第6話「“魔女教”と“魔法少女”」
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“魔女教”事件があった翌日の朝、俺のスマホ宛に緑川博士からメッセージが届いた。
『本日、“魔女教”に関することで緊急の会議を行う。
が、諸君らのプライバシーに深く関わる内容となる。
故に、どうしても話したくないこと、触れて欲しくない事柄がある者はこの会議に参加しなくて良い。
勿論、参加者に対しても会議の内容は口外しないよう約束させるし、このメッセージが届いたことも他者に公言してはならない。
それを了承した上で、会議に参加してくれる者は、一時限目の時間に私の研究室に集まってくれ。
勿論、その時間の授業には出席扱いとなるので心配しないでくれたまえ』
そのメッセージの内容から、“幼児集団誘拐事件”に関わることなのだろうということは予測出来た。
そして、“雪月花”先輩達との話し合いで、“魔法少女”に変身出来るのは、どうやらその事件の被害者達らしいということも。
事件に関しては被害者や被害者遺族のプライバシーを守るために、捜査関係者以外がその情報を知る事は出来ないようになっている。
だからこそ、俺達は“雪月花”先輩達も、あの時同じ場所にいたということを昨日まで知らなかったわけだ。
そういう繊細な事情があるからこそ、このようなメッセージの文面になるわけだろう。
人によってはあの事件のことはトラウマとなっていて話したくない人もいるだろうし、これはあくまでも噂レベルだがあの事件に巻き込まれたことで“魔法師”としての将来を諦めて、一般人として暮らしている少女達もいるということだ。
では俺はどうかというと、確かにあまり思い出したくない過去ではあるが、俺の恋人となったユウナやユウキ達には(マリやユウト達の許可も得た上で)事件のことは話しているし、何よりあの事件以来行方不明となっているマリの双子の妹のマミの情報を得るためにも、今後“魔女教”と無関係でいるわけにはいかないし、俺達の“魔法少女”に変身出来る素質“マジョリティ”細胞が“魔女教”によってもたらされたものなら、なおのこと真実を確かめなければならない。
そして、同じように緑川博士からメッセージを受け取ったらしい俺の恋人達も会議に参加する覚悟を決めているようで、寮を出る時に目配せしあい、共に緑川博士の研究室へと向かうのだった。
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緑川博士の研究室、その地下には博士専用の実験室や資料保管室がある他に、主に会議用に使う広い部屋(ただし滅多なことでは使わない部屋)があり、俺達はその広い部屋へとやって来た。
室内には会議用の広い長机といくつかの椅子が用意されており、俺達が着いた時にはすでに“雪月花”先輩と“魔砲少女”クラスの“松竹梅”先輩、そして“魔法少女”クラスの二年生の先輩達三人と、緑川博士の妹であるサンゴが着席しており、そのサンゴの背後には翠山博士の妹のササラと碧風博士の妹のサクラが立っていた。
それと、長机のお誕生日席側にある壁を背に、緑川博士と翠山博士、碧風博士、そしてユイの母親である焔優香先生がいた。
「うむ、君達も来てくれたか。だがすまない、全員座るには椅子が足りなくてな、何人かは立っていてもらうことになるが…、」
緑川博士がそう言うと、マリアとレンカがこう答えた。
「はい、私は構いません」
「ウチらも構わんで、な?」
最後のレンカの発言を受けて、マチとユウキ、ユウナ、そしてユイが頷いた。
ということで、残った席には俺とマリ、ユウト、フレンダが座り、俺達の後ろにマチ、マリア、ユウナ、ユウキ、レンカ、そしてユイが立って話を聞くことになった。
ちなみにユウは呼ばれているのかいないのか分からないが、少なくともこの場にはいなかった。
「さて、ではそろそろ始めさせてもらおうか」
昨日は徹夜で“魔女教”のトカゲ人間達の遺体を調べていたにも関わらず、緑川博士は疲れた表情も見せずにこう続けた。
「まず、これから話す内容はメッセージにも書いたが、他言無用で頼む。少なくともプライバシーに関わることは絶対に外で話してはならない。いいね?」
「「「「「はい!」」」」」
「うむ。では早速話をさせてもらうが、恐らくは諸君も察している通り、これから話す内容は“魔女教”に関わることだ。
ここに集まってくれた諸君は、直接“魔女教”に関わったことのある者や、今後関わる可能性のある者達ということになる。
とくにチーム“雪月花”とチーム“松竹梅”の六人は、“魔女教”への対抗戦力として必要不可欠な存在となるだろう」
学生の身でありながらすでにプロの“戦闘魔法師”と遜色ない実力を持つ先輩達は、今後の“魔女教”の動き次第では“守衛隊”からの依頼を受けて前線に立つ可能性が大いにあるという。
「というわけで、早速本題に入るわけだが、まず“魔法少女”である野薔薇君達に関する話となるわけだが…、単刀直入に言わせてもらうと、恐らく君達“魔法少女”は全員10年前の“魔女教”が起こした“幼児集団誘拐事件”の被害者であるということだ」
「「「え…っ!?」」」
「………」
“雪月花”先輩と俺達は、昨日その話をしていたのでその可能性があることは知っていたが、二年生の先輩達は自分以外の“魔法少女”が誘拐事件の被害者だったことを当然知らないので驚きの声をあげ、緑川博士の妹であるサンゴは何処か納得したような表情を浮かべていた。
そして、勿論緑川博士も俺達が誘拐事件の被害者であることは知らなかったわけだが、妹であるサンゴが誘拐されたことは当然知っていて、さらに昨日の事件の事後処理の際に俺や“雪月花”先輩達が誘拐事件の被害者である事実を知れば、当然二年生の先輩達も誘拐事件の被害者であることは容易に推察出来ることだろう。
緑川博士はさらにこう続ける。
「そして、君達が“魔法少女”に変身出来るのは、君達の中に“マジョリティ”因子と呼ばれる特殊な細胞があるからなわけだが、この“マジョリティ”因子はその誘拐事件の際に“魔女教”によって君達の体内に埋め込まれた【魔女】の細胞なんだ」
「「「「「ええっ!?」」」」」
その緑川博士の発言には俺達全員が驚きの声をあげた。
“マジョリティ”因子が“魔女教”によって俺達に埋め込まれたものだろうということは昨日“雪月花”先輩達と話していて何となく予想していたことではあったが、それが【魔女】の細胞というのは初耳だった。
「緑川先生、それって本当なんですか?“マジョリティ”因子が【魔女】の細胞だなんて…」
マリの質問に、緑川博士はこう答える。
「正確には【魔女】の細胞かもしれないということで、それに関しては今後調べていくことになる」
「調べるってどうやって?」
ユウトがそう尋ねると、緑川博士はこう答えた。
「それは、直接【魔女】の遺体から細胞を回収し、君達の“マジョリティ”因子と照合して…、という感じになるな」
「直接【魔女】の遺体から細胞を回収って…、」
「【魔女】は200年前に討伐されてるんじゃ…?」
「うむ、白瀬君の言う通り【魔女】は200年前に、ここ“第12魔法都市”で討伐された。その際、【魔女】の遺体は万が一にも復活しないよう厳重に封印された上で、“第12魔法都市”のとある場所に保管されることとなったんだ」
「とある場所って…?」
「ここ、“第12魔法都市”魔法師育成学園高等部の地下だよ」
「「「「「ええっ!?」」」」」
そこで再び俺達の驚きの声が上がった。
200年前に死んだ【魔女】の遺体が残ってるだけでも驚きなのに、その上この学園に【魔女】の遺体が封印されているなんて!?
驚く俺達に、今度は翠山博士が説明を始めた。
「【魔女】は普通の人間ではありませんでした。
残された資料によれば、彼女の頭には二本の角、背中には一対の翼、そしてお尻の付け根辺りから尻尾が生えていたということからも普通の人間で無いことは明らかですが、その上“魔石”を使わずに魔法、いえ魔術を使っていたことから、彼女は我々人間よりも魔獣に近い存在、“魔人”と呼ばれていたそうです」
「魔人…」
続いて碧風博士が口を開いた。
「魔人と言うのは旧世界、つまり核戦争が起こるよりも前の世界において、こことは別の世界、並行世界よりやって来た人類の一種で、日本の四国地方を支配していた。
そんな、当時の人間達にとって脅威でしかなかった魔人達を一掃するために、日本以外の各国が四国を一斉に武力攻撃し、そのどさくさから核戦争へと発展し、今に至るというわけだよ」
「そんな話初めて聞きましたよ!?」
俺がもう何度目かになるか分からない驚きの声をあげると、碧風博士は何でもないという風にこう続けた。
「それはそうだよ、核戦争以前の歴史に関して、特に魔人に関する情報は一般には秘匿されているからね~」
「そんな情報話しちゃっていいんですか!?」
「そもそも【魔女】の遺体の件だって秘匿扱いだしね」
「“魔女教”及び【魔女】に関わる以上、これらの情報は皆さんに話しておくべきだと判断した上でのこの場ですから。ですが、最初に瑠璃が言った通り、他言は無用でお願いしますよ?」
翠山博士にそう念押しされるまでもなく、俺達は今聞いた話を外でするつもりは無かった。
「そろそろ話を戻すよ?
そんな旧世界において滅びたハズの魔人の特徴を持った【魔女】が、核戦争以降のこの世界に突如現れ、いくつかの“魔法都市”を滅ぼし、そして数多くの市民や“魔法師”達の犠牲の下、なんとか討伐出来たわけだが、遺体をそのままにしておいていいのか?復活したりしないか?バラバラにして燃やし尽くして処分していいのか?【魔女】の灰が新たな【魔女】を生み出さないか?などなど様々な議論が交わされた結果、一番安全かつ最適な方法として、遺体に封印を施し管理するというやり方が選ばれた。まぁ、つまり問題の先延ばしというわけだ」
「その封印というのはどんなものなんですか?」
セツナ先輩がそう尋ねると、緑川博士は首を横に振りながらこう答えた。
「それに関しては私達もよく分からない。封印に関してはシホ学園長が関わっていて、少なくとも魔法や魔術ではないやり方で、【魔女】の遺体を永久保存しているということだ」
シホ学園長、つまり“吸血鬼”の力で【魔女】は死んだ直後で永遠に時を止めた状態で封印されているということらしい。
この状態であれば、少なくとも遺体となった【魔女】が復活することは無い。
「その後、この200年新たな【魔女】が現れることもなかったため、そのまま今日まで封印され続けてきたわけだが、事ここに至って、改めて【魔女】のことを詳しく調べてみる必要が出てきたわけだ」
“魔女教”が俺達に埋め込んだという“マジョリティ”因子が本当に【魔女】由来のものなのか?
もしそうだとして、では“魔女教”はどのようにしてその【魔女】の細胞を手に入れたというのか?
それを知るためにも、まずは200年間手つかずだった【魔女】の遺体を調べてみる必要がある。
そのために現在、シホ学園長に対して【魔女】の遺体を調査するための申請をしているところだという。
ちなみにこれは余談だが、俺と同じように“魔法師”としての才能が無かったサンゴが何故“魔女教”に誘拐されたのかというと、俺と同じように人違いで、サンゴの幼馴染で“魔法師”として高い才能を持っていたササラと間違われて拐われたそうだ。
当時からサンゴとササラとサクラは三人一緒にいることが多かったそうだが、見た目も性格も違うササラとサンゴを間違えるとはそそかっしい犯人がいたものだとは思うが、事実としてサンゴが拐われ、そして俺達と同じように“マジョリティ”因子を体内に埋め込まれたというわけだ。
それから、トカゲ人間達(彼女達の言葉を借りるなら“魔獣人”)の調査結果についても緑川博士の口から語られた。
彼女達の体内には、ディノニクスと呼ばれる肉食恐竜のような見た目をした魔獣“ディノス”の“魔操細胞”が埋め込まれていて、彼女達が首から下げていた特殊な“魔石”を取り込むことで姿を変える仕組みになっていたそうだ。
「システム的には【マジョリティ】システムとほぼ同じだな。
ただ、このシステムの欠陥として、変身を繰り返せば繰り返す程に魔獣化が進み、やがては“魔石”が“核”となり、人間の姿には戻れなくなるだろう」
「その点、瑠璃の発明した【マジョリティ】システムは安全ですので、“魔法少女”の皆さんは気にしないで下さいね?」
緑川博士の説明に翠山博士が補足をして、“魔獣人”に関する報告は終わった。
その後は俺達の今後に関する話が続いた。
まず、俺達はこれまで通り普通の学園生活を送りつつ、“魔女教”に関する事件が起きた場合は、“雪月花”先輩達と“松竹梅”先輩達が中心となって対応に当たるということ。
また、【魔女】の遺体調査の許可が下りれば、俺達“魔法少女”クラスのメンバーはその調査に協力すること。
そして、俺達以外の“魔女教”による誘拐事件の被害者の安全を確保すること。
誘拐事件の被害者はここにいる“魔法少女”クラスのメンバーで全員ではなく、すでに魔高を卒業した者、魔高に在籍しているが“魔法少女”クラスに立候補しなかった者(“戦闘魔法師”ではなく“職業魔法師”の道を選んだ者など)、そして“魔法師”としての素質を持ちながらも一般人として暮らしている者など、まだまだ大勢いるらしい。
未確定ではあるが、【魔女】の細胞を埋め込まれた彼女達が、今後“魔女教”に狙われないとも限らない。
そうなった時、前者はまだしも、非戦闘員である後者は再び“魔女教”の被害者となりかねない。
とはいえ、誘拐事件の被害者に関する情報はプライバシー保護で守られているため、この件に関しては主に“守衛隊”が担う事になるだろう。
最後に、行方不明となったマリの双子の妹、マミに関してだが、こちらも現時点では俺達にはどうしようもなく、“魔女教”の出方を伺うしかない。
そんな感じで、“魔女教”に関する会議はお開きとなった。
会議は一時限目が終わるのとほぼ同時に終わり、俺達は改めてここでの会議の内容は他言無用と念を押された上で、通常の授業へと戻ることになった。




