第2話「チーム“雪月花”」
*
俺は、高校受験を間近に控えた、何処にでもいる平凡な中学生男子、黒霧優人。
そんなある日、高校の入学試験に向かうバスに乗っていたら、持病の発作に襲われ、たまたま近くにいた魔法研究の権威、緑川瑠璃博士に謎のコンパクトを渡され、気が付いたら……、
「“魔法少女”に変身してしまっていたっ!?」
俺は、緑川博士を抱えたまま、空を飛んで、突然目の前に現れた翼の生えたトラのような魔物(翼タイガーという名前らしい)から逃げ回っていた。
「ふむ、大昔にあった少年探偵モノのアニメのようなモノローグをありがとう」
「いやいや、そんな落ち着いてる場合じゃないですよ!?」
翼タイガーは、俺達を獲物と認めたのか、その背中の翼で飛びながら、執拗に俺達を追ってくる。
『ニ゛ャオ゛ォオオオオオンッ!!』
「うぉっと!?」
翼タイガーの前足の爪が、俺に向けて振り下ろされたが、俺は咄嗟に急上昇して意図的に速度を落とし、失速した俺を翼タイガーが追い越したところで、慣性による姿勢制御で失速状態から回復し、翼タイガーの背中側へと回り込んだ。
「おおっ!木の葉落としっ!なかなかやるじゃないか!君、もしかして“魔法師”かい!?」
「んなわけ無いでしょうっ!魔法の才能があったら、俺は今頃魔法師育成学園に通っていますよ!」
「む…、それもそうか。であれば、君は“非魔法師”で、初めてのマナ運用による自律飛行にも関わらず、これだけ上手に飛べているのかい!?実に素晴らしいっ!!君のそのポテンシャルもだが、私の開発した【マジョリティ】システムによるマナ運用アシスト機能も上手く働いているということだなっ!いやはや、“魔法少女”になるべく生まれてきたザ・“魔法少女”とでも言うべき存在は、私の妹以外にもいたんだなー!!しかも男子でっ!!世の中は広いものだっ!!あはははははっ!!」
「感心してるところ悪いんですが、俺はこれからどうすればいいんですかっ!?」
わけも分からず“魔法少女”に変身して、俺は緑川博士の言われるがままに、高度を上げて、“魔法都市”全体を囲っているという“マナ結界”(翼タイガーが破壊して入ってきた箇所の“マナ結界”は、すでに自動修復機能によって修復されている)のあるギリギリの所を飛びながら、翼タイガーの攻撃を避けていた。
幸い、魔物は魔力を持っているが、魔術は使えないため、その攻撃パターンは爪や牙などの物理オンリーなので、何とかその攻撃を躱して逃げ切れているが、いつまでもつかは分からない。
「心配ないっ!そろそろ私のエマージェンシーコールを受けた、彼女達が来てくれるハズだ!」
緑川博士がそう言った直後、
「『アクアウィップ』っ!!」
『ニ゛ャオン゛ッ!?』
突如、翼タイガーの全身を縛るように、水で出来たロープが現れた。
「よくやった、ローズっ!
あとはボク達に任せろっ!『ファイアアロー』っ!!」
「『サンダーボゥル』っ!!」
『ニ゛ャァアアアアア゛ッ!?!?』
続いて、翼タイガーに向かって、下から炎の矢と、球状の雷による攻撃が放たれ、それらが翼タイガーに直撃すると、翼タイガーは黒焦げになりながら、地面へと落下していった。
なんというか…、あっという間だった。
こんなにあっさりと魔物が倒されるなんて、余程優秀な“戦闘魔法師”の手によるものだろうか…?
そんな風に漠然と考えている一方で、落下した翼タイガーの死体はどうなったのかと目で追うと、地上で待機していた“第12魔法都市守衛魔法師部隊”(略して“12守衛隊”)に所属する“戦闘魔法師”の人達が確保しているのが見えた。
「ふぅ…、助かった…」
俺が、ひとまず助かったことに一安心していると、目の前に、先程魔法を使って、翼タイガーを倒した三人の“戦闘魔法師”と思われる少女達がやって来た。
三人とも、俺が今着ている衣装と色違いの衣装を着ていることから、三人は俺と同じ“魔法少女”ということなのだろうが…
「博士、無事でしたか!」
「やぁ、ローズ!早かったね!おかげで助かったよ!」
「やれやれ、まさか“魔法少女クラス”正式発足前に初仕事させられることになるとは思ってもみませんでしたよ、博士」
「ははは!私もそのつもりは無かったんだが、少し事情が変わったんだよ、ウインディ!
それにしても、やはり私の開発した【マジョリティ】システムは素晴らしいな!あの翼タイガーを苦も無く瞬殺出来てしまうとは!」
「下で待機してくれていた“12守衛隊”の人達もビックリしてましたよ?自分達の仕事が無くなるー!って」
「あ、あの…、それで…、そ、その娘は、誰ですか…?わたし達と同じ…、“魔法少女”、みたいですけど…?」
「あぁ、実はこの子の件で、色々と話しておきたくてね、それで、君達にこうしてわざわざ出動してもらった、というわけなんだ、ホーク」
それぞれ、“ローズ”、“ウインディ”、“ホーク”と呼ばれた三人が、俺を値踏みするような視線を向けてきた。
「むむ…?君みたいな娘、中等部にいたかしら?それとも、外部からの編入生?」
「ふふ♪実にカワイらしい女の子じゃないか♪ボクは好きだよ、君みたいなカワイイ女の子は♪」
「あ…、えっと…、と、とりあえず、場所を、変えませんか…?彼女…、疲れてるみたいですし…」
「ああ、そうだね。
事後処理は“守衛魔法師”の皆に任せておいて大丈夫だろう。一度、魔高に戻り、そこで詳しく事情を話そう」
魔高とは魔法師育成学園高等部の略称で、他の“魔法都市”の学園と区別する場合は、12魔高などと呼ぶらしい。
それはともかく、俺は緑川博士を抱えたまま、“魔法少女”三人の跡をついて、魔法師育成学園高等部へと向かうのだった…
「いやいや!?俺、これから愛宕高校の入試に向かわなきゃなんですけど!?」
「何を言っている?君は“魔法少女”になったのだから、一般高校の受験なんてする必要無いだろう?」
「え…?」
「君は、四月から魔高女子科の“魔法少女クラス”へ通ってもらうことになる。担任は勿論、私だ。これからよろしく頼むよ!」
「は…、はぃいいいいいっ!?!?」
*
“魔法少女”となって、空を飛んでやって来たのは、戸畑区にある、魔法師育成学園高等部の敷地。
ここは、かつて戸畑渡場と呼ばれる戸畑区と若松区を繋ぐフェリー乗り場があった場所で、かつての人類同士の戦争やその後の魔獣被害などによって壊滅的被害の受けた場所と、その周囲一帯を整備し、魔法師育成学園高等部の敷地へと再開発した場所になる。
現在もまだ開発が進んでいて、学園の敷地も広がっており、その新たに開発された敷地に、今年から使われる予定の新校舎も建てられたらしい。
学園の目の前には、洞海湾が広がり、その洞海湾によって分かたれた戸畑区と若松区を繋ぐ、赤い吊り橋、若戸大橋が見える。
若戸大橋は、一度破壊されたため、今ある物はかつての姿のままに復旧し、再現された物となる。
ちなみに、フェリーは現在運航していない。
というのも、海には魔物が住み着いているため、船で海を渡るのは危険だからだ(洞海湾は、都市の性質上、“マナ結界”内に存在しているため、外海に住む魔物が強弱に関わらず“マナ結界”の下を通って入り込んで来てしまう)。
魔法師育成学園高等部がこの地に作られたのも、洞海湾からの魔物の侵入を、文字通り水際で防ぐためという目的があるらしい(ちなみに中等部の敷居は小倉南区の方にある)。
魔法師育成学園高等部、略して魔高は、男子科と女子科に別れており、校舎は別だが、同じ敷地内にあって、訓練施設などは共同で使用するようになっているらしい。
また、校舎から少し離れた学園の敷地内に、学年別に別れた生徒寮も作られていて、基本的に、魔高に所属する生徒達はその寮から通うこととなっているようだ。
そんな魔高の女子科の校舎に案内された俺は、春休みに入って、ほとんど生徒のいない校舎内を、緑川博士と“魔法少女”達に付いて歩いていく。
そして、一階の一番奥側の部屋の前で立ち止まった緑川博士が、その部屋の扉を開いてこう言った。
「ようこそ、我が研究室へ。さぁ、中へ入りたまえ!」
緑川博士がさっさと中へ入ると、それに次いで“魔法少女”の三人も部屋へと入っていくので、俺もその後に付いていく。
部屋に入る前に見た、扉のプレートには“緑川研究室”と書かれていた。
部屋の中は、ちょうど教室の半分くらいの広さで、部屋の真ん中に応接セットが置かれているのと、壁際に様々な本の並んだ本棚があるだけの簡素な部屋だった。
“研究室”と言う割にはあまりに物が無さすぎではないか、と思っていると、俺の考えを察したのか、緑川博士がこう説明した。
「この部屋は来客を相手にしたり、事務仕事をするだけの部屋でね、本当の研究室へは、そこの本棚の裏に隠してある“ワープポスター”を使って行くんだ。
さて、互いに自己紹介といく前に、まずは君の方の事情を済ませておこうか」
「俺の事情…?」
「ああ。まず、君がこれから受けるハズだった高校への連絡と、君の例の発作の問題だ」
「あ!そう言えば、俺、この姿になってから、身体が嘘みたいに楽になったんですけど、どうしてなんですか?」
「それは今の君が女子の身体だからだよ。例の魔術的“呪い”による遺伝子疾患の発作は、男子の身体でしか起きない現象だからね。
恐らく、今君が変身を解除すれば、男子の身体に戻って、再び発作に襲われるだろう。
だから、それに備えて君は今すぐに、発作を抑える薬を用意するんだ」
「は、はい、分かりました」
俺がカバンから薬を取り出していると、“ローズ”と呼ばれていた水色を基調とした衣装の、ショートヘアの“魔法少女”が口を開いた。
「あ、あの、変身を解除して男子の身体に戻るって、どういうことですか?彼女は、“魔法少女”、女の子じゃないんですか?」
「ああ、それが驚くべきことにね、彼は男子、しかも“魔法師”ですらない、普通の男子中学生なんだよ」
「ええっ!?」
「っ!?」
「ま、まさか!?だって、彼女には立派な胸もあるし、何処からどう見ても女の子ですよ!?」
“ウインディ”と呼ばれていた赤を基調とした衣装の、セミロングの“魔法少女”が、言うように、今の俺は何処からどう見ても女子にしか見えなかった。
胸はあるし、逆に股間には本来あるべきモノが無い、正真正銘、性転換してしまっていた。
「まぁ、論より証拠と言うしね、少年、変身を解除してくれたまえ。ああ、それと変身解除と同時に、薬を飲むのを忘れないようにね」
「あの、変身解除ってどうすれば…?」
「君の胸のリボンの中央にある“マギアコンパクト”を、リボンから外せばいい」
俺は、緑川博士に言われた通り“マギアコンパクト”をリボンから取り外すと、俺の着ていた服は一瞬で元の男子の学生服に戻り、そして胸は縮んで、股間にあるべきモノも戻ってきたのを感じた。
と、同時に、例の発作が起こる気配を察したので、俺はすぐに用意していた薬を飲み、なんとか発作を抑えることが出来た。
一方、目の前で“魔法少女”が男子に変身していくのを目の当たりにした、本物の“魔法少女”の三人は驚きの声を上げた。
「ほっ、本当に男の子になっちゃった!?」
「ま、まさか…、こんな、ことが…!?」
「なんと…っ!?いや、しかし男の子になってもカワイさは変わらないね♪ああ、ボク的にはどちらでもイケるから問題無いよ♪」
「さて、少年?身体の方は大丈夫かい?」
俺の発作が治まったところで、緑川博士がそう尋ねてきた。
「あ、はい、なんとか…」
「では、次に君の受験するハズだった高校と、君の保護者の連絡先を教えてくれ。今から私が君の受験キャンセルの連絡と、“魔法少女”として魔高へ特別枠で入学させる旨を伝えるから」
「あ、えっと、保護者はいなくて、生活保護を受けていて…、」
「む…、そうだったか…
なら、他に連絡すべき近しい関係の者はいるかい?」
「えっと、一応、従妹と双子の妹が、魔法師育成学園の中等部に通ってて、今年から高等部の方に入学する予定で、従妹は、“魔法少女クラス”に入るって聞いてて…」
「何!?君の従妹が私のクラスに!?それは一体誰だい!?」
「従妹は白瀬麻里と言って、双子の妹の方は黒霧摩智と言うんですけど…」
俺が従妹と妹の名前を告げると、緑川博士と、“魔法少女”の三人が驚きの声を上げた。
「なんとっ!?君はあの白瀬君の従兄だったのかい!?それに、“翠山組”に配属が決まった黒霧君の兄となっ!?」
「えーっ!?すっごい偶然っ!!」
「あなた…、あの、マチちゃんの、お兄さんだったんですか…!?」
「なるほど…!確かに、マチ君にもそっくりだし、変身時の雰囲気はマリ君によく似ていたじゃないかっ!!何故ボクは気付かなかったんだ!?一生の不覚だ…っ!!」
「…えっと、マリとマチのこと、皆さんご存知なんですね?」
俺がそう尋ねると、“ローズ”と“ウインディ”がこう答えた。
「勿論!あたし達は魔高女子科の生徒会だからね!女子生徒の名前と顔は全員覚えてるし、当然中等部の子達も全員把握してるよ!」
「それに、マリ君とマチ君は、中等部でも成績優秀な美少女の二人として特に有名だったし、二人が“緑川組”と“翠山組”に別れて配属されたことも相まって、魔高内でも話題となっているよ」
「そうだったんですか…」
話に出てくる“緑川組”や“翠山組”というのはよく分からないが、“緑川組”というのが、緑川博士のクラスのことを指しているなら、マリが“緑川組”、つまり“魔法少女クラス”に所属していて、マチが“翠山組”というクラスに所属することになった、ということなのだろう。
「いやしかし、君が白瀬君の従兄で、黒霧君の兄と言うのなら話は早い!彼女達もここに一緒に呼び出して、今後の話をしようじゃないか!
だが、その前に君の受けるハズだった高校への連絡が先だな。今頃、貴重な男子の受験生が来ていないということで、大慌てだろうからな」
俺が緑川博士に受験するハズだった高校の名前を伝えると、早速緑川博士は愛宕高校に連絡して、俺が受験をしない旨を伝えた。
また、“魔法少女”の三人が、女子寮に入っているマリとマチに連絡を取って、ここに来るよう伝えた。
その間、俺はふと気になったことがあって、魔物襲来以降見ていなかったスマホを開いてみると、案の定というか、同じ高校を受けるハズだった、中学の同級生の少女からの不在着信が何件も入っていた。
恐らく、俺が高校に来ていないことを心配して連絡してくれたのだろう。
時間的に、もう試験は始まっている頃(後で知ったことだが、翼タイガーの事件で交通網の一時的な封鎖などの影響から、試験開始時間が2時間程遅れていたらしい)だろうから、今から折り返すわけにもいかず、後で落ち着いてからかけ直そうと思い、そのままスマホを閉じた。
「………」
ところで、先程から“ホーク”と呼ばれていた黄色を基調とした衣装の、ロングヘアで前髪を下ろしている“魔法少女”は、人見知りなのか、男が苦手なのかは分からないが、俺の方をチラチラと見ては、顔を伏せるという謎の行為を続けていた。
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それぞれの連絡が終わったところで、まずは互いに自己紹介をしておこうとなり、俺は改めて、というかここにきて初めて自分の名前を名乗った。
「うむ、黒霧優人君だね。私は、改めて名乗るまでも無いかとは思うが、緑川瑠璃だ。一応、魔法の研究なんかをしつつ、ここ12魔高で教師をしている。よろしく頼むよ」
そこで緑川博士は一旦会話を区切ると、博士の隣に控える“魔法少女”の三人に視線を向けた。
「それから彼女達は、私の開発した新たな“戦闘魔法師”システム、“【マジョリティ】システム搭載型戦闘魔法師”、通称“魔法少女”の三人、チーム“雪月花”だ」
緑川博士に促されて、一人ずつ変身を解除していきながら、自己紹介をしてくれた。
「初めまして!あたしは“マジョリティローズ”こと、野薔薇雪音です!この春から三年になる、12魔高生徒会の生徒会長もやってます!よろしくね!」
「あ…、た、鷹橋月音、です…、“マジョリティホーク”、やってます…、生徒会会計、三年生、です…、よ、よろしく、お願いします…」
「ボクの名前は、“マジョリティウインディ”こと、風霧花音、三年生で17歳、身長は161cm、スリーサイズは上から93、54、85、」
「ちょちょちょっ!カノンちゃん!?スリーサイズとかまでは言わなくていいからっ!!」
「どうして?彼にはボクの全てを知ってもらった上で、ボクの恋人になってもらいたいと考えているのだけど?」
「出会っていきなりでそれは早すぎるよっ!!マサト君もドン引きしてるじゃんっ!!」
「おっと、それは失礼した。ちなみにボクは生徒会の副会長をしているよ、よろしくね、マサト君♪」
「あ…、ど、どうも…」
三人の“魔法少女”の自己紹介を終えて、俺は気になっていたことを尋ねた。
「えっと、三人は今年から三年生なんですよね?でも、確か“魔法少女”システムは最新式で、“魔法少女クラス”も今年から作られた、って聞きましたけど…?」
「ああ、その通りだ。よく知ってるね、黒霧君!確かに、彼女達は今年から三年生になる“魔法師”だが、“魔法少女”としてはデビューしたての新米だ。
そして、私の担当する“緑川組”、“魔法少女クラス”は少々特別でね、新一年生に加えて、新二年生と新三年生の中からも“マジョリティ”適性を持つ生徒も“魔法少女クラス”として、配属させることになったんだ。
とはいえ、実際に授業に参加するのは実技の時だけだがね、座学は通常通りの学年のクラスで受けてもらう」
緑川博士によれば、“マジョリティ”適性という特殊な適性が無ければ、変身アイテムである“マギアコンパクト”を起動させることが出来ないため、誰もが“魔法少女”になれるわけでは無いという。
そうして、適性のあった“魔法師”達は、一年生が四人、二年生、三年生がそれぞれ三人ずつで、合計十人の生徒が今年の“魔法少女クラス”に配属、ということになったらしい。
「そして、黒霧君、君はその栄えある“魔法少女クラス”の十一人目の“魔法少女”というわけだ」
「それなんですけど…、何で俺が“魔法少女”に…?そもそも“魔法師”ですら無いのに…」
俺には生まれつき“魔石”を操る力、つまり魔法を使う才能が無かった。
故に、“魔法師”となる道を諦めたわけなのだが、それがどうして“魔法少女”になってしまったというのか…?
「ふむ、それについては私の中でいくつか仮説があるのだが…、」
緑川博士が説明をしようとした時、廊下の方から騒がしい音が聞こえてきたかと思うと、扉をノックする音とほぼ同時に扉が開かれ、俺のよく知る二人の美少女が室内に飛び込んできた。
「お兄ちゃんっ!!」
「マサト君っ!!」
「マチっ!マリっ!」
ショートヘアにメガネをかけた少女が、俺の双子の妹の黒霧摩智、側頭部の右側でサイドテールにした少女が、俺の従妹の白瀬麻里だ。
「セツナ先輩から連絡貰って、まさかと思ってたら…!」
「マサト君が“魔法少女クラス”に入学することになったってどういうこと!?」
妹と従妹の二人はかなりテンパっているようで、この部屋には俺以外にも緑川博士や先輩達がいるということにも気付いていないような様子だった。
緑川博士が「コホン!」と一つ咳払いをしたところで、二人はようやく博士達がいることに気が付いたようで、「「あ…、おはようございます…!」」とバツが悪そうに挨拶をした。
「ああ、おはよう、白瀬君、黒霧君。とりあえず、二人も席に座りたまえ。話はそれからだ」
「「はい」」
そうして二人が席に着き、落ち着いたところで、改めて俺に起きた今日の出来事について緑川博士から説明があるのだった。