 一方、博士達は真面目な表情を浮かべながら、俺の姿とモニターの数値を交互に見ながら、所見を述べ合ったりしていた。

 途中から何を話しているのか、専門用語が増えてきて理解出来なくなってきたところで、マリ達が俺の側にやって来た。



「本当にマサト君が“魔法少女”になっちゃった…!」


「目の前で見とっても信じられんっちゃ…!」


「というかマサト、おっぱい大き過ぎない!?」


「し、下の方はどうなっとーと、お兄ちゃん!?」


「だーっ!?ちょっ、待っ…!?フレンダ、おっぱい触んな!?マチ!下はやめろ!!スカート脱がそうとすんなーっ!!」



 マリ達四人にもみくちゃにされる俺。

 そうこうしている内に、データ解析が終わったらしく、緑川博士が満足気な表情でこう言った。



「うん、私の“マジョリティ”システムに問題無し!」


「えっと…、つまり、どういうことですか…?」



 俺が問い返すと、翠山みどりやま博士が代わりに答えてくれた。



「つまりですね、性別変化による黒霧君の身体に与える影響は、短期的にも長期的にも問題は無いということです」



 二人の博士の説明によれば、変身による性転換は、マナの持つ細胞構築能力と細胞再生能力によるもの、とのこと。

 これは、再生医療の分野でマナが使われていることと同様の理屈らしい。



「例えば、従来の医療では、切断された腕なんかを元通りに繋ぎとめる際、切断面が綺麗でかつそれ程時間が経っていない場合にのみ可能でしたが、マナを使えば、切断面が綺麗でなかったり、時間が経っていたりしても、その失われた細胞を新しく構築させたり、壊死した細胞を再生させることで、元通りにすることが出来ます」


「そのことを踏まえた上でざっくりと説明すると、黒霧兄君の場合、“マギアコンパクト”から放出されたマナが、黒霧兄君の体内の“マジョリティ細胞”に作用することで、【マジョリティ】システムに最適な身体へと、細胞の自動再構築が行われ、一時的に性別が女子へと変換されるわけだ」


「そして、変身を解除した際には、“マジョリティ細胞”が不活化することで、体内に残ったマナが、元の性別である男子の身体に戻そうと、細胞の自動再生機能と自動構築機能が働くわけです」


「厳密には、それだけで性転換が可能となっているわけではなく、そこに【魔女】の呪いである致死遺伝子と、君の“マギアコンパクト”に使われている特殊な“マジストーン”、“マジストーンブラック”が複雑に作用することで、このような現象が可能となっているわけだが、まぁ、詳しい理屈はおいておいて、君は“魔法少女”として今後活躍していくことで、身体の健康状態が脅かされるような副作用は一切起こり得ない、ということだ」


「なるほど…、よく分かりませんが分かりました。とりあえず、変身し続けても問題は無いってことですよね?」


「端的に言えばそういうことだね」


「良かったね、お兄ちゃん!」


「ああ、そうだな」



 とりあえず、この状態でいることに副作用など無いことが分かったことは一安心だ。



「じゃあ、もう変身を解除しても、」


「まぁまぁ、待ちたまえ、黒霧兄君!せっかくここに、“魔法少女”と“魔砲少女”が揃っているんだ。ついでに、軽く魔法の練習をしていってはどうだろう?」



 俺が変身を解除しようとすると、緑川博士がそんなことを言い出した。



「君も、私の妹同様、“魔法師”では無く、これまで魔法を使ったことが無かったのだろう?

 であれば、ここで少し“魔法少女”のことを学びつつ、魔法の練習をしていくのも悪くは無いんじゃないか?」


「それは…、確かに願ったり叶ったりですけど…、」


「よし、決まりだ!

 じゃあ、準備をするから少し待っていてくれたまえ。それと、白瀬君達にも手伝ってもらいたいが、時間は大丈夫かい?」


「はい!」


「ああ!オレも問題無いっちゃ!」


「ボクも大丈夫だよー!」


「私も問題無いです」


「なら、ボクもこれまでの復習も兼ねて、見学させてもらおうかな?」


「でしたら、わたくしも人肌脱ぎましょうか」



 すると、ササラが杖の形をしたデバイス(マチの持っている物と同じ形状で、“マギアロッド”というらしい)を手に持つと、こう叫んだ。



「『“マギアロッド”、セットアップ』ですわっ!」



 すると、ササラもマチと同じ“魔砲少女”へと変身した。

 マチのセーラー服のようなデザインに黒のラインの入った衣装に対し、ササラは同じくセーラー服だが、緑のラインが入った衣装となっている。



「“マギキュリィゼロ”、それがわたくしの変身した姿ですわ」


「ああ!ササラ、やっぱり君の変身した姿は素敵だね!最高だよ!」


「もうサンゴさんってば…、そのセリフ何度目ですの?」


「何度だって言うさ!それ程に君は素敵なんだから!」


「そういうアナタの方こそ、素敵ですわよ…?」


「ああ、ありがとう、ササラ♪」



 と、サンゴとササラは抱き合うと、二人だけの空間に入ってしまったので、一旦俺達は二人のことを無視することにした。



「よし、準備が整ったよ!

 では、春休み特別講習の開始だ!」

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