第9話「連携訓練②【チームグリーン】」
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先輩達の訓練の後、翠山博士と碧風博士も合流し、いよいよ俺達一年生組の連携訓練の番となった。
マリアの魔法の件は朝の時点で博士達に話していたが、そちらも合わせて確認することになった。
つまり、上手くいけばマリアは魔法師と戦乙女の二刀流となるわけだ。
「私、緑川瑠璃の発明した【マジョリティ】システム、翠山瑠衣の発明した【マギキュリィ】システム、そして碧風恵璃の発明した【ヴァルキリー】システム、これら三つを合わせて〈Three Green's MAGICA System〉、略して〈3GMS〉と呼んでいるわけだが、君達一年生がこの〈3GMS〉の最初の試験モデルと言える」
緑川博士がそう言うと、続けて翠山博士と碧風博士がこう言った。
「特に【マギキュリィ】システムと【ヴァルキリー】システムは、今後量産化していく予定ですから、皆さんの戦闘データは今後のためにも重要なものとなります」
「【マジョリティ】システムに関しては、昨日君達に話した事情から量産化は難しいと言わざるを得ないけど、だからって君達のデータが無駄になるわけじゃないから、訓練とはいえ本気で取り組んでね!」
「うむ、恵璃の言う通りだ!私は【マジョリティ】システムの一般化及び量産化を諦めていないからな!いずれマジョリティ細胞に依らない【シン・マジョリティ】システムとも呼ぶべきシステムを作り上げてみせるぞ!」
碧風博士のセリフを受けて緑川博士がそう力強く答えた。
現状【マジョリティ】システムはマジョリティ細胞を持つ者、つまり魔女教に拐われて【魔女】の細胞(と思われる細胞)を埋め込まれた者のみが扱えるシステムということになっている。
緑川博士が最初にマジョリティ細胞の存在に気付き、【マジョリティ】システムを完成させた時点では、このマジョリティ細胞の出自がはっきりしなかったことから量産化計画を前提にマジストーンの生産などを行っていたが、今となってはそれも難しいと言わざるを得なくなってしまった。
だが、マジョリティ細胞に頼らない変身システムが出来たなら、きっと今の魔法師システムは大きく変わることになるだろう。
そしてそれは勿論【マギキュリィ】システムや【ヴァルキリー】システムが一般化されても同じ事だ。
特に【ヴァルキリー】システムは、非魔法師であっても戦闘魔法師の仕事が可能になるかもしれないという点で革命的とも言えるだろう。
ただその一方で、【ヴァルキリー】システムの一般化によって、戦闘魔法師が仕事を奪われるのではという問題も起こりかねない。
かつて旧世界でもあったという『AIが人に取って代わる時代が来るかもしれない問題』に近いものがあるかもしれない。
…が、そんな難しい問題は今の俺達には関係無いことだ。
今の俺達が出来ることは、この世界の平和のために、そして未来の新世代魔法師の人達のために頑張ることだけだ!
「一年生は二年生と違って逆に人数が多いので、三人一組のチームに分かれて訓練を行う!」
博士達に言われて分かれたチームは以下の通り。
▼【チームグリーン】
・緑川珊瑚/マジョリティグリーン(雷の魔法少女)
・翠山紗々羅/マギキュリィゼロ
・碧風咲楽/ヴァルキリーリーフ
▼【チームレッド】
・赤城結都/マジョリティレッド(炎の魔法師)
・紅垣悠貴/マギキュリィツヴァイ
・緋崎郁凪/ヴァルキリールビー
▼【チームブルー】
・青羽フレンダ/マジョリティブルー(水の魔法師)
・焔優依/マギキュリィドライ
・蒼柳恋歌/ヴァルキリーサファイア
▼【チームブラック】
・黒霧優人/マジョリティブラック(闇の魔法少女)
・白瀬麻里/マジョリティホワイト(炎水雷の魔法少女)
・黒霧摩智/マギキュリィアインス
・白波麻里亜/ヴァルキリーパール
人数の関係から【チームブラック】だけ四人になっているが、各チームごとに魔法少女と魔砲少女、戦乙女が一人ずつ分かれたことになる。
「では、まずは【チームグリーン】の訓練から行います」
翠山博士に言われて、【チームグリーン】のマジョリティグリーンとマギキュリィゼロ、そしてヴァルキリーリーフが前に出た。
グリーンのマギアデバイスは杖型で、ゼロの持つ変身デバイスも杖型のマギアロッド、そしてリーフの武器戦装具は苦無と手裏剣の二種類らしい(今は苦無を腰のベルトにいくつか装備している)。
「【チームグリーン】の戦う相手はコイツだー!」
碧風博士がそう言うと、三人の目の前に肉食恐竜のような見た目の魔獣〈ディノス〉のリアルホログラムが現れた。
「君達はまだ一年生だからね、まずは初級レベルの魔獣や魔物を仮想的に訓練を行っていくよ!」
「さて、というわけで準備はいいかい、三人とも?」
「「「はい!」」」
「では、訓練スタート!」
緑川博士の合図で【チームグリーン】の連携訓練が始まった。
チームのリーダー格であるグリーンが二人に指示を出す。
「前衛は僕とリーフが担当するから、ゼロは後衛から援護をお願い!」
「了解しましたわ!」
「オッケー!」
指示を受けてまず飛び出したのはリーフだ。
ちなみにだが、戦乙女の纏う衣装戦装束は胸元の大きく開いたアーマーに、ヘソ出しのコルセット、両サイドのくびれ部分には大きなリボン(ただし、結び目の下側はテールのように膝下まで伸びている)、背中には菱形の羽、ボトムスはレオタード状になっていて、腰のベルトからはお尻と太ももを守るようにスカート状のアーマー(正面側は三角形に切り取られていて、Vラインが見えている)、両手には肘の少し上から掌までを覆うアームカバーが装着されており、両足には股下十センチメートル下から全体を覆うロングブーツというスタイルだ。
各属性ごとに基調となる色が異なっていて、それぞれリーフは緑色、パールは白、ルビーは赤、サファイアは青となっている。
俺達魔法少女がプリティでキュアキュアなキュート系衣装で、マチ達魔砲少女がセーラー服な美少女戦士のようなクール系衣装なのに対して、戦乙女は全身武装した武装少女といった見た目の違いがある。
閑話休題、そんな緑色を基調とした戦装束を身に纏ったリーフが、背中の菱形の羽(よく見れば小さな噴射口のようなものがある)から火を噴き出しながら、ディノスへと向かって直進していく。
「くらえぇえっ!!」
リーフが腰に下げた苦無を掴んで同時にいくつも投げると、バチバチッ!という火花を走らせながらディノスに直撃する。
『グギャァアアアアアッ!?!?』
すると、ディノスの全身に電撃が走りディノスは悲鳴をあげた。
戦乙女は非魔法師ではあるが、その力の源はマナとなっている。
戦乙女が変身や攻撃の際に使う乙女石は、科学技術によって作られた擬似魔石で、それが自動で空気中のマナから魔力元素を吸収し、戦装束に仕込まれた魔法陣を介して魔法を使用するというシステムなのだそうだ。
故に、使用者によって扱える(得意な)魔力属性が異なっており、リーフは雷属性の攻撃を得意としているらしい。
そうしてディノスを電撃で痺れさせている間にグリーンがディノスの背後に回り込み、杖の先端を向けた。
「『サンダーショット』っ!!」
『グギャギャァアアアアアッ!?』
グリーンの魔法はディノスの背中にクリーンヒットし、ディノスは背中を仰け反らせた。
グリーンも俺やリーフと同じく元々魔法師ではなかったが、マジョリティ細胞の影響で魔法少女になり魔法が使えるようになった。
そのため、攻撃魔法はまだまだ初心者で命中や威力に難ありということだったが、動きを止めた相手であれば問題無く当てられるわけだ。
「よし!次は『サンダー…、」
「グリーン!避けて下さいまし!!」
グリーンがさらに追撃しようとするが、遠方から戦況を見ていたゼロがそう叫ぶ。
グリーンはその言葉に即反応して高く飛び上がったその直後、ディノスの長い尻尾が先程までグリーンのいた場所を薙いでいった。
「あ、危なー…!?」
「ディノスは鉤爪攻撃がメインですが、その尻尾も強力な武器になります!お気をつけて!」
ディノスの攻撃を間一髪避けたグリーンは一度リーフと合流する。
「大丈夫、グリーン!?」
「うん、僕は平気さ。にしても、皮膚が頑丈なのか、思った以上にダメージを受けてないみたいだね…!」
グリーンの言う通り、ディノスの皮膚の一部に焦げ目などは付いているものの、それ自体は大したダメージにはなってなさそうだった。
『グルルォオオオオッ!!』
グリーンとリーフを視界に収めたディノスは一つ雄叫びをあげると、地面を勢い良く蹴って飛び上がると、右後ろ脚を高く掲げ、その踵に生えた鋭い鉤爪を二人に向けて、所謂踵落としの要領で振り下ろさんとする。
「そのための魔砲ですわっ!『アクセルバスター』っ!!」
『ACCEL BUSTER FIRE!』
『グギャギャギャァアアアアアッ!?!?』
ディノスの鉤爪がグリーン達に振り下ろされる前に、ゼロの放った魔砲がディノスの腹部に直撃してディノスを盛大に吹き飛ばした。
ゼロの一撃は初級魔砲ではあったがディノスにかなりのダメージを与えたようで、ディノスは地面に倒れたまましばらく動けなかった。
「「ゼロっ!!」」
「グリーン!リーフ!わたくしが核を見つけて叩きますから時間を稼いで下さいませっ!」
「「了解っ!」」
今度はゼロがそう指示を出すと、ゼロはマギアロッドの持ち手部分にあるボタンを操作しながら叫んだ。
「モードチェンジ!核索敵モード」
『CORE SEARCH MODE ACTIVATE.』
すると、右目にモノクル型の核サーチアイと呼ばれるデバイスが装着される。
このデバイス上にディノスのスキャン画像が描かれると、『CORE SEARCHING…』の文字が表示され、ディノスの体内の何処かにある核の位置を捜索し始めたのが分かった。
魔獣を倒すには、魔獣の魔力の源である核を潰すのが手っ取り早い。
勿論、核を潰さなくとも心臓や脳を潰せば倒せるが、核を複数持つような上位個体になると心臓や脳を潰しても復活する場合がある。
なのでそういった上位個体を倒すには核を倒す以外に手段は無く、魔砲少女の持つ核索敵モードはとても有用と言える。
しかし、このモード使用中は魔砲少女が無防備となるため、残りのメンバーによるサポートが必須となる。
『グルルルゥ…ッ!』
ようやく起き上がったディノスだが、ゼロの一撃を受けた部分は皮膚が激しく損傷しており緑色の血が流れ出ていた。
しかし致命傷にはほど遠く、ディノスは再びグリーン達に向かって走ってくる。
「よし!ゼロが核を見つけるまでの時間を稼ぐよ!」
「おうよ!そりゃーっ!!」
『グルルルルァアアアアアッ!!』
再び先陣を切ってディノスに向かって行くリーフ。
「苦無でダメなら…、『戦装具・手裏剣起動』!」
リーフがそう叫ぶと、手に持っていた戦装具が苦無から手裏剣に変化した。
大きさは掌くらいのその手裏剣を、ディノスの足元めがけて投擲した。
『グルォッ!?』
ディノスは足元に突き刺さったそれら手裏剣を踏まないようその場で一瞬立ち止まった。
まるで撒菱のような使い方をするが、ジャンプ力のあるディノスにとってそれは一瞬の足止めにしかならない。
「一瞬で十分さ!『サンダーアロー』っ!!」
足を止めたディノスの頭上に回り込んでいたグリーンが雷の矢を無数に降らす。
『グルルゥッ!!』
だが、狡猾なディノスは咄嗟に横ステップをして左側に避けて、降ってくる雷の矢を全て回避した。
先程までのディノスであれば、それらの攻撃も避けずにあえて受け止めて反撃に出ていたかもしれないが、ゼロから受けたダメージがあるのと、そのゼロが後方で待機して何かを狙っていることから、少しでもダメージを食らわずに回避出来る攻撃は回避すべきという判断を下したのかもしれない。
思えばリーフの撒菱代わりの地面に刺さった手裏剣を踏むのを避けた時からそうだった。
そうした行動の変化からディノスの心理状況とその後の動きを二人は予測し、完璧な連携プレイで次へと繋ぐ…!
「待ってたよっ!!」
ディノスが頭上から降り注ぐ雷の矢を避けた先には、三メートルはあろうかという程に巨大化させた手裏剣を水平に構えたリーフが待ち構えていた。
「そぉりゃあああああっ!!『大気裂く雷』っ!!」
バチバチバチッ!という火花を散らしながら真一文字に振り抜かれた巨大手裏剣は、横ステップ中に空中にあるディノスの後ろ脚の脚首から先を斬り落とした。
『グギャァアアアアアッ!?!?』
脚首から先を斬り落とされたディノスは、悲鳴をあげながら地面に横向きに倒れ込んだ。
これでも致命傷には至らないところにディノスのしぶとさを感じるが、ディノスの動きは完全に封じられただろう。
「ゼロ!」
「後はよろしく、ゼロ!」
「任されましたわっ!!」
グリーンとリーフの視線の先、ゼロの右目のデバイス核サーチアイに描画されたディノスのスキャン画像、その右前脚の付け根辺りに赤い目印が付いていた。
その目印こそ、ディノスの弱点、魔力の源核である。
「いきますわよ!モードチェンジ!カノンモード!」
『CANON MODE ACTIVATE.』
カション!カション!という機械音と共にゼロの持つマギアロッドが杖状から、先端が鋭利な槍状になったマギアロッド・カノンモードへと変化した。
そして、その先端を赤い目印、ディノスの核に向けると、必殺の魔砲を放った。
「『バスターキャノン』っ!!」
『BUSTER CANON FIRE!』
ドンッ!!という爆発音と衝撃と共に放たれた魔砲は狙い違わずディノスの右前脚の付け根にある核を直撃し、ディノスは断末魔の悲鳴をあげながら消滅していった。
「よし!」
「やったー!」
「ふふん♪ざっとこんなとこですわ♪」
三者三様の喜びを示す【チームグリーン】。
それにしても、魔砲少女のモードごとに変形する変身デバイスもなかなかにカッコいいけど、戦乙女の戦装具や厨二感溢れる技名もカッコいいよなー!
つい数日前まで中学生だったのもあって、ああいうの一度はやってみたい!
「お?優人君は私の【ヴァルキリー】システムに興味津々かな?」
とそんなことを考えていたら碧風博士に話しかけられた。
ちなみに訓練を終えた【チームグリーン】の三人は、緑川博士と翠山博士の元で反省会を行っている。
「碧風博士はあの場にいかなくていいんですか?」
「ああ、うん、私が何か言うより瑠璃ちゃん達が説明した方が、彼女達には分かりやすいだろうからね!」
「はぁ…」
それでいいのか、碧風博士…
「まぁ、そんなことより、良ければ優人君も【ヴァルキリー】システムを使ってみるかい?」
「え!?いいんですか!?」
「ああ!近々【ヴァルキリー】システムの量産型のテストを行う予定があってね、それで良ければ優人君もそのテストに参加してみないかい?」
量産型【ヴァルキリー】システムのテスト!
それは確かに魅力的だ!
だが、一つだけ気になる点はある。
「あの…、ちなみにそれって、やっぱり女の身体、つまりTSモードでないと参加出来ないですよね…?」
「それは勿論。戦乙女なのだから、乙女の身体でなきゃ!」
「で、ですよねー…」
「いずれは男性用の【ヴァルキリー】システムの制作に着手するつもりではあるが、男子の数が少ない今はどうしてもそちらの研究・生産は後回しになってしまうからな」
同じ理由で魔砲少女、【マギキュリィ】システムも男性バージョンの生産は現時点で未定だという。
一応付け加えて説明しておくなら、男性でも変身するだけであれば【ヴァルキリー】システムも【マギキュリィ】システムも可能らしい。
ただしその場合は、俺のように性転換するわけではなく、男のまま魔砲少女装束や戦装束を纏うことになるわけで…、それはそれは大変ヘンタイな事態になること間違い無しなわけだ。
「まぁ、無理にとは言わないよ!
量産型テストに参加したいって思ったらいつでも私に声をかけてよ!勿論、他の子達と一緒でも構わないよ!」
【ヴァルキリー】システム、量産型とはいえ確かに使ってみたい…!
TSモードでなければ使えないという点だけはネックだが、散々魔法少女に変身してきた身としては今更だろう。
とりあえず、量産型【ヴァルキリー】システムのテストに関しては前向きに検討してみてもいいかもしれない。
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その次は【チームレッド】、マジョリティレッドとマギキュリィツヴァイ、ヴァルキリールビーの連携訓練が行われた。
ツヴァイは右手に装備したマギアナックル、ヴァルキリールビーの戦装具は剣と小型浮遊砲口と言うのはすでに知っていたが、レッドのマギアデバイスの形状は見たことが無かった(基本的にレッドは素手で戦ってるイメージが強かったからな…)。
「今回は訓練ってことでオレもマギアデバイスを使わせてもらうぜ!」
そう言って、俺達魔法少女の右太ももに標準装備された待機モードのマギアデバイスを取り外すと、その形状が変化してレッドの両腕にトンファーとして装備された。
「へー、レッドのマギアデバイスはトンファーなのか!」
「ああ!正直、素手で戦う方が自分には合っとーっちゃけどな」
「ふむ…、レッドもツヴァイも近接武器なら、わたしの戦装具は小型浮遊砲口のがいいかもね」
そんな話し合いを進める【チームレッド】の前に現れた仮想訓練敵は、カラス型の魔獣〈ギャラス〉の群れだった。
単独での活動が多い魔獣の中で、このギャラスという魔獣は群れで活動するという珍しい特性持った魔獣だった。
おまけに、彼らの攻撃は嘴による直接攻撃だけでなく、魔術攻撃から超音波攻撃と遠距離攻撃にも長けており、一筋縄ではいかない相手だ。
そのギャラス達を相手に、【チームレッド】は抜群のコンビネーションを見せた。
まずはレッドが両腕に装備したトンファーをブーメランのように使って(「マジョリティロックが鎌をブーメランみたいにしてたのを見て、オレも真似したくなったんだ!」と本人は語る)ギャラス達を散らして分断させたところを、ツヴァイがマギアナックルで各個撃破していく。
さらにルビーが後方から小型浮遊砲口で支援することでギャラス達を牽制し、ツヴァイが魔砲を撃ちやすくし、ツヴァイが撃ち漏らした敵をレッドが炎の拳で潰していくという、実に見応えのある格闘戦が繰り広げられるのだった。
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続く【チームブルー】、マジョリティブルーとマギキュリィドライ、そしてヴァルキリーサファイアの相手は豚型の魔生物である〈オーク〉の集団だった。
下級オークや中級オーク種の〈グレートオーク〉は武器として石斧を装備しており、かなりの怪力と見た目からは想像もつかない速さで突進してくる(実際の豚もかなり足が速いしな)。
そして今回のオークの群れの中にはいないが、上級オーク種の〈オークキング〉ともなると言葉を話し、さらには魔術も使えるという。
「オークキングがいると少し厄介だったけど、グレートオークまでだったらなんとかなりそうだね!」
「そうなんか?ウチにはよー分からんけど」
「とりあえず、皆の武器を確認しましょう!ちなみにあたしのは見ての通り剣です!」
そう言ってドライが真っ赤に燃える炎のような変身デバイスであるマギアソードを見せた。
「そいやドライは炎の魔法師やのにウチらのチームに入れられたんやな?」
「確かに。ボクは水の魔法少女だし、サファイアは水属性攻撃を得意としてるんだよね?」
「まぁ、魔砲少女になれば属性はあまり関係無いですからね!それよりブルーのマギアデバイスは何ですか!?」
「ボクのはこれだよ」
ドライに言われて、ブルーが待機モードのマギアデバイスを手に取ると、その形が一般的な銃のような見た目をした形状に変化した。
「へ〜、ブルーは銃使いなんや、意外やな。てっきり鞭やと思てたわ」
「確かに水の鞭がボクの得意魔法だけど、鞭で打つより打たれる方が好きだからね」
「そんなん聞いてへんわ!」
「あとね、大きさもある程度変えられるし、弾数の制限も無い仕様だよ」
「弾数無制限は良いですね!」
「ちなみに、大きさってどんくらいまで変えられるん?ライフル銃くらい?」
「その気になれば戦艦大和の大砲くらいの大きさまでなら」
「都市を丸ごと滅ぼす気か!」
「ちなみに小さくだと?」
「指の爪サイズ」
「何を想定しとんねん!?蚊ぁくらいしか殺せへんやろ!?」
「そういうサファイアの武器は?」
「ウチのは残念ながら普通や。基本モードやと二丁の機銃、モードチェンジして二刀の小刀ってところやな」
「本当に普通だね、あと地味」
「おまけにあたし達と被ってますし!」
「うっさいわ!ウチの真骨頂は必殺技の方や!二つの機銃を巨大化させて放つ『原初の海』っちゅう…、」
「あ!もう訓練始まるみたいだよ!」
「よーっし!やってやりますよ!!」
「ウチの話を最後まで聞けーっ!!」
訓練開始前から、連携という意味では素晴らしいトリオ漫才を披露していた【チームブルー】だった。
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第12魔高で魔法少女達の訓練が行われていた頃、第12魔法都市内にて…
「あー…、午後の授業だりー…」
「それ、真面目に学校行ってる奴らのセリフやから、ウチらみたいに学校サボってる奴の言うことやないから」
「それなー!」
「「「きゃははは!」」」
小倉駅前にある昔からの有名ハンバーガーのチェーン店にて、何処かの高校(魔法師育成学園ではない、一般の高校)の制服を着た女学生達がハンバーガーやポテトなどを食べながらダベっていた。
今は昼前の時間、本来ならば学校で授業をしているハズの時間だが、彼女達の一人が言った通り絶賛サボり、ボイコット中なのであった。
その中の一人が突然顔をしかめて、頭を押さえるような仕草をした。
「ん?シズカどしたと?」
シズカとよばれたその少女、水嶋静は「ううん」と首を横に振り、友人達に心配かけないようこう続けた。
「ちょっとした偏頭痛、最近よくあるっちゃんね…」
そう言いながら、ポシェットの中から市販の頭痛薬を取り出した。
「あー、そうなん?」
「飲み物ある?なんか注文しよっか?」
「大丈夫、私のまだあるけん…」
シズカは頭痛薬を口に含み、ハンバーガーなどと一緒に頼んだソフトドリンクの飲み口に口を付けて、頭痛薬をドリンクと共に飲み込んだ。
「ふ〜…、あーゴメンね心配かけちゃって?」
「いやいや、それより本当に大丈夫なん?」
「女の子の日、ってわけやないっちゃろ?」
「うん、熱とかもないし体調はいいんやけどね…」
「あー、あれやない?低気圧とかで頭痛くなるみたいなやつ?」
「分かる!ウチも雨降り始める前とか頭痛するけん、外見えんとこおっても雨降っとーかどうか分かるっちゃん!」
「おー、それめっちゃ便利やん!」
「んー?そう…、なんかな?今までこういうこと無かったけん、よー分からんけど…」
結局、シズカの頭痛は頭痛薬のおかげで治まり、その日は何事も無く終わった。
だが、このシズカと同じように、ここ数日の間に同じような体調不良に悩まされている女性達が増えていることを、まだこの時の誰も気付いていなかった、ごくごく一部の人々を除いて……




