第12話「不完全な【魔女】」
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学園生活がスタートして初めての週末がやって来た。
…というか、入学する前からもそうだが、入学してからも色々あったせいでまだ高校生活始まって一週間しか経ってないというのが信じられない。
そんな土曜日の朝から桜寮、というか主に俺の部屋では大騒ぎだった。
「こないだの放課後はマリ達がデートしたんやけん、次はオレらがマサトとデートする番っちゃ!」
「いやいや!デートって言っても放課後のほんの数時間だけやったし、その後は魔女教のせいで大変な目にあったんやけんノーカンっちゃ!」
「まぁまぁ、ユウトもマリも落ち着いて!ここは間をとってボクがマサトとデートをするってことでどう?」
などと、俺とのデートを巡って恋人達が争いを繰り広げていた。
「もういっそ全員で出かけるってのは…?」
「んー、それも楽しそうやけど…、」
「皆で長旅とか温泉旅行とかならいいっちゃけど…、」
「一日デートだとさすがに多くても二、三人がいいかなー?」
「やないとお兄ちゃんも大変っちゃない?」
確かにマチの言う通りなのだが…
今この場にはいないユイとレンカを除いても、まだ八人もいるわけだから、一度に全員で出かけるには多過ぎる。
ちなみにユイはユウとデート、レンカは何か別の用事ということで不在だ。
「もうこうなったらジャンケンかグッパで決めるしかねぇだろ!」
「やね」
「じゃあ、今日デート行く人と明日デート行く人の二組に分かれるってことでいいかな?」
「オッケー!それならグッパでチーム分けしよう!」
そして、俺そっちのけで盛り上がる彼女達を眺めながら、内心では綺麗で可愛い自慢の恋人達とのデートを楽しみにしている俺なのだった。
*
土曜日の昼頃、大勢の人達で賑わう小倉都心部にあるアーケード商店街魚町銀天街。
ここは日本におけるアーケード商店街発祥の地と言われる商店街で、第12魔法都市でも特に賑わう場所だ。
そんな商店街を12魔高の三年、風霧花音と綺羅竹鶴の二人が歩いていた。
「んー♪カノンちゃんと二人っきりでデートなんてまぢおひさーって感じで超あげあげなんですけどー♪」
「ふふ♪ボクもチヅル君と二人きりで嬉しいよ♪今日はボクだけが君を一人占めだ♪」
「きゃー♪まぢやばたにえーん♪」
見た目はクールな王子様系女子と、ザ・ギャルなアゲアゲコーデの女子が並んで歩いているだけでかなり目立つのだが、その上二人の大袈裟な身振り手振りを加えた会話がさらに人目に付き、やたらと目立っていた。
だが、そんな周囲の目線を気にすることなく二人は商店街の中を堂々と歩いていく。
「それで我が姫、今日は何処に行きたい?」
「んー…、とりまゲーセンかなー?あーでもカラオケも行きたいかもー?」
「ふふ♪ならどっちも行こう。今日という日は限られているからね、出来なくて後悔するくらいなら、やりたいこと全部やって楽しもうじゃないか!」
「いぇーい♪カノンちゃんまぢサイコー!愛してるぜい!」
と聞いてる方が恥ずかしくなるような会話をしながら歩く二人の前で、何やら騒ぎが起きていた。
「ちょっ!?リコ!?大丈夫っ!?」
「え!?これ救急車!?救急車呼ぶ!?」
騒いでいたのは三人組の女子高生らしき集団で、慌てふためく二人の中心で、一人の女子が膝を付いて頭を押さえながら苦痛の表情を浮かべていた。
その様子を見たカノンは、さっ!とその少女の元へと駆け寄り声をかけた。
「やぁ、お嬢さん?何処か具合でも悪いのですか?」
「え!?ちょっ、誰!?」
「ってか超イケメン…♥」
「あー、二人ともメンゴメンゴー?カノンちゃんいつもこんな感じやけん気にせんでねー?」
突然現れたカノンに戸惑いの表情を浮かべる周りの二人にチヅルがフォローに入る。
一方で、膝を付いて頭を押さえたままの少女は、カノンに話しかけられても反応せず、ただただ苦しそうにしているだけだった。
「むぅ…、これはただ事ではないね…!チヅル君!早く救急車を!それから君達二人は近くのお店で、この娘を寝かせるためのシートか何かを借りてきてくれないか!?」
「りょー!」
「「は、はいっ!」」
普段はふざけているように見えるカノンだが、こういう非常時における判断は素早く的確で、さっさとチヅル達に指示を出すと、自身は頭を押さえる少女の体勢が少しでも楽になるようにと、背中と膝を支えながら少し横向きにさせる。
その頃になると、周りにいた他の人々も騒ぎに気付き、遠巻きにしながら状況を見守る人や、足早にその場を立ち去る人など現れ始めた。
「うぅ…!?ぐぅうう…っ!?」
「君っ!大丈夫かい!?しっかりしたまえ!!ボクの声が聞こえているかいっ!?」
「うぐぅうう…っ!?痛い…っ!!頭が割れるように痛いぃいいいっ!!」
「大丈夫だ!もうすぐ救急車が来る!だから気をしっかり持つんだっ!!」
「あの!下に敷くシート!借りてきましたっ!!」
カノンが呼びかけていると、シートを借りに行っていた少女の友人達がシートを持って戻って来た。
「ああ!ありがとう!じゃあ、そこに敷いてくれたまえ!」
「「はいっ!」」
カノンに指示された二人は少女の側にシートを敷き、カノンはその敷かれたシートの上に少女をゆっくりと寝かせた。
そしてそのタイミングで救急に電話をしていたチヅルが帰って来た。
「救急に電話したよー!すぐに来てくれるってー!」
「ありがとう、チヅル君!君、もうすぐ救急車が来てくれるそうだ!だからそれまで…、」
「うぐっ!?うわぁあああああっ!?!?」
だがその時、信じられない事が起きた。
シートに横になっていた少女が頭を抱えながら突然立ち上がると、その頭から二本の角が生え、同時に尾てい骨からは先端が矢印のようになった尻尾が生えたのだ。
『あ゛あ゛ぁああああああああ゛ぁ
っ!?!?』
「嘘ぉおっ!?」
「「きゃああああああっ!?」」
少女の変貌した姿を見て驚くチヅルと少女の友人達。
唯一、カノンだけはチヅル達とは別の理由で驚いていた。
「ま…、【魔女】…っ!?まさか…っ!?」
そう、その少女の姿は昨日学園の〈封印の間〉で見た【魔女】の姿と酷似していたのだ。
『うがぁあああああああっ!?』
【魔女】を思わせる姿に変貌した少女は、目を血走らせながらぶんっ!と腕を横に振ると、衝撃波が発生して周囲にいた人々を吹き飛ばした。
「きゃあああっ!?」
「うわぁあああっ!?」
「ぎゃあああっ!?」
商店街に悲鳴と怒号が響き渡る。
「うわわわわわっ!?ヤバいよヤバいよヤバいよ!?カノンちゃんどうすんの!?」
なんとかその場で堪えたチヅルは、同じようにその場で堪えていたカノンに指示を乞う。
「とっ、とりあえず変身だっ!博士達への許可は事後承諾でっ!!」
「りょっ!」
カノンがマギアコンパクトを、チヅルがスマホ型のデバイスを操作して、マギアアローを転送させてもらってそれを手に持つと、二人同時に叫んだ。
「『マギアコンパクト起動』っ!」
「『マギアアローセットアップ』っ!!」
次の瞬間、カノンはフリルのたくさん付いた真っ赤なドレスのような衣装を身に纏ったマジョリティウインディに、チヅルは黄色い稲妻を思わせるラインの入ったセーラー服のような衣装を身に纏ったマギキュリィフュンフに変身した。
「フュンフは人々の避難誘導を!ボクは彼女を商店街の外に誘導して被害を最小限に抑える!」
「りょっ!」
こうしてウインディ達は、突如として現れた【魔女】のような見た目に変貌した少女と戦うことになったのだが、同様の出来事は第12魔法都市の各地でも起きていた…
*
俺とデートに行くメンバー分けを終えたマリ達が、今度は今日行くか明日行くかで揉め始めた時に、そのニュースは飛び込んできた。
ずっと蚊帳の外だった俺は暇だったので一人ソファに座ってテレビでバラエティ番組を見ていると、突然画面が切り替わり、スタジオにいる女性ニュースキャスターの姿が映った。
『番組の途中ですが臨時ニュースをお伝えします。本日正午頃、第12魔法都市の各地にて…、えっと…、つ、角!?その、角や尻尾のようなものが生えた女性が突然暴れ始めるという事件が起きており、現在、緊急事態宣言が発令され、外出禁止令が出されております』
「な、何だってっ!?」
「「「「「ええっ!?」」」」」
ニュースが耳に入ったらしいマリ達も驚きの声をあげる。
「おいおい、なんだよそれ…?角や尻尾のようなものが生えた女性って…?」
「まさか【魔女】…!?」
いまいちピンと来ていないユウキに対し、ユウトは信じられないという表情でそう言った。
「え、ま、【魔女】ってどういうこと!?」
「あ、そうか、ユウナちゃん達は【魔女】の遺体を見とらんもんね…」
この場にいるメンバーで、魔法少女クラスの俺とマリ、ユウト、フレンダの四人は昨日学園の〈封印の間〉にて【魔女】の遺体を見ていて、それで【魔女】に角や尻尾が生えていることを知っていたが、実際に見ていないマチとマリア、ユウキ、ユウナの四人はその事実を知らないためいまいちピンと来ていなかった。
ニュースを読んでいる当のキャスターも驚きと困惑の表情を浮かべていることから、それだけ非現実的な事象だということでもある。
そして、その事実を知っている俺達からしても驚きのニュースであった。
何故今このタイミングで【魔女】が復活したのか…?
いや、そもそも本当にそれは【魔女】なのか?
俺達が見た【魔女】の遺体には翼も生えていた。
しかし、ニュースでは角や尻尾とだけしか言っていなかった。
翼が生えていたことを省略して説明した可能性もあるが、しかし角よりもよほど目立つ翼の存在を省略するのは違和感がある…
と、そんなタイミングで俺達のスマホにメールの着信があった。
どうやら関係者宛に一斉送信されたものらしく、差出人は緑川博士だった。
メールを開くと以下の文面だった。
『君達、ニュースは見たかな?
現在第12魔法都市内にて、少なくとも5名の【魔女】に似た存在が確認されている。
今、各地の守衛隊と【チーム雪月花】、【チーム松竹梅】のメンバーが対応に当たってくれている。
君達は寮にて待機し、万が一には出動してもらう可能性があることを念頭に置いておいて欲しい。
詳細が分かればまた連絡する、それまでは待機しておくように。
くれぐれも勝手な行動は控えるように』
ということで、結局この日のデートは中止となり、俺達は寮で大人しく過ごさざるを得なくなったのだった…
*
外出禁止令が出された第12魔法都市。
その市内に住むごくごく普通の女子高生水嶋静は、その日も謎の頭痛に悩まされていた。
「痛たた…、なんで最近こんなに頭痛になる日が多いんやろ…?」
念のため医者にもかかったが特に異常は無く、季節や環境の変化などからくる一時的なものだろうと言われ、一般的な痛み止めの薬しか処方されなかった。
実際、頭痛以外で特に体調不良は無く、薬を飲めば痛みは治まるため、普段通りの生活を送るうえでは問題無かった、のだが…
シズカは家でぼーっとしながらテレビを見ていた。
テレビではどのチャンネルでも、突如現れた謎の角や尻尾の生えた少女達による事件のニュースが報道されている。
『本日正午頃、第12魔法都市の各地にて角や尻尾のようなものが生えた女性が突然暴れ始めるという事件が発生しましたが、現在、それらの事件は全て守衛隊や、魔法師育成学園の魔法少女達の活躍によって鎮圧されたようです。
ですが、依然緊急事態宣言は解除されておらず、外出禁止令は継続したままとなっております…』
ニュースでは視聴者提供による映像などが流されたり、現場にいた人達のインタビュー映像が流されたりしていた。
そうしたインタビュー映像の中で、シズカは気になるワードを耳にした。
『…、はい、その人は頭が痛いって言いながら倒れ込んで…、そして突然叫んだかと思うと、角と尻尾が生えてきて、それで……、』
「え?頭が…!?」
その瞬間、他人事だと思っていた事件が突然身近なものに感じて、思わず頭に手を当てた。
「ほ…、角生えてない…、良かっ、」
「ですが、いずれはアナタもああなりますよ、水嶋静さん」
その時、自分しかいないハズの部屋で自分以外の女性の声がしたので、シズカはドキッ!として背後を振り返った。
すると、そこには左側でサイドテールにした少女が立っていた。
「え…っ!?だ、誰っ!?いつからそこに…!?」
少女はシズカの問には答えず、ニコリと微笑みながらこう続ける。
「アナタのその頭痛は、覚醒の前兆なの」
「か、覚醒の前兆…?」
「そう、そのままだとアナタは【魔女】のまがい物として自我を失ってしまうわ」
「な…、何よそれ…!?【魔女】のまがい物!?冗談は、」
「水嶋静さん、かつて魔女教に祝福を受けたアナタを迎えに来ました」
「え…?」
そう、シズカには魔法師の才能があり、そのせいで十年前魔女教に誘拐された被害者であり、魔女の細胞を植え付けられた犠牲者でもあった。
しかし、その事件がきっかけで彼女は魔法師としての道を選ばず、一般人として普通に生活することを選んだ少女の一人だった。
「選んで下さい、このまま不完全な【魔女】として自我を失い、ニュースの彼女達のように守衛隊に鎮圧されるか、私と共に来て新たな世界の救世主となるか?」
シズカの問には答えず、一方的に言葉を続ける少女の勢いに飲まれそうになるシズカ。
「あ…、あなたは一体何者なの!?一方的に変なこと言って、付いて来いだなんて言われて、そんなの信用出来るわけないじゃないっ!!」
「それはごもっとも。
ですが信じてもらわないと、このままアナタの頭痛を放置していては、アナタの中の〈魔女の因子〉が暴走し、彼女達のように不完全な【魔女】として覚醒してしまうんですよ。
そうならないためには、私と共に来て頂く必要があります」
「だから、行くって何処に!?」
「勿論、私達の住む〈【魔女】の聖地〉に、です」
「ま、〈【魔女】の聖地〉…!?」
「はい」
そう言うと少女は、大袈裟に一礼してこう続けた。
「申し遅れました、私の名前は白瀬麻美、人類を救済するために復活した、二代目の【魔女】になります」




