第10話「もう一人のマリ」
*
俺達の前に現れた、マリそっくりの少女、ヴァルキリーパールこと白波麻里亜。
だが、彼女は記憶喪失でその名前も碧風博士という人に付けてもらったのだという。
そんな彼女の正体もだが、そもそも戦乙女とは何なのか?何故ユウナがそれに変身しているのか?などなど、気になることが多過ぎる中、ひとまず俺達は博士達の待つ海岸へと戻って来た。
*
「というわけで、初めまして魔法少女及び魔砲少女の皆!
私が魔法科学会〈3G〉の一人、碧風恵璃だよ!よろしくね〜♪」
そう言って自己紹介してきたのは、油汚れの目立つ白衣を着たスレンダーな美しい女性だった。
彼女を一目見た印象としてはとても新鮮だなという感じだった。
具体的には彼女の慎ましやかな、
「むっ?優人君だったかな?君、私の胸を見て何か言いたそうだね?ん?」
「え!?あ、い、いやー、その、」
「ははは!黒霧兄君の周りにはとびっきりの巨乳揃いだからな!貧乳な恵璃が物珍しく思えるのも仕方がないさ!」
「ちょっと瑠璃ちゃん!?」
「まぁまぁ、落ち着いて、恵璃。わたくしは恵璃の慎ましやかな胸も大好きですわよ♪」
「瑠衣ちゃん…、ってだから貧乳言うなしっ!!これでも四捨五入すれば80はあるんだぞ!?」
「まぁまぁ、それよりも!
いい加減、色々と説明してくれないかな姉さん達?彼女達、戦乙女のことや、そちらのマリちゃんそっくりな子のことも気になるしね」
サンゴのその一言で、碧風博士の胸に関する話題は強制的に打ち切られた。
ちなみに、今俺達は変身を解除して私服姿に戻っているのだが、そうなると余計にマリアと名乗った少女はマリそっくりだった。
見た目は勿論なのだが、そのスタイルも瓜二つだった。
こうして見ると、やはり彼女は行方不明となっているマリの双子の妹のマミなのではないかという気もしてくるし、マリのクローンなのでは…?みたいな突拍子も無い考えも浮かんできた。
そんな風に考えていると、先程までイジられていた碧風博士が「コホン!」と一度咳払いをしてから説明を始めた。
「では、まず戦乙女、科学式魔法武装兵器【ヴァルキリー】システムのことから説明しよう!
これは、瑠璃ちゃんの【マジョリティ】システムと、瑠衣ちゃんの【マギキュリィ】システムと並行して研究を続けていたシステムで、簡単に言えば現代魔法と失われた古代科学技術の融合によって開発された武装兵器、ということになる!」
科学式魔法武装兵器【ヴァルキリー】システム、通称戦乙女は、魔石を扱えない非魔法師でも戦えるようにしたシステムで、古代科学技術によって作られた〈乙女石〉と呼ばれる〈人工魔石〉が、自動で大気中のマナに含まれる魔力元素を吸収し、システムに組み込まれた魔法陣が起動することで独自の魔法攻撃(正確には〈擬似魔法〉と言うそうだが)を使用するシステムなのだそうだ。
この擬似魔法とは、科学技術によって魔法を再現したものなので、非魔法師であっても扱うことが出来るため非魔法師であるユウナにも扱えたというわけだ。
また、乙女石そのものには魔力元素は含まれていないが、石ごとに収集出来る魔力元素が異なっていて、それぞれに使える魔法の属性も変わるようだ。
例えば、ユウナの持つ乙女石は〈終焉の紅玉〉という固有名があり、炎属性の魔法を使える。
そして、マリアのは〈光輝なる真珠〉と呼ばれていて、水の魔法を使えるそうだ。
「そ、そんなシステムが開発されていたなんて…!」
「わたくし達も知りませんでしたわ…」
緑川博士の妹であるサンゴと、翠山博士の妹であるササラも【ヴァルキリー】システムについては知らなかったようだ。
「まぁ、【ヴァルキリー】システムについては、超々極秘事項としてその研究開発が進められてきたからね」
と緑川博士が言った。
「それは、何故ですか?」
俺の質問に、今度は翠山博士が答えた。
「失われた古代科学技術の研究という時点で、世間からの反発が起きかねなかったからです。
世間一般的には、古代科学技術は悪とされていますからね」
かつて、人類を滅ぼしかけた世界大戦では、核兵器を中心に古代科学技術を使った大量の殺戮兵器が使われた。
その大戦の結果、ほとんどの古代科学技術は失われたが、二度とそのような悲劇を起こさないために、大量殺戮兵器の使用及び所持の全面的禁止が国際法で定められた。
「国際法で禁止されているのは、大量殺戮兵器の使用及び所持、そしてそれに伴う殺戮兵器の製造や研究に関することであって、古代科学技術の研究そのものを禁止されているわけではない」
「ですが、世間的には古代科学技術=大量殺戮兵器、というイメージがあるため、恵璃の研究はなかなか認められませんでした」
「まぁ実際、大量殺戮兵器でこそ無いけど一つ間違えば人を殺す道具になりかねないシステムだからね、世間の人々が忌み嫌うのも無理は無いよ」
碧風博士はそう言ったが、しかし、それを言うなら戦闘魔法師だってそうだ。
それに、元を辿れば、古代科学技術で使われていたダイナマイトなんかも、本来は人を殺す道具では無く人の生活をより豊かにするために作られた道具だったハズなのだ。
道具や技術、知識が悪なのではなく、それを悪い事に使う人間の心こそが本当の悪なのだ…
「ま、そんな哲学的なことを今更論じるつもりは無いよ。
ともかく、そんなわけで私の研究は【マジョリティ】システムや【マギキュリィ】システムの裏で進めることになったわけ!」
その目的は、非魔法師でも職業の自由を選べるようにするため。
今の時代、魔法を上手く使える使えないに限らず、魔法師であれば戦闘職や技術職への優先的な採用が行われ、その給料も非魔法師に比べて遥かに良い(命に関わる仕事なのだから当然と言えば当然なのだが)。
この点で非魔法師の側から一部不満の声が上がっていたりもして、中には非魔法師が差別されている、魔法師達によって不当に搾取されている、などと訴える過激派も出てきたりしている。
「そこで、私は科学的なアプローチから、非魔法師でも魔法を扱えないかという研究を長年続けてきたわけなのだが、これがなかなか上手くいかなくてね〜…
非魔法師が魔法を扱うには、古代科学技術の力だけでは不可能だということが分かったんだ」
「えっ!?」
「ふ、不可能って…、でも、実際に…、」
俺達の疑問に、碧風博士はニヤリと微笑むと、こう答えた。
「そう!そこで私の前に現れたのが、未知の機械式武装を纏った記憶喪失の少女、つまりはヴァルキリーパールこと白波麻里亜ちゃんだったのだよ!!」
それから、碧風博士がマリアと出会った経緯を話し始めた。
*
時は遡ること二年前、【ヴァルキリー】システムの開発に難航していた私は魔法都市の外、戦後未だ未開の地となっている旧大分県中津市は伊藤田洞ノ上地区を一人、ぶらぶらと旅をしていたんだ。
何故そこに行ったかの理由は特に無かったんだけど、今にして思えば何かに呼ばれたのかもしれないね。
…なんて、科学者らしくなかったかな?
ああ、そうそう、君達には改めて言うまでも無いことかもしれないが、未開の地とは言っても、全く人が住んでいないわけではなく、魔法技術による開発が行われていないというだけで、最低限の生活を送れるだけの、農業や林業、狩猟、畜産といった産業は細々と行われている地区ではあったんだ。
そんな、戦後の荒れ果てた未開の地を、目的も無く歩いていた私はとある神社に辿り着いたんだ。
そこは、古要神社という無人のこじんまりとした、しかしそれなりに歴史のある神社でね、多少荒れ果ててしまってはいたけど、人の手は入っていて今でも参拝客は訪れているような神社だったんだ。
そこで、私はここで巡り会ったのも何かの縁ということで柄じゃないのは分かってたけど神頼みをしたんだ。
非魔法師でも魔法を扱えるような、そんなシステムのアイディアが思い浮かびますようにってね。
それから、神社を離れてしばらく歩いていくと突然空が光って何かが地面に落ちていくのが見えたんだ。
何事かと思い、私は急いでその現場に駆け付けたわけだが、そこに倒れていたのが〈戦装束〉を纏った彼女というわけなんだ!
いや、しかし驚いたよ!
まさか、かの有名な古典アニメのセリフ、『空から女の子が!』ってヤツをリアルで体験することになるなんてね!
それはともかく、彼女の纏っていた戦装束及び、その核となる人工魔石、乙女石は、この世界においては全く未知の技術が使われていたんだ!
恐らくは、宇宙由来の科学文明技術かもしくはこことは別の世界、並行世界の科学技術文明が使われているのだろうと察しが付いたよ。
だが、そんなことはどうでもよくて、重要なのはこの技術こそが!私の求めていた非魔法師でも魔法を扱えるようになるシステムだと、ピンと来たんだ!
*
碧風博士の話は突拍子も無かったが、このことで俺達に嘘を付く理由は無いから恐らく真実なのだろう。
博士の説明はあと少しだけ続いた。
「それから、気を失っていた彼女を介抱し、彼女が目を覚ましたところで詳しい事情を聞こうと思ったんだが、どうやら彼女は自身に関係する事柄のほとんどを忘れてしまっていたんだよ」
「はい…
私は自分が誰で何処から来て、それまで何をしていたのか、一切思い出せなくて…
唯一覚えていたのは、戦乙女としての戦い方と、この力を使って私は何かと戦っていたということくらいで…」
碧風博士の説明を受けて、マリアが申し訳無さそうな口調でそう補足した。
さらに、碧風博士がこう続ける。
「彼女のその断片的な記憶と、後に判明した彼女の身体データが、この世界の麻里ちゃんと完全に一致しているということから、彼女は並行世界の白瀬麻里ちゃんなのではないか、というのが私達の推測なんだよ」
「「「「「並行世界のマリっ!?」」」」」
俺達は揃って驚きの声をあげた。
碧風博士が言うには、マリアを助けた後、碧風博士は彼女を連れて第12魔法都市に帰還し、彼女の友人である緑川博士達に事情を説明したところ、マリアが当時魔法師育成学園中等部に通っていたマリと瓜二つであることに気付いたという(当時から、マリはマジョリティ適性のある魔法師ということで、開発中だった【マジョリティ】システムの候補者として目を付けていたからすぐに気付いたとのこと)。
そこで、秘密裏にマリの身体データや遺伝子サンプルなどを入手して、マリアのものと照合したところ、完全に一致したということだった。
「ほ、本当に…?ちなみにマリアちゃん、今の身長とスリーサイズは…?」
マリがマリアにそう訪ねると、マリアは頬を染めながら、こう答えた。
「えっと…、身長は163cmで、スリーサイズは…、バストが95、ウエストが55、ヒップが82、かな…」
「嘘…、全く同じ…っ!?」
「今の時点でも全く同じデータというのは、かなり驚くべきことだが、白波君を助けた二年前の時点でも白瀬君と全く同じ身体データだったから驚いたよ。
一卵性双生児でもここまで一致することはほぼあり得ないからね」
一卵性双生児の場合、遺伝子情報は全く同じだがその成長具合には多少なりとも誤差は出てくる。
しかし、マリとマリアはそうした誤差も一切無かったというのだ。
「そういうわけだから、行き場の無い彼女を私達が引き取り、面倒を見ることになったわけ!
ただ、白瀬麻里ちゃんが二人もいると紛らわしいから、この世界では白波麻里亜ちゃんっていう別人として生活してもらうことにしてもらったけどね」
「な、なるほど…」
「そんなことが…」
そうして、マリアの面倒を見るついでに、碧風博士は、彼女の乙女石を解析し【ヴァルキリー】システムを完成させたのだという。
未知のシステムを解析するだけでもスゴいのに、そこから新たな乙女石を開発してしまうとは、碧風博士もやはり緑川博士や翠山博士と並ぶ超天才なのは間違い無い(ちなみに、緑川、翠山、碧風の三人を合わせて、〈3G〉、その〈3G〉の開発した最新魔法技術ということで、〈3GMS〉と呼ぶらしい)。
だが、並行世界の技術を使ったシステムだと発表するわけにはいかないので、表向きには古代科学技術と最新魔法技術を用いた、非魔法師による最新都市防衛システムとして四月の12魔高入学式でサプライズ発表する予定だったという。
「入学式でのサプライズ発表って、じゃあ、ユウナ達も魔高に通うってことか!?」
「うん、ビックリした?」
「いや、ビックリしたっていうか…、いつからそんな話になっとったと?」
俺がユウナに尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「えっとね、話自体は去年くらいからあったんやけど…」
「去年!?」
「うん、ほら、わたし、色んな高校からスポーツ特定枠でスカウトとか来とったやろ?その中に、戦乙女になりませんか?っていうスカウトもあったとよ」
「ええっ!?ちょっ、その話初耳なんやけど!?」
「それはそうだよ、戦乙女の件はまだ極秘だったからね。だから、麻里亜ちゃん以外のメンバーを集めるために、こちらで目欲しい中学生をピックアップして極秘裏にスカウトをかけていたんだ!」
スカウト基準は主に運動神経の良さだったり、頭の回転の早さだったりと様々で、まずは世間に戦乙女のことを知ってもらった上で、来年度以降、本格的に非魔法師の生徒の募集をかける予定だという。
ちなみに、春休み中に建設された新校舎は、新設される戦乙女科のための校舎だったとのこと。
閑話休題。
「だけど、郁凪ちゃんには一度断られたんだよね」
「はい、戦乙女になったら、マサトとは同じ高校に通えなくなるけん、って一旦はお断りしたっちゃけど、マサトが魔法少女になったって聞いて…、それならわたしも戦乙女になろう!って」
「なるほど…、そういうことやったんか…」
そこで、俺はようやく聞きたかったユウナが何故ここにいるかの真相を知った。
そう言えば、俺が魔高に通うって聞いたユウナはこんなことを言ってたな…
『実はね、マサトの話を聞いて、わたしも覚悟決めたけん』
『わたしもわたしの道を進むってことで!お互いに頑張ろうね!』
あれは、こういうことだったんだな…
「さて、気になる話はまだまだあるだろうが、一旦この場は解散としよう。
私達はこの後用事があるので、ここで失礼させてもらうが、君達の方は、各自自由にしてくれたまえ!
緋崎君と白波君も、本当だったら入学式以降での顔合わせとする予定だったが、こうなった以上は皆と友好を深めてくれたまえ!」
「では、失礼しますね」
「まったねー!」
そう言って、三人の博士達と【雪月花】先輩達は校舎の方へと帰っていった。
残された俺達は、とりあえず寮に戻ることにしてそこで色々と話をすることにしたのだった。




