第7話「マリアの過去」
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“魔女教”に関する会議のあったその日の夜。
寮の食堂で恋人達皆と夕食を終えた後、俺の部屋にマチとマリ、そしてマリアがやって来て、今日の授業内容の復習や宿題、明日の授業内容の予習といった勉強会をしていた。
ユウト達がいないのは単に部屋のキャパシティの問題で、皆で談笑したりする分には問題無いのだが、皆で勉強会をするにはテーブルの広さが足りないのでこうして少人数で集まってやっている。
まぁ、スマホの通話アプリを使えば同じ部屋にいなくとも会話しながら勉強は出来るし、そもそもユウトやユウキは勉強嫌いでこういう勉強会には積極的に参加したがらないのだが…
そんな勉強会だが、主に俺達がマリから教わることが多い。
一応言っておくと、俺は一般科目においてはマリと同じくらい成績が良く、その点においてはマチやマリアに教える場面はある。
だが、魔法に関してはまだまだ素人なのでマリやマチから教わる事が多い。
マリアに関しては、元々頭がいいので教えた内容はすぐに理解して覚えられるが、いかんせん並行世界から来たということで、主に歴史に関する知識が元の世界の歴史とごっちゃになったりして苦戦している。
「あ、マサト君、そこの魔法陣の式間違っとーよ?」
「え、マジ?」
「もう、お兄ちゃん!それ、さっきも教えたばっかやん!」
「いや、んなこと言われても似たような図形多くてわけ分からんくなるし!つーか、魔法陣なんて使う場面ほとんどねぇし、俺らが使う場合は用意された魔法陣に魔力を通すだけやん!自分で書く機会なんてほとんど無かろう!?」
俺が今苦戦しているのは、複雑な魔法を使う際に使われる魔法陣の書き方についてだ。
普通に魔法を使うだけなら魔法陣を使用する必要は無いのだが、例えば多くの“非魔法師”を遠くの場所に転移させる場合や、複数の効果をもたらす攻撃魔法を使用する場合、魔力効率を重視した戦い方をする場合などに魔法陣は使われる。
多くの場合、“非魔法師”が魔法を利用する場面を想定して魔法陣が使われる(“ヴァルキリー”システムにも魔法陣が使われているらしい)が、遠隔で攻撃魔法を使用する場合(これは『転移』魔法と攻撃魔法の同時使用)や、マナを無駄無くかつ均等に魔法を連続使用する場合など(この場合の魔法陣はパソコンにおけるプログラミングのようなイメージだ)に使われるわけだが、“魔法師”は用意された魔法陣に魔力を通すことでその魔法が使えるため、極端な話、魔法陣を書けなくともいいしその図式の意味を理解する必要は無いのだ。
分かりやすく例えるなら、微分積分出来なくともスーパーで買い物は出来るし、摩擦係数とか運動エネルギーとか分からなくとも自動車は運転出来る、という感じだ。
「世の中の勉強なんて大体そんなもんでしょ?」
「文句言わず覚えてよね、お兄ちゃん?」
「マリに言われるならまだしも、マチには言われたくねぇよ!マチこそ数学のそこの計算間違っとるぞ?」
「うぐ…っ!?」
「ふふふ♪」
「もー、何がおかしーとマリアちゃん?」
マチが不機嫌そうな顔をしながらマリアに矛先を向けた。
「ううん、ごめんごめん!なんだか楽しいなー、って」
「勉強会が楽しいなんて、マリアちゃんってばやっぱりマゾなの?」
「ちょっ!?なんでそうなるの!?」
「でも、マリアちゃんがMなのは本当やもんね?」
そう言ってマリが背後からマリアのおっぱいを掴んだ。
「きゃっ!?ちょっ、マリちゃん!?」
「おほぉっ♥やっぱマリアちゃんのおっぱい柔らかくて気持ち良いー♥」
「あんっ♥もぅっ、そんな気持ち良いなら自分のおっぱい揉めばいいじゃない!あぁんっ♥」
「いやいや、マリアちゃんのおっぱいやけん気持ち良いとよ♥自分のを触るんとはわけが違うっちゃん♥」
「やぁああんっ♥♥」
ドSなマリとドMなマリアのやり取りに、俺のムスコがヤバい事になりかけるが、心の中で素数を数えることでなんとか平常心を保つ。
「はいはい、もうその辺にしとこーね?」
「あ痛っ!?」
最終的にマチがマリの頭を軽く叩いてやり取りを強引に終わらせた。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…、もう、マリちゃんのエッチ!」
「いや〜、だってマリアちゃんのおっぱいが気持ち良すぎるのが悪いっちゃん!」
「何それ?まったくもう…♪」
そう言うマリアの表情には少し笑顔が見えた。
そんなマリアの表情を見て、マリは少し安心したような表情でこう言った。
「ふふ♪マリアちゃん、少しは元気出た?」
「え…?」
「マリアちゃん、今朝の会議が終わってから何か考え事しとるというか、少し元気が無さそうに見えたけん」
「そ、そんな顔してたかな…?」
「うん」
「あはは…、そっか、上手く誤魔化してたつもりだったんだけど…」
「誤魔化しても分かるよ、だって私とマリアちゃんは一心同体みたいなものなんやけん!」
マリとマリアは並行世界の同一人物だからこそ、性格は違ってもその仕草や表情の微妙な変化に気付くことが出来たのだろう。
「さっきの会議で何か気になることがあったんなら、話して欲しいな?勿論、話したくないことなら無理にとは言わんけど…」
「気になることと言っても、“魔女教”とは全く関係の無い話だし、私自身でもハッキリしないことだけど…、それでも良ければ、少し聞いてくれるかな…?」
「うん、勿論!」
ということで、勉強会は一時中断してマリアの話を聞くこととなった。
*
緑川先生達の話の中で魔人の話が出てきたでしょ?
『魔人と言うのは旧世界、つまり核戦争が起こるよりも前の世界において、こことは別の世界、並行世界よりやって来た人類の一種で、日本の四国地方を支配していた』
この話を聞いた時、私の中で何か引っかかるような感覚があったの。
勿論、この世界に来てからその話を聞いたのは初めてなんだけど、私はその話を知ってる、って…
多分だけど、私はその話と似たような出来事が起きた世界からやって来たんだと思う。
並行世界からやって来た魔人が、日本の四国を侵略して支配してた世界から…
*
「それは、本当なん…!?」
「それって、記憶が戻ったってこと!?」
マリとマチの問に対し、マリアは首を横に振りながらこう答えた。
「全部の記憶が戻ったわけじゃない。だけど、四国が魔人達に支配されて“魔界”と呼ばれていたことや、“魔法師”と呼ばれる人達が“魔界”から侵攻してくる魔人達と戦っていたということは、なんとなくだけど思い出したの」
「じゃあ、マリアちゃんは“戦乙女”として魔人達と戦ってたってこと?」
「ううん…?その辺りは曖昧なんだよね…
魔人達と戦っていた時は“魔法師”だった気がするし、“戦乙女”として戦っていたのは魔法が使えなくなった後で、相手は魔人じゃなかった気がするし……」
「魔法が使えなくなった後…?それに魔人じゃない相手って…?」
「そ、それより!もしその話が本当ならマリアちゃんは旧世界、つまり過去からタイムスリップしてきたかもしれないってこと!?」
「いや、それはおかしいぞマチ。マリアはマリと同一人物なわけだから、もしそうだとすると過去と未来にマリが存在することになる」
「あ、そうか!」
「つまり話をまとめると、マリアちゃんは、この世界の過去、旧世界に起きた出来事と似たような出来事があった別の世界からやって来た。
その世界では、旧世界のように魔人が並行世界からやって来て、マリアちゃん達は“魔法師”としてその魔人達と戦っていた。
やけど、何かしらの事情で魔法が使えなくなったマリアちゃんは“戦乙女”となって、未知の敵と戦うこととなったけど、その過程で何かしらの出来事があって、この世界に『異世界転移』してきた、ってことだね?」
マリのまとめに、マリアはゆっくりと首を縦に振った。
「うん、多分そんな感じだと思う…」
「マリアの過去が何となく分かったのはいいっちゃけど、同時に謎も一気に増えたな…」
「うう…、ご、ごめんね?ただでさえ“魔女教”とかマミちゃんのことで大変なのに、余計混乱させちゃうようなこと言って…!」
マリアが申し訳なさそうにそう言うので、俺は慌ててフォローに入った。
「いやいや!謝る必要は無ぇって!むしろ、俺達の事情にマリアを巻き込んどるんやけん、マリアの事情にも俺達を巻き込ませてくれよ!」
「そうだよマリアちゃん!
マリアちゃんはもう私達の家族なんやけん、マリアちゃんの問題は私達の問題でもあるっちゃん!」
「マサト君…、マリちゃん…!」
「ま、そういうことやけん、今後も何か思い出した記憶があれば遠慮なく私達に話してね?
何が出来るかは分からんけど、話をすることでマリアちゃんの気も少しは楽になると思うし、ひょんなことから元の世界に戻るためのヒントみたいなのも見つかるかもしれんし!」
「マチちゃん…!うん、ありがと、皆!」
ニコリと天使のような微笑みを浮かべるマリア。
にしても、マリアのいた世界が俺達の世界の過去に近い世界というのには驚いた…!
とりあえず色々と気になる点はあるが、現時点で一番気になっていることをマリアに尋ねた。
「ところで、マリアは魔法が使えなくなったって話やけど、今もまだ使えんまま、ってことなん?」
「えっと、どうかな…?少なくとも、この世界に来たばかりの時は魔法を使えなかったけど、少し記憶を思い出した今なら、何となく使えそうな気がする…、かも?」
「なら、緑川先生達に頼んで明日の放課後にでも訓練施設を借りて魔法の試し打ちをしてみたら?訓練用の“魔石”はいっぱいあるハズやし!」
「それか、明日は実技の授業もあるし、そこで試してみるのもいいかもよ?」
「うん、そうだね、試してみる!」
というわけで、明日の放課後、もしくは魔法の実技授業の時に、マリアが魔法を使えるのかどうか試してみることとなった。
もし、マリアが魔法を使えるとすると、“戦乙女”としての力に加えて魔法の力も駆使して戦えるようになるわけだから、かなり頼もしい存在になる!
それから、俺達は再び勉強会の続きを始め、四人の予習復習と宿題が終わったところで解散となり、それぞれの部屋で眠りにつくのだった。




