第3話「対決!マジョリティブラック対マギキュリィツヴァイ」
*
翌日、俺とユウキとの決闘の日を迎えた。
俺達はシホ学園長に指定された時間に、屋内訓練施設へとやって来た。
…というか、まだ入学もしていないのに訓練施設を使い過ぎなんじゃないか、俺…
「ふむ!揃ったようじゃな!」
訓練施設にやって来ると、そこにはシホ学園長と、緑川博士、翠山博士の三人がすでにスタンバっていた。
「やれやれ、黒霧兄君、早速君は女の子から熱烈なアタックを受けているようじゃないか!」
と、緑川博士がニヤニヤした顔でそんなことを言った。
「何を勘違いしているのか知りませんが、そっちの意味では無く、本当の意味でアタックされましたからね?」
「まぁまぁ、黒霧君、運命の出会いというのは得てしてそういうものですよ?」
俺の反論に対して、翠山博士が微笑ましい表情をしながらそう返してきた。
「博士っ!アタイは別にそんなつもりはこれっっっっぽっちも無いですからねっ!?」
それに対しては、ユウキの方から反論がありこう続けた。
「要はアタイが勝てばいい話だ!そうすりゃ、アタイがマサトのこ…っ、恋人になることは無くなるんだからなっ!!」
「そうですね、紅垣さんが勝てばの話ですね」
そう言いながら、翠山博士がユウキに篭手のような形をしたデバイスを手渡した。
「はい、これがアナタの変身アイテム、〈マギアナックル〉です。紅垣さんの戦闘スタイルに合わせてデバイスをこの形に調整するのはなかなか骨が折れましたよ?」
ユウキは翠山博士から渡されたソレ、マギアナックルを右手にはめながらこう続けた。
「…うん!バッチリです!ありがとうございます、博士!」
「え、まさか変身アイテムって…、そのマギアナックルでユウキは変身すると?」
俺が尋ねるとユウキは自信満々にこう答えた。
「ああ!これがアタイの変身アイテムだ!アタイの戦闘スタイルに合わせた特注品なんだぜ!」
「ええ、【マギキュリィ】システム、魔砲少女はその特異性故に、汎用性を捨てて遠距離特化型のマギアロッドや近距離特化型のマギアナックルなど、個人のスタイルに合わせたデバイスを用いて魔砲を使用するシステムを採用したんです。他にも、その人の戦闘スタイルに合わせて、剣型の〈マギアソード〉や弓型の〈マギアアロー〉などがありますよ。ああ、弓とは本来『BOW』なので〈マギアボウ〉とすべきではないかと思われるかもしれませんが、それだと語呂が悪く、あまりカッコよくないでしょう?なので……、」
ユウキの答えに、翠山博士が補足で説明をしてくれた(ただ、最後の方はあまり関係の無い話に脱線していったので、話半分に聞き流した)。
その間に、俺も変身アイテムであるマギアコンパクトを緑川博士から受け取り、互いに準備が整ったところでシホ学園長が口を開いた。
「では、ルールを説明する!
戦闘は妾が張った特殊な結界の中で行うこと。この結界内であれば、どれだけダメージを食らおうと肉体的な傷を負うことは無く、死ぬことも決して無い。じゃが、ダメージを受けた状態で結界を出ると、そのダメージ分の怪我を負うことになるので注意するのじゃ。
勝敗は、ルリの用意したこの機械が両者が受けるハズの本来のダメージ値を計算し、その受けたダメージ値が一定の割合を超えた段階で戦闘続行不能とみなし、その時点で敗北とする。
もしくは、相手に『参った』『降参』もしくはそれに準ずる言葉を言わせれば勝利とする。
両者、何か質問はあるかの?」
俺達は共に首を横に振った。
ちなみに余談だが、シホ学園長の張る結界というのは、魔法都市を覆うマナ結界とは全く異なる原理、魔法や魔術とは違う〈呪術〉と呼ばれる原理によるものらしい。
閑話休題。
「よし、ならば二人とも位置に付くのじゃ。…うむ、ではこれより結界を張るぞ?
さっきも言ったが、この結界から外に出てしまえば受けたダメージがそのままお主らの身体を傷付けることになるから、妾が許可するまで外に出るで無いぞ?…まぁ、多少の力を加えたところで、妾の結界を抜けることは出来んがの」
そう言うと、シホ学園長は俺達の周囲に、大体25メートルプールくらいの広さで、高さが十メートルくらいの結界を張った。
マリ達は観客として、結界の外から俺達の決闘を観戦することになる。
「えっと…、ちなみにどの程度の力を加えればこの結界って壊せるんですか?」
と、俺が興味本位で尋ねてみると、シホ学園長からこんな答えが返って来た。
「そうじゃな…、地球を真っ二つに割れるくらいの力かのぅ…?」
それ、実質不可能ってやつじゃねぇか!
思わず「ア◯レちゃんかよ!」とツッコミを入れたくなったが、そこは堪えた。
「まぁ、お主らには無理じゃろうな、じゃから安心して全力で殺りあうが良いぞ!」
「へへ…!聞いたな?マサト!
この結界内なら、互いに手加減の必要は無し!全力全開でかかってきなっ!!」
ユウキはそう言うと、右手にはめたマギアナックルを高く掲げて叫んだ。
「『マギアナックルセットアップ』っ!!」
すると、ユウキの全身を真っ赤な炎が包み込み、次の瞬間には、セーラー服を思わせるスタイリッシュでクールビューティーな衣装に身を包んだ魔砲少女、マギキュリィツヴァイに変身したユウキの姿が現れた。
衣装デザインは他の魔砲少女と同じだが、首元やスカートを彩るラインの色が燃えるような赤色をしていた。
「っしゃ!!最初っからクライマックスで行くぜっ!!」
ユウキが、両拳を打ち付けるのを見て俺も覚悟を決め、マギアコンパクトを手に持って、叫んだ。
「『マギアコンパクト起動』っ!」
すると、俺の全身はドス黒いオーラに包まれ、股間がスースーする感覚と急激に胸が重くなる感覚の後に、俺は黒を基調とした可愛らしいフリフリドレスに見を包んだ魔法少女、マジョリティブラックへと変身を遂げた。
「んな…っ!?マサト、お前…っ!?」
そんな俺の姿を見て、ユウキが絶句していた。
「な、なんだよ…、しゃーないっちゃろ?俺だってこの姿になるんは恥ずかしいっちゃけど、」
「カワイ過ぎるだろっ!!」
「え?」
「ちょっ待てよ!?マジで魔法少女に変身してんじゃねぇか!?」
「いや、何を今さら?魔法少女に変身出来たけん、魔法少女クラスに入学することに、」
「そうじゃなくて!!その身体っ!!めっちゃ女の子になってるじゃねぇかっ!!おっぱいもでけぇし、顔もカワイイし、声もハスキーで、……何気にアタイの好みな感じだし………」
最後の方は小声で何を言ってるのか聞き取れなかったが、どうやらユウキは、俺が性転換するということまでは知らなかったらしい…
ということは、俺は男のまま魔法少女姿に変身すると思われていたわけか…
「それだと単なる変態じゃねぇか……」
「だ…、だから、そう…、言ってたんだよ……」
そう言えば、ユウキは俺の事を変態野郎とも言ってたな。
「…ああ、なるほどな。えーっと、それでどうすっと?このまま続けるか、それとも…、」
「い、いや、それはそれとして決闘はする!今は勝ち負けよりも、マサト、いや、マジョリティブラックに純粋に興味がわいてきた!」
気を取り直したのか、ユウキは再び自身の拳と拳をぶつけて構えを取った。
「さぁ、勝負だ!マジョリティブラック!」
「分かった。お互いに悔いの無いよう、全力で戦おう!」
こうして、俺とマギキュリィツヴァイとの戦いが始まった。
*
時は少しだけ遡る。
ユウキとの決闘前、皆で俺の部屋に集まって朝食を食べていた時だ。
「そうだ、マサト!ユウキに勝つ方法教えちゃる!」
と、ユウトが唐突にそんなことを言い出したのだ。
「え?ユウキに勝つ方法…?いやいや、どう考えても無理やろ、魔法初心者の俺と中学から魔法使っとるユウキとじゃさすがに経験の差があるし、何より俺はまだ魔法を上手く使いこなせとらんし」
「でも、マサトには機動力があるやろ?」
確かに、俺の現時点での唯一の取り柄と言えば『飛行』魔法くらいだが…
「だが、それだけやとユウキには勝てんっちゃろ?」
「それがそうでも無いっちゃん。
ユウキが得意とするのは近接戦なんよ」
「近接戦…?」
「そう、やけん、ユウキにわざと接近させてから近接魔砲を使わせて、その瞬間にマサトの機動力を生かして回避する!
それを繰り返していけばマサトに勝機が生まれるハズっちゃん!」
「いや、でもそれってただ逃げとーだけやん?そんなんで勝ちとは言わんやろ?」
俺のその疑問に、今度はマチが答えた。
「ううん、ユウちゃんの言う通りっちゃん。お兄ちゃん、【マギキュリィ】システムの弱点、覚えとう?」
「弱点というと……、」
*
「おりゃああああっ!!『バスターナックル』っ!!」
『BUSTER KNUCKLE ATTACK!』
マギアナックルの装着されたツヴァイの右手にマナが収束されていき、そのマナを纏った状態でツヴァイが俺に拳を向けてきた。
「魔砲による物理攻撃!そんなのもありなのか!?」
俺は向かって来るツヴァイに対し、ギリギリまで引き付けてから真横に紙一重で躱した。
「やるなっ!もいっちょ『バスターナックル』っ!!」
『BUSTER KNUCKLE ATTACK!』
それに対して追撃してくるツヴァイ。
ならばと、今度は空へと飛んで回避する。
ツヴァイは空へと回避した俺に狙いを定めるかのように、右拳を向けて魔砲を放った。
「『ナックルシュート』っ!!」
『KNUCKLE SHOOT ATTACK!』
今度は拳から光線上の魔砲が俺へと向かって飛んできた。
「飛び道具まであるのかよ!?」
俺はツヴァイの放った魔砲を空中でギリギリ避けながら、ツヴァイの様子を伺う。
「そりゃ、魔法ってのは本来がそういうもんだからなっ!とはいえ、アタイのこれはあくまで補助的なもんだがな」
どうやら、『ナックルシュート』は一度発動すると連続使用が可能なようで、ツヴァイは体を回転させながら、空中にいる俺を正確に補足して次々と魔砲を放ってくる。
「おらおらー!逃げ回ってちゃ勝ち目は無いぜっ!?」
「んなことは分かってるよっ!『シャドゥアロー』!」
俺は避けながらなんとかスキを伺い、闇の魔法を一発放つも、狙いがそれて闇の矢はツヴァイの遥か後方の床へと突き刺さった。
「おいおい、何処狙ってんだー!?」
「んなこと言っても…っ!俺はまだ魔法初心者なんだよ、…って、しまった!?」
そうこうしていると、俺は結界の端、直方体の角へと追い詰められてしまっていた。
「へへ、そこなら逃げられんねぇだろ!」
「くっ…!?誘導されてたか!?」
気付いた時には遅かった。
『FLYING MODE ACTIVATE.』
ツヴァイのマギアナックルからそんな機械音声が流れると、ツヴァイの背中と足首に二枚一対の合計六枚の天使のような光の羽が現れて、ツヴァイが空に浮かび上がった。
所謂、魔砲少女の飛行モードというやつだ。
「これでトドメだブラックっ!
モードチェンジ!ギガントモード!」
『GIGANT MODE ACTIVATE.』
ツヴァイがそう叫びながら、俺へと向かって勢い良く飛んでくる。
その間、ツヴァイの右手のマギアナックルは、ガチャンガチャンという機械音をさせながらどんどんと巨大化していき、全長で二メートルはあろうかという巨大な鉄の塊へと変形した。
「んな…っ!?」
「このデカさなら、避けられねぇだろ!?」
「く…っ!?」
確かに、四方が開けた場所ならまだしも頭上と背後、そして左右を結界で囲まれており、正面からは俺の身長以上の大きさのマギアナックルが迫って来ていて、まさに絶体絶命と言えよう。
「覚悟しなっ!!アタイの必殺っ!『ギガントナックル』っ!!」
『GIGANT KNUCKLE ATTACK!』
巨大化したマギアナックルが、大量のマナを全体に纏わせながら俺の目の前に迫ってくる。
だが、このピンチこそが最大の勝機だ。
マギアナックルが当たる瞬間、その巨大さ故にツヴァイからは俺の姿が見えなくなっている。
その一瞬のスキに俺は、魔法少女に変身した際に自動的に右太ももに装着された棒状の〈魔装具〉、〈マギアデバイス〉を右手で掴んだ。
このマギアデバイスは、全ての魔法少女の右太ももに初期装備として装着されており、デフォルト状態では棒状なのだが、手に装備することでその人の特性に合った魔装具へと変化する。
右手に持ったマギアデバイスが刀型の魔装具へと変化すると、俺は目の前に迫りくる巨大なマギアナックルを十文字に斬った。
「な…、に…っ!?」
四分割されたマギアナックルの向こうから、驚愕の表情を浮かべるツヴァイの顔が見えた。
俺はそのスキを逃さず自身の真下へと移動し、一瞬でツヴァイの背後へと回り込むと、その首筋にマギアデバイスの刃先を突き付けた。
「勝負あり、かな?」
「…やれやれ、甘いなブラックは。この結界内なら、どんだけ首を斬られようと死にゃしねぇんだから、アタイに『参った』なんて言わさずその刀でアタイの首を斬ればいいんだ、じゃねぇと、アタイのとっておきの一撃がブラックの体を吹き飛ばすぜ?」
そう言いながら、元のサイズに戻ったマギアナックルを構えるツヴァイ。
「確かに、近接戦闘特化のツヴァイならこっから逆転の手もあるんやろうな、ただし、まだ戦えるマナが魔石に残っていれば、な」
そう、魔砲少女の弱点、それは魔石の消耗率の激しさだ。
魔砲は、その性質上大量のマナを一度に消費するため、何度も魔砲を放つとマナを蓄えている魔石が一気に消滅していき、次第に魔石の自動修復機能がマナの消費速度に追い付かなくなり、マギアナックルは魔石を修復するするために、その機能を一時的に停止せざるを得なくなる。
「へへ…、確かにブラックの言う通りだ」
ツヴァイがニヤリと笑うと、
『MAGIC ENERGY EMPTY. BATTLE MODE RELEASE.』
という機械音声がマギアナックルから聞こえ、同時にプシュー!という排気音と共にマギアナックルがその機能を停止し、ツヴァイの変身が解けていった。
「アタイの負けだ、マサト…!」
そう言うと、ユウキは清々しい表情で床へと落下していった。
「おっと、危なっ!?」
俺は慌ててユウキの真下へと回り込み、落ちて行くユウキを(狙ったわけでは無いが)咄嗟にお姫様抱っこで抱えあげた。
「キャッ!?」
「だ、大丈夫か、ユウキ!?」
「まっ、マサト…っ!?」
後から冷静になって思い返せば、結界はまだ解けていないからこのまま落下したところで、生身の状態であってもユウキが怪我をすることは無い。
しかし、だからといって目の前で落下していく女の子を無視出来るわけがないよな…
それはともかく、俺はユウキをお姫様抱っこしたままゆっくりと床へと降り立った。
「あ、ありがと…、な、マサト……、そ、その、重くないか、アタイ…?」
俺の腕の中で、ユウキが顔を真っ赤にして恥ずかしがっているのが分かった。
いや、恥ずかしいのは俺も同じだ。
正直、女の子をお姫様抱っこしたことなんて人生で初めての経験で、内心かなりテンパっており、きっと俺の顔も真っ赤になっていたことだろう。
「い、いや…、全然っ!重くないし、むしろめっちゃカワイ…、」
「かっ、かわっ!?」
「あぁいや!?カワイイやなくて軽いよ!…って、あ、いや、別にカワイくないって意味や無くてなっ!?」
テンパっていたせいでわけのわからない事を口走る俺を見たせいか、逆にユウキの方は落ち着いていったようで、くすりと微笑むと俺の腕から自ら降りて俺の正面に立つと、にこりと笑ってこう言った。
「というわけで、決闘はアタイの負けだ!だから、約束通り、マサト、アタイをマサトの恋人にしてくれるか?」
「え…、えっと…、それは……、」
俺は、どう答えていいものか迷っていると、ユウキが俺に近付いてきて、俺の頬に「ちゅっ♥」とキスをした。
「え…っ!?」
「マサトが嫌って言っても、無駄だぜ♥約束は約束だし、それに、アタイ自身、マサトのこと好きになっちまったからな♪絶対にアタイの恋人になってもらうぜ♥」
こうして、ユウキが俺の新たな恋人になったのだった。




