第4話「途切れた手がかり」
*
何とかトカゲ女を倒した俺達。
「マサト君!大丈夫!?」
トカゲ女にトドメの魔法を放ったホワイトが上空から降りてきて、そのまま地面に座り込んだ俺の元へと駆け付けてきた。
ちなみに俺の方はすでに変身を解除してはいたが、TSモードの方は解除しておらず、まだ女体化したままだ。
「ああ、えっと…、」
「マサトぉっ!!無事かぁああああっ!?」
「はいはい、ユウ君は少し落ち着こうね?」
さらにそこへ、先程ホワイトの放った魔法による大爆発から周囲の建物などを守ってくれたユウとユイも駆け付けてくれた。
ユウは俺の怪我を心配してか、顔中から色んな液体を垂れ流しながらだったので少し不気味だったが…
「わっ!?血がいっぱい出とー!?それに、肋骨折れとるやん!?」
ホワイトが俺の身体に触れながらそんな風に言った。
「あぁ〜…、だよな…、痛て…」
トカゲ女の動きを封じるためだったとはいえ、三メートル近い巨体に踏みつけられたのはやはり堪えた…
いくら〈魔法少女装束〉が頑丈で物理的ダメージや魔力的ダメージを軽減してくれるとはいえ、それにも限度はある。
だが、だからこそ擦り傷や肋骨の骨折程度で済んでいるとも言えるだろうし、今もTSモードのおかげで鎮痛作用が働き、自然治癒能力も活性化されて傷口は修復されつつある。
これはTSモードがマナを用いた体組織修復医療技術を応用されて作られたものなので、このモードでいる限りは常に肉体が正常な女性である状態を維持しようとしてくれる効果の副産物的なものだ。
「とりあえず守衛隊が来るまで応急処置をせんと!『アクアヒール』!」
ホワイトもそのことは知っていたが、さらに回復魔法である『アクアヒール』をかけることでさらに自己治癒力を高めて俺の傷を癒してくれる。
それでも骨折を治すには専門のマナ治療が必要になるため、ホワイトの言う通りあくまでも応急処置に過ぎないが、それでも大いにありがたい。
「ああ、サンキューホワイト」
「くそぉ…っ!?俺にも回復魔法が使えれば…!!」
「あたしやユウ君は炎の魔法師だから回復魔法は使えないからな〜…」
基本的に攻撃魔法は『〜ショット』だったり『〜アロー』だったりと属性違いの術がほとんどだが、雷属性特有の高速移動魔法『サンダーソニック』だったり、闇属性特有の敵拘束魔法『シャドゥバインド』のような属性特有の術がいくつか存在し、回復魔法も水属性特有の魔法となる。
「いや、二人は気にせんでいいっちゃ。それより、魔女教の連中が逃亡しないよう見張っとって欲しい」
ユウ達が対応していたトカゲ男達はすでにロープ(施設にあった立ち入り制限するために使用されているチェーンなどが代用されていた)などで拘束されていたが、ホワイトが倒したトカゲ女の方はまだそういう措置は施していない。
気絶しているようだから今すぐに逃げるということは無いだろうが…
ちなみに、気絶したトカゲ人間たちの姿は元の人間の姿に戻っていたが、着ていた服までは元に戻ってはいないようで全員一糸纏わぬ裸の状態だった。
「分かった!ユウ君、手伝ってくれる?」
「あぁ、マサトの頼みなら仕方ねぇな」
ユイとユウは近くにあったチェーンを拝借してきて、それで女の両腕と両足を縛って拘束した。
「それにしても、こいつらって本当に魔女教の残党なのかな?」
女を縛りながらユイがそんなことを言った。
「残党ならまだマシな方っちゃろうね…」
俺に回復魔法をかけながらホワイトが口を開く。
「トカゲ人間に変身する技術を持ってるような連中が、ただの残党とは思えんっちゃんね」
「ああ、ホワイトの言う通りだと思う。それに、ヤツは気になることも言っとった…」
俺はトカゲ女の言っていたセリフを思い出す。
ーーー我らが【魔女】マミ様に三属性の魔力を操るマリ様、そして闇の魔力を操るマサト様が揃えばっ!!
ーーー我らが新生魔女教は完成するっ!!
「『【魔女】マミ様』、それに『新生魔女教』…、それらの発言が本当なら……」
などと考えていると、第12魔法都市守衛魔法師部隊、略して守衛隊の魔法師数名と、我らが魔法少女の先輩である【チーム雪月花】、そしてその三人に抱えられる形で緑川博士が到着した。
ちなみに、今の【雪月花】先輩達は魔法少女姿ではなく学園の制服姿だった。
変身しなくともマギアコンパクトを持っていれば『飛行』魔法や『転移』魔法などの無属性魔法は使用可能なのだ(ただし、それらの魔法を使用する際には、当然上の許可が必要となる)。
「やぁ、黒霧兄君達!どうやら無事魔女教の刺客は倒せたようだね!」
「あれ?博士!?」
「え!?なんで緑川先生が!?」
俺とホワイトが驚いていると、ホワイトに回復魔法をかけてもらっている俺を見た博士がこう言った。
「説明は後にしよう。とりあえず黒霧兄君の手当てが先だ。風霧君、彼を学園まで運んでくれるかい?」
「はい、任されました」
緑川博士に指名されたカノン先輩は俺の前に恭しく跪くと、まるで役者のような仕草でこう言った。
「ではお姫様、この風霧花音が責任をもって学園までお連れしますので、その御身に触れる許可を頂けますか?」
「は、はぁ…」
俺が乙女だったら、そんなカノン先輩の王子様な所作にトゥンクしたのかもしれないが、乙女なのは見た目だけで中身は男なため、残念ながらそういうことは無かった。
「やれやれ、ノリが悪いじゃないかマサト君…、そこは『はい、お願いします、私の騎士♥』くらいは返してくれないと」
「いや、そうは言われましても…、」
「待て待て!マサトの騎士はこの俺だぞ!?」
と、そこへユウが割って入ってきてさらに話をややこしくする。
「ほぅ…、君が?」
「そうだ!いくら相手がカノン先輩であってもマサトの騎士の座は譲れ、あ痛っ!?」
「はいはい、今は時間が勿体ないからユウ君はちょっと下がってようね?」
だが、それ以上話がややこしくなる前に、ユイがユウの頭を引っ叩いて止めてくれた。
「何すんだよ、お姉ちゃん!?」
「優先順位を考えなさい、って話。今はマサト君の怪我を治すことが先でしょ?そして、今この場に緑川先生が来られた以上、この場での現場責任者は先生なの。その先生の指示は絶対、分かるよね?」
「ぐ…っ!?わ、分かったよお姉ちゃん…」
ユイの説得に納得いかなそうな顔をしながらも従うユウ。
「今はカノン先輩に譲る…
だが、マサトの騎士はこの俺だ、忘れないで下さいよ、先輩!」
「ふふ♪君も面白い少年だね♪いいよ、覚えておいてあげる、焔優武君!
さて…、ではマサト君、ちょっと失礼するよ」
そう言うとカノン先輩は、マギアコンパクトを起動させて〈マジョリティウインディ〉に変身すると、俺の背中に手を回してひょいと俺を抱え上げてお姫様抱っこした。
するとバストサイズ93の先パイが俺の目の前に飛び出す!
「な…っ!?ちょ、先輩!?」
「さすがに人一人を抱えて『飛行』するには女のボクでは腕力が足らないのでね、変身させてもらったよ」
「いやいや、そうではなく!何故お姫様抱っこ!?」
「何故って、君は見たところ肋骨をやられているのだろう?だとすれば、おんぶをするわけにはいかないだろう?」
「そ、それは…、確かにそうかもですけど…」
「安心したまえ!魔法少女の腕力であれば何があっても君を落とすことはないから、タイ◯ニック号に乗ったつもりでいたまえ!」
「いや、それ不吉…」
「あの!ウインディ先輩!マサト君のこと、お願いします!」
などと言い合っていると、側にいたホワイトがウインディ先輩に頭を下げた。
ウインディ先輩はニコリと笑うと、「任せたまえ」と言って、そのまま俺を抱えて一足先に学園へと戻って行った。
*
怪我をしたマサト君をウインディ先輩に任せると(本当は私もマサト君の側にいてあげたかったけど、今は目的もあるからこの場に残った)、私達は守衛隊や緑川先生、そして【雪月花】の残り二人の先輩、野薔薇雪音先輩と鷹橋月音先輩を相手にここまでの状況を簡単に説明した。
緑川先生達は、この施設に来ていたお客さんや施設の人達からの通報である程度の事情は把握していたらしく、説明自体は長くはかからなかった。
一方で、先生の許可なく勝手に魔法少女に変身して戦闘魔法を使用した件に関しては注意を受けつつ、この状況を利用して私達の戦闘時における実戦データを回収するために、緑川先生が守衛隊に連絡して現着を待ってもらっていた(緊急時に備えて近くで待機はしていた)ことも話してもらった。
「結果として君達の戦闘データはとても有意義なものであり、私の開発した【マジョリティ】システム、そして瑠衣の【マギキュリィ】システムの優位性を示してくれるものとなったよ!その点に関しては感謝している!だが、今後は変身する際には一声かけてくれるように」
「「はい」」
「焔弟君も、許可なく魔法の使用はしないように」
「はい」
何はともあれ、私達の魔法無断使用の件に関しては不問となるようなので一安心。
残る問題はトカゲ人間達、魔女教の人達の扱いだけど…
「白瀬君達が話を聞きたがっていることはなんとなく理解しているよ。だけど、一先ずは守衛隊の預かりとなり、聴取を受けた後で我々の元で預かることになった。
本当は研究のためにも我が手元にずっと置いておきたかったんだが、それだと守衛隊は納得しないと言うのでね」
本来ならこうした犯罪者は守衛隊が取り押さえて聴取を取り、国の司法に任せるのが普通であり、魔法科学の権威であるとはいえ、緑川先生が犯罪者の身を預かるということはまずあり得ない。
しかもそれが、およそ十年振りに公の場に現れた魔女教を名乗る者達と言うのならなおさらだ。
しかしその一方で、自らを魔獣人と名乗った彼らの変身能力に関しては調査の必要があり、そうした調査研究にうってつけの人物は、第12魔高の緑川先生や翠山先生しかいない。
というわけで、折衷案として守衛隊の取り調べの後に、魔獣人について調査するために第12魔高で預かるということでなんとか話を付けたらしい。
「話は分かりました。でも、私はどうしても今すぐにでも彼女から聞き出したいことがあるんです!!」
緑川先生の話を理解した上で、しかし私にも譲れないものがある。
魔女教に拐われたまま帰って来ない私の双子の妹、マミちゃんのこと。
この十年、一切手がかりの無かったマミちゃんに繋がる唯一の情報源…!
「…ふむ、何やら君達にも事情がありそうだね。分かったよ、守衛隊の者と話して、彼らの立ち会いの元であれば、君が彼らから直接話を聞けるよう手配してもらうよう頼んでみるよ」
「はい、よろしくお願いします!」
私は緑川先生に頭を下げた。
話を直接聞けるのなら、守衛隊の立ち会いが入るくらいは妥協するしかないだろう。
兎にも角にもこれでマミちゃんの手がかりが掴める!
…そう思っていたのだが……、
「何ですって!?」
魔女教の人達を回収していた守衛隊の女性魔法師の一人が、守衛隊の隊長らしき女性魔法師の人に何かを耳打ちし、それを聞いた隊長が驚きの声を上げたのが聞こえた。
そして、報告を受けたその隊長が緑川先生の元にやって来てこう告げたのだ。
「すいません博士、彼女達が捕らえた魔女教の連中ですが、全員舌を噛み切って自殺したようです…」
「何…っ!?」
「えぇっ!?」
魔女教の人達は気絶していたのではなく、すでに死んでいたというのだ、しかも自ら舌を噛み切って…!
「そ、そんな…!?」
私はせっかく掴みかけたマミちゃんの手がかりが再び失われてしまったことにショックを受けて、その場に膝を付いて倒れ込んでしまった。
そんな私を気遣って、セツナ先輩が声をかけてくれた。
「マリちゃん、大丈夫…?
確かに、せっかく捕らえた魔女教の人達が死んでたのはショックだけど、でもそれはマリちゃん達のせいじゃ、」
「いえ、違うんです…!彼女は魔女教に拐われて行方不明のままのマミちゃんのことを知っていたんですっ!十年間、手がかりの無かったマミちゃんの行方について、ようやく何か掴めると思っとったのにっ!!」
「それって…、『幼児集団誘拐事件』の…?」
「はい。私と双子の妹のマミちゃん、それにマサト君とユウちゃんとフレちゃんも十年前に魔女教に拐われて…、それで私達は助かったんですけど、マミちゃんは……」
身内以外で私達が『幼児集団誘拐事件』の被害者であることを知る人はおらず、親しい友人(ユウナちゃんやマリアちゃん達など)以外の人にも話したことは無い。
プライバシーの観点から、学園の先生達も私達が事件の被害者であることは知らないハズだ。
まして、私の双子の妹が未だ行方不明であることも知る由は無いだろう。
そんな私のカミングアウトとも言うべき発言を聞いて、セツナ先輩が驚いたような表情を浮かべながら、こう言ったのだ。
「そう、だったんだ…
まさか、マリちゃん達も誘拐事件の被害者だったなんて…!」
「え?私達もってどういう…?」
「…実は、私とツキネちゃんとカノンちゃんもね、十年前の『幼児集団誘拐事件』の被害者なんだよ」




