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新世代魔法少女オレガ・マギカ〜魔法師になれなかった俺ですが、何故か魔法少女になって幼馴染の魔法少女達とイチャイチャしちゃってます〜  作者: 藤本零二
第一章〜“魔法少女”になった少年〜

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第11話「マリとマリア」


 12魔高、一年生の女子寮“桜寮”へと戻る道中で、サンゴとササラにはユウナのことを、ユウナとマリアにはサンゴとササラのことを紹介したりしながら、俺達はこんな話をしていた。



「そう言えば、ユウナちゃん達もここの女子寮に入寮することになるの?」



 マリがそう尋ねると、ユウナは「うん」と言ってから、こう続けた。



「というか、もうすでに引っ越しは完了してるんやけどね」


「えっ!?」


「い、いつの間に…!?」



 どうやら、ユウナはすでに507号室に、マリアは506号室に引っ越してきたらしい。

 というか、マリアは俺の隣の部屋じゃないか!



「実は、昨日の時点で引っ越してきとったんよね。

 ただ、わたし達(“戦乙女”)のことは入学式までのサプライズの予定やったけん、他の人には見つからんようにって、寮に誰もいないタイミングを見計らって荷物を運び入れたりしてね」


「あ…!?まさか、昨日の寮の点検って…、」


「そういうことやったん!?」



 実は、昨日の昼間に、“桜寮”の施設点検を行うとかで、すでに寮に住んでいた寮生達は、昼から夕方までの間、寮から出るよう指示があったのだ。

 まさか、その間にユウナ達の引っ越しが行われていたなんて…



「なるほどね。

 それで、本来ならば入学式までは隠れて過ごす予定だったと、そういうわけかい?」


「まぁ、そんな感じやね」


「それが、なんで今日の訓練に乱入することになったと?オレ達からすると助かったけん良かったけど」



 ユウトの質問に、ユウナがこう答えた。



「ああ、それはね。

 碧風みどりかぜ先生の気紛れというか…」


 

 ユウナの話によると、今日、俺達の実戦訓練を行うと聞いた碧風みどりかぜ博士が、興味本位で、



『黙って見学に行こう!』



 と、二人を誘って、離れたところから俺達の様子を見ていたところ、予期しなかったイカゲッソーが出現したのを確認して、これは“3GMS”の連携を実戦で試すチャンス!として、急遽、ユウナ達の出動を認めたらしい。



「まぁ、わたしはマリアちゃんと違って、実戦経験は皆無やったけん、ちょうどいい訓練にはなったけどね」


「そっか、マリアは元の世界で実際に戦ってた、って言ってたもんね?」



 フレンダの問いかけに、マリアは曖昧な表情を浮かべながら、こう答えた。



「うん…、と言っても、戦った記憶自体があるわけじゃなくて…、何ていうのかな?戦ってたことを、身体が覚えている、っていうか…」


「所謂、“意味記憶”みたいな感じやない?」



 と、マリが言った。それに対して、ユウトが頭に疑問符を浮かべながら尋ねた。



なん、その“意味記憶”って?」


「“意味記憶”ってのは、ユウちゃんでも分かるようにざっくり説明すると、学習によって得た知識とかの記憶のこと。

 例えば、私達の話す言語とか、お箸の使い方とか、『地球は丸い』みたいな知識のことで、人の脳に紐付けられた記憶だから、例え記憶喪失になったところで、忘れることはほとんどない記憶のこと」


「あ〜…、確かに!記憶喪失でも、マリアは普通にオレらと同じ日本語しゃべっとーもんな!」


「そういうこと。

 対して、人の思い出なんかに関わる事柄は“エピソード記憶”。『この日、誰々と何かをした』みたいな記憶のことね」


「つまり、マリちゃんが言いたいのは、マリアちゃんは“戦乙女ヴァルキリー”としての戦い方なんかは“意味記憶”として覚えとーけど、具体的に何と戦っていたかなんかの“エピソード記憶”は覚えとらん、ってことよね?」



 マチの説明に、マリは「そういうこと」と頷いた。

 ユウトは一度納得したような表情を浮かべると、「あ!それよりさ!」と話を切り替えた。



「二人の衣装もカッコよかったけど、武器もヤバかったよな!?」


「“戦装束ヴァルキリアーマー”と“戦装具ヴァルキリアーム”のことね?」



 興奮するユウトに、ユウナが冷静に、それぞれの正式名称を答えた。



「そうそう!それそれ!」


「ボクもそれ気になってたよ!

 二人とも、剣と銃みたいなのを入れ替えて使ってたよね?」



 フレンダの質問に、ユウナとマリアがそれぞれ答えた。



「うん、わたしの“戦装具ヴァルキリアーム”はソード小型浮遊砲口ファンネルで、」


「私のは、機銃マシンガンカタナだよ」


「あれって、同時に使う事は出来るん?」


「ううん、同時使用は難しいかな?やって出来ないことは無いやろうけど、結構神経使うけんね…」


「あ、そんな感じなんだ」


「その“戦装具ヴァルキリアーム”ってのは、“戦乙女ヴァルキリー”ごとに違うと?」



 と、今度は俺が気になったことを尋ねると、マリアが(何故か少し頬を染めながら)答えた。



「あ、うん…、そうだね。

 “乙女石ヴァルキリーアイ”の設計時に、本人の一番使いやすい武器のイメージを登録して、それを反映させる感じかな?」


「へー!じゃあ、二人の“乙女石ヴァルキリーアイ”はオーダーメイドってこと?」


「そんな感じ。一応、碧風みどりかぜ先生は、あらかじめ“戦装具ヴァルキリアーム”が登録された練習用の“乙女石ヴァルキリーアイ”、“汎用ジェネリック乙女石ヴァルキリーアイ”も作ってて、今後“戦乙女ヴァルキリー”科に生徒が増えれば、まずはそれで練習して、やがてオリジナルの“乙女石ヴァルキリーアイ”を持てるようになる、って仕組みを考えてるみたいだけど」



 そんな話をしている内に、目の前に俺達の寮、“桜寮”が見えてきた。


 と、そこで、ユウナが思い出したようにこう言った。



「あ!そうそう!実は、“戦乙女ヴァルキリー”の子が他にも、もう一人引っ越してきとるんよ!」


「え?そうなん?」


「うん!“戦乙女ヴァルキリー”科の第一期生は他にもおるんやけど、手続きとかの関係で、わたし達三人だけが先に寮に入ることになって、それで、三人だけで昨日引っ越してきたんよね」


「それで、今日のマサト君達の訓練も三人で見学に行こうって、碧風みどりかぜ博士に誘われてたんだけど、その子だけ連絡が返って来なくて…」


碧風みどりかぜ博士が言うには『いつも通り寝ているんだろう。彼女は寝坊助さんだからね』って…」


「…待ってくれ、なんとなく予想はしていたが、」


「その三人目と言うのは……、」



 サンゴとササラには、その三人目というのに心当たりがあるようだった。


 …かく言う俺達も、確証は無かったが、なんとなーく、その三人目の正体、というか身分に見当が付いていた。



 緑川博士とその妹の“魔法少女”サンゴ、翠山みどりやま博士とその妹の“魔砲少女”ササラ、となると、碧風みどりかぜ博士にも“戦乙女ヴァルキリー”の妹がいるのではないか……?

 


 果たして、その予想は正しく、俺達が“桜寮”に入るや否や、階段を駆け降りてくる一人の少女と出会でくわした。



「あ゛ぁあああっ!!寝過ぎたぁあああああっ!!“魔法少女”のサンゴちゃんと“魔砲少女”のササラちゃんの勇姿をこの目に収めるチャンスだったのにぃいいいいっ!!」


「「やっぱり………」」


「…って、サンゴちゃんにササラちゃん!!ひっさしぶりーっ!!元気してたー!?…って、そんな場合じゃないっ!!急いで海岸に行かなきゃ、“魔法少女”サンゴちゃんと“魔砲少女”ササラちゃんを見られなくなっちゃうっ!!」


「落ち着きなよ、サクラ……」


「わたくし達は目の前にいますわよ?」


「へ?あ、そっか!ってことは、もう訓練終わっちゃったの!?そんなーーっ!!」



 サンゴに“サクラ”と呼ばれたその少女は、「ガーン!!」という文字が背景に見えそうな、漫画的大袈裟なリアクションで、ショックを受けていた。


 そんな彼女を、サンゴが俺達に紹介してくれた。



「…紹介するよ、彼女はボク達の幼馴染、碧風みどりかぜ博士の妹の、」


碧風咲楽みどりかぜさくらですっ!!よろしくお願いしますっ!!」



 と、サクラが俺達に向かって、腰を90度曲げてお辞儀をすると、後頭部から下がっていたポニーテールが前にくるんと垂れ下がるのだった。

 




 その後、訓練にユウナ達も“戦乙女ヴァルキリー”として参加したことなどを聞いたサクラは、



『私もサンゴちゃんとササラちゃんと一緒に戦いたかったー!!よし!!じゃあ、今から特訓行こっ!一緒に戦おっ!!というか二人の変身した姿見せてっ!!』



 と、駄々をこね始めた。

 そんなサクラを、サンゴとササラが引きずるようにして連れて行き、サクラの部屋である518号室へと入って行った。



 残された俺達は、誰かの部屋に集まって皆で話そうということになったのだが、そこへユウトとフレンダとユウナが待ったをかけた。



「いきなり大勢で集まって話しても、マリアが困るっちゃろ」


「うんうん、マリアはボク達とは初対面だし、色々気を使うだろうからね」


「やけん、まずはマサトやマリちゃん達とゆっくり話して慣れて欲しいっちゃ」



 と、そういうことを言われたので、俺とマチとマリ、そしてマリアの四人だけで、俺の部屋に集まって話をすることになった。





 ユウト達と別れて、俺の部屋に集まることになった俺とマチとマリ、そしてマリアの四人。


 部屋に入るなり、勝手知ったる我が家とばかりに、マチがキッチンへと足を向けた。



「じゃあ、私コーヒー淹れてくるけど、マリアちゃんもコーヒーで大丈夫?」


「あ、うん、お願いしていいかな?」


「りょうかーい!」



 そう言って、四人分のコーヒーの準備を始めるマチ。

 その間、俺達はリビングのソファに座って待つことにした。



 マリとマリアは、俺とテーブルを挟んで向かい側のソファに腰を下ろした。

 こうして、改めて二人が並んでいるところを見ると、本当にそっくりだ。

 唯一の違いはサイドテールの位置で、マリが右側頭部に、マリアが左側頭部にしているくらいだ。

 これも同じ側にしてしまえば、全く見分けが付かなくなる可能性があるな…

 まぁ、並行世界パラレルワールドの同一人物ということなら当たり前のことかもしれないが。



「ちょっと、マサト君、あんまじろじろ見られると恥ずいっちゃけど?ね?マリアちゃん?」


「え…、あ…、えっと……、」



 マリがニヤニヤしながらマリアに同意を求めるが、当のマリアは緊張しているのか、頬を染めながらもじもじとしている。


 このやり取りから、なんとなくだが二人は性格にも少し違いがあるようだと気付いた。

 マリは少しSっ気があり、よく俺やユウトをイジってくるタイプだが、マリアは奥手で、どちらかと言うとイジられるタイプのようだ。


 そういう意味では、マリアはマリの双子の妹であるマミとも違うんだなと感じた。

 マミはドS…、とまではいかないが、かなりのSっ気があるタイプで、マリすらもイジられていたからな…



「ふふふ♪でも、本当に不思議な感じ。マミちゃんとも違う、もう一人の私が目の前にいるなんて…、ふふ♪」



 と、何を思ったか、マリが突然マリアに抱きついたのだ!



「きゃっ!?ちょっ、マリちゃんっ!?」


「おほぉっ♥これが私の感触…っ♥おっぱい柔らか…っ!それにめっちゃいい匂い…っ!!」


「あんっ♥ちょっ、マリちゃ…っ、やぁんっ♥」


「ここか?ここがえーんか?うりうり〜♥」


「んん…っ♥ぁん…っ♥」



 突然目の前で百合百合な展開が始まり、目のやり場に困っていると、



「こら、マリアちゃんが困っとーやん!」


「あ痛っ!?」



 コーヒーを淹れ終えたマチが、お盆を持っていない方の手で、マリの頭を軽く小突いてマリの奇行を止めた。



「もー、ちょっとした乙女ジョーク、女の子同士のスキンシップやーん!」


「はいはい。マリアちゃんも嫌なら嫌ってちゃんと突っぱねないかんよ?」


「え…、あ…、えっと…、別に嫌ってわけじゃ…、ない、よ…?」



 頬を染めながらそんな風に返したマリア。

 …どうやら、マリアは少しMっ気があるようだ。


 マチもそのことに薄っすら勘付いたようで、それ以上のことは追求せず、俺達の前にコーヒーを配り、最後にテーブルの中央に、ミルクの入った小瓶と小分けされた袋入の砂糖の入った小瓶を置くと、俺の隣に腰掛けた。



「甘さは各自調整してね?」


「はーい」


「うん、ありがとう、マチちゃん」



 俺以外の三人は、それぞれ砂糖とミルクに手を出し、コーヒーに投入していった。

 マリとマリアは、砂糖を一袋とミルクをほんの少しだけ垂らし、マチは、砂糖を二袋入れ、コーヒーが黒から茶色になる程にミルクを大量に投入した。

 ちなみに俺は甘党ではあるが、基本コーヒーはブラックで飲む(ただし、缶コーヒーやペットボトルのコーヒーは必ず微糖以上の甘さが足されたものを飲む。何故か缶コーヒー系の無糖だけは苦手なのだ)。



 そうして、しばらくマチの淹れてくれたコーヒーを味わう俺達。


 ある程度落ち着いたところで、最初にマリアが口を開いた。



「えっと…、そういえば、さっきマリちゃん、『マミちゃんとも違う、もう一人の私』って言ってたけど、その、マミちゃんって言うのは…?」


「あ、うん、私の双子の妹なんやけどね、10年前から行方不明なんよ」


「それって…、“魔女教”による“幼児集団誘拐事件”で…?」


「あ、マリアちゃんも知っとーと、その事件?」


「さすがに詳しくは知らないけど、碧風みどりかぜ先生から、この世界の常識とか歴史とか、ここ数年に起きた事件のことは聞いてたから…」


「あ、そうなんやね」



 10年前、“魔女教”を名乗る、かつて世界を滅ぼしかけ、今もなお人類の男を滅ぼそうとしている魔術的“呪い”をかけた【魔女】を信奉する狂信者集団による、“幼児集団誘拐事件”。


 人類の救済を掲げていた【魔女】の意思を継ぎ、かつて滅ぼされた【魔女】に代わって人類を救済するという大義名分を掲げた“魔女教”は、“魔法師”の素質のある子供達をさらい、【魔女】に代わる次世代の【魔女】を誕生させるための実験を行おうとしていた。

 その誘拐事件に、俺とマリとマミ、そしてユウトとフレンダは巻き込まれ、俺達を救助するために“魔女教”の“魔法師”達と戦った俺達の両親達は殉職し、そして、マミだけは、“魔女教”の残党達と共に姿を消し、未だ行方不明となったままである…


 だから、最初ヴァルキリーパールとして現れたマリアを見た時は、マミが帰って来たのではないかと、誰もが思ったのだが、そうでは無かったことに、がっかりしなかったかと言えば嘘になる。



「でも、そういう意味やと、マリアちゃんも、元の世界では行方不明扱い、ってことになっとるハズよね、きっと…」


「あ~…、うん、多分、そう、なんだと思う。ただ、いかんせん行方不明になった本人って言うのと、そもそも元の世界の記憶が無いから、なんかそんな風に思えないんだけどね」


「というか、今更やけど、“マリア”ちゃんって呼び方で良かった?

 並行世界パラレルワールドのマリちゃんってことなら、やっぱ本名は“白瀬麻里しらせまり”のハズよね?それなら…」


「ううん、私のことは“マリア”でいいよ。この世界での私は“白波麻里亜しらなみまりあ”だから」



 マチの気遣いに、マリアは笑顔でそう答えた。

 無理をしているような様子は無く、本心から“マリア”と呼んで欲しいと言うので、俺達は今後遠慮なく、そう呼ばせて貰うことにする。



「ね、ちなみにやけど、他になんか覚えとーこととか無いと?家族のこととか、恋人のこととか?」



 と、少し暗くなった雰囲気を変えるためか、マリがそんな事を言い出した。

 対して、マリアは一瞬だけ俺の方へ視線を向けた後、「ん〜…」としばらく考え込んでから、こう答えた。



「はっきりとは覚えてないんだけど…、マリちゃんと直接会って、なんとなく、私にも姉妹がいたような…、そんな気がしてるんだよね」


「あ、やっぱりマリアちゃんにも双子の妹が?」


「んー…、どうかな…?でも、よく甘えてた気がするから…、お姉ちゃんだったのかも?」


「へ〜…、その辺はこっちの世界と少し違うとかな?」


「あとは…、“ユウちゃん”と“フレちゃん”って響きに懐かしさを感じたから…、きっと、私のいた世界にもユウトちゃんとフレンダちゃんはいたんだと思う」


「あ~…、なんかおりそうやな、あの二人も」


「あははは!なんとなく分かる!すっごくいそー!あははは!」



 俺の言葉に、何がそんなにツボったのか、マリが腹を抱えて笑った。



「じゃあじゃあ、私は!?」



 マチが食い気味にそう尋ねると、



「ん〜…、マチちゃんは、残念ながらいなかったような…?」


「何でよ!?」


「あははははは!!」



 というコントのような流れに、マリはさらに腹を抱えて笑い転げていた。

 しばらく笑い転げた後、落ち着いたマリが、今度はこう尋ねた。



「じゃあ、マサト君はいた?」


「え…っ!?えっと……、それは〜……」



 途端にマリアは、顔を真っ赤にして戸惑い始めた。



「おやおや〜?この反応は……♥」


「なるほど、なるほど…♥」


「いや、何がなるほどなん?」



 マリとマチが、訳知り顔でニヤニヤと俺の方を見てくるが、一体何がなるほどなんだ…?



「なら、なんとか元の世界に帰らんとね!」


「ちなみに、元の世界に帰る方法とかは分かっとーと?」



 マチの質問に、マリアは首を縦に振って頷き、こう続けた。



「うん、碧風みどりかぜ博士が言うには、魔法技術を使う事で、理論上は『異世界転移』は可能だ、って」


「「え、マジで!?」」


「なら、何で元の世界に帰らんと!?」



 俺とマチが同時に驚き、マリが当然の疑問を口にした。



「うん、えっとね、『異世界転移』は確かに可能だけど、そもそも転移するための世界の座標、つまりは、無数にある並行世界パラレルワールドの内の、どの並行世界パラレルワールドから私がやって来たのか分からないから、その座標の指定が出来ないのが問題なんだって」



 要するに、記憶喪失のマリアにとって、元々の帰る世界が何処か分からないから、帰りたくても帰れないという、至極最もな答えだった。



「というか、『異世界転移』自体は可能ということにも驚きなんやけど…」


「まぁ、マリアちゃんが転移してきとー時点で不可能や無いのは分かるっちゃけど…」


「私も詳しくは分からないけど、要は『転移』魔法の応用みたいなものらしいよ?

 あ、あと、“魔法都市”で使用する一日分くらいの莫大なマナが必要となるから、理論上は可能でも、今の魔法技術レベルでは難しいから、どちらにしても元の世界に戻るのは現時点では厳しい、って言われたかな?」



 『異世界転移』するのに、“魔法都市”一日分のマナを消費するとなると、確かに不可能では無くとも現実的には難しいだろうな…



「そっか…」


「あ、でも、元の世界に戻ることを諦めたわけじゃないし、こっちの世界も、皆優しくて居心地いいから、理想としては、どちらの世界も自由に行き来出来るような技術が出来たらいいかな〜って思ってるの」


「お〜!それはまた欲張りな♪」


「でも、確かにそうなると楽しそうやね!あと、並行世界パラレルワールドのお兄ちゃんとやらも気になるし…」


「そいや、並行世界パラレルワールドのマサト君と、マチちゃんって血縁的にはどうなるんやろ?結婚出来るんかな?」


「えぇっ!?そ、それは困るよっ!!」


「おやおや〜?何が困ると、マリアちゃ〜ん?」


「も、もう…っ!からかわないでよ、マリちゃんっ!!」


「その感じやともう確定やね!

 マリアちゃんと並行世界パラレルワールドのマサト君は、」


「わー!!わー!!それ以上は言わないでーっ!!」



 と、女子達がわいわいと女子トークに興じ始めたので、俺は邪魔をしないように、そっとソファ駆ら立ち上がり、そのままリビングを出て、部屋の外に出て行くのだった。





 部屋を出た俺は、とりあえず一階の談話室辺りに行って時間を潰そうと、廊下を歩き、階段の方へと向かっていると、背後の扉が開く音がし、同時にユウトの叫び声が聞こえてきた。



「あっ!?ちょ、待ちぃっ!!話を聞けっちゃっ!!」



 これはただ事では無いと、俺が振り向いた直後、俺の目の前にパンツが迫っていた。



「え?」



 と、思った瞬間には、俺はそのパンツから伸びた長くて細い、それでいてよく鍛えられた筋肉の付いた綺麗な足で、顔面を蹴られていた。



「ぶぎゃらっ!?」



 見事な飛び蹴りを食らった俺は、階段側の廊下の壁に、しこたま背中を打ち付けた。



「ああっ!?マサト!?大丈夫かっ!?」



 そこへ、501号室を飛び出したユウトが、廊下の端から端までを駆けて、俺を助け起こしてくれた。



「あ痛たた…、一体何が……?」



 ユウトに支えられながら、なんとか立ち上がると、俺の目の前に、腕を組んで仁王立ちした、超絶美爆乳で、黒髪ロングヘアの美少女が立っていた。


 そして、俺へのあからさまな敵意を隠しもせず、俺を指差しながらこう言った。



「アタイの名前は紅垣悠貴あかがきゆうき!“魔砲少女”、“マギキュリィツヴァイ”だっ!!

 てめぇがユウトをたぶらかす黒霧優人くろぎりまさとだなっ!?」


「え…?あ、そ、そうやけど……?」


黒霧優人くろぎりまさとっ!!アタイはお前を認めないっ!!ユウトのためにも、この学園から出て行けっ!!」

 


 どうやら、俺の“魔法少女”としての学園生活は一筋縄では行かないらしい………

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