第9話「戦乙女」
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「え…、ま、マリ…!?」
ユリアと共に現れた、マリと瓜二つの顔をした白いメカニカルアーマーの少女に驚いたのは俺だけではなかった。
「え!?ま、マリちゃん!?」
「えぇ!?でも私はここに…っ!」
俺の隣にやって来た“魔砲少女”マギキュリィアインスことマチと、“魔法少女”マジョリティホワイトことマリも、目の前の少女を見て信じられないような顔をしていた。
「マリやないなら、まさか…っ!?」
「それにその姿…、って、いや、今はそれよりあのイカの魔獣を何とかしないと!」
マジョリティレッドことユウトが言いかけたセリフのその先は、俺達皆が思っていることだろう。
彼女がマリでないなら、目の前の少女の正体は、10年前に行方不明になったハズのマリの双子の妹の…!?
だが、それよりも今はマジョリティブルーことフレンダの言う通り、目の前に現れた魔獣、“イカゲッソー”を倒すのが先決だ!
『ギュリュリュルルラァアアアアアアアッ!!』
魔物である鎧イカと違い、魔獣であるイカゲッソーは、その再生力の高さから、先程ユリアとマリにそっくりな少女が切断した足は、もうすでに再生しつつあった。
しかし、足の再生中は他の攻撃などといった行動が出来ないらしく、海面付近で大人しくしている。
と、そこへ“マギアコンパクト”から、先程も聞こえた、聞き慣れない女性の声が聞こえてきた。
『あー、あー!聞こえるかい、“魔法少女”の皆?』
「あ、はい、聞こえてますけど…」
代表してホワイトが応答したが、その声には少し警戒感が含まれていた。
そんなマリの心情に構わず、声の主は声の調子を変えずに言葉を続けた。
『私は瑠璃ちゃんと瑠衣ちゃんの親友、碧風恵璃博士!そこに駆け付けた二人の纏う新型武装、“科学式魔法武装兵器【ヴァルキリー】システム”、通称“戦乙女”を開発した者だよ!』
「え、ヴァ、“戦乙女”…?」
『うん、君達の知り合いである緋崎郁凪ちゃんが“ヴァルキリールビー”で、もう一人の女の子が“ヴァルキリーパール”だよ。
それはともかく、彼女達“戦乙女”の試運転も兼ねて、改めて君達にはイカゲッソーの討伐を行ってもらうよ!何、心配しなくとも、いざという時には“雪月花”ちゃん達がなんとかしてくれるよ、ね!』
そんな碧風博士の言葉に、緑川博士と翠山博士がこう続けた。
『…というわけだ、諸君!恵璃の開発した【ヴァルキリー】システムについては、入学式でのサプライズとする予定だったんだが、まぁ、いいさ。
君達も色々聞きたいことはあるだろうが、全て後回しだ、まずは目の前の敵に集中してくれたまえ!』
『心配はいりませんわ、恵璃の言う通り、“雪月花”の皆さんも控えてますし、“戦乙女”のお二人の助力があれば、皆さんだけでもイカゲッソーは倒せるハズですから』
「りょ、了解しました!」
『よし、じゃあ、イカゲッソーが足を再生していて動けない今の内に作戦を伝える!
まずは、マギキュリィアインスとマギキュリィゼロの二人は、“マギアロッド”の“核”索敵モードでイカゲッソーの“核”を索敵してくれたまえ。
その間、マジョリティホワイト達と“戦乙女”の二人はイカゲッソーの注意を引き付けておいてくれ!
そしてイカゲッソーの“核”の位置が分かれば、そこをアインス達が攻撃し、“核”を破壊出来ればOK、もし“核”まで攻撃が届かなかった場合は、“戦乙女”の二人がトドメを刺すんだ!』
「「「「「了解っ!」」」」」
こうして、俺達の魔生物討伐実戦訓練は、魔獣討伐の実戦訓練へとシフトするのだった。
*
“核”というのは、魔獣にのみ存在する組織で、魔獣を構成する中心であり、同時に弱点でもある。
そもそもこの世界における魔獣は、マナの溜まり場である“マナプール”から発生するのだが、この時、マナに含まれる“魔力元素”の内の一つが“核”となり、残りの“魔力元素”は魔力としては使われない代わりに、魔獣を構成する肉体として構築され、誕生する。
そして、この“核”があることで、魔獣は魔術を扱うことが出来るのだ。
言うならば、“魔法師”が魔法を使う際に使用する“魔石”が、魔獣でいう“核”にあたるわけだ。
ちなみにイカゲッソーは、水の“魔力元素”を“核”とするため、水の魔術を扱える魔獣、ということになる。
そして、この“核”を破壊することで、魔獣を倒すことが出来るわけだが、厄介なことに“核”の場所は、種族ごとではなく、各個体ごとに異なる上に、長く生きた魔獣などは、“核”が増殖し、複数の“核”を持つ個体もいる。
なので、これまでの“戦闘魔法師”の戦い方では、とにかく攻撃して、外皮を削っていき、内側に隠された“核”を発見し、そこを的確に狙い撃って破壊する、というような戦術を取っていたらしい。
だが、翠山博士の開発した【マギキュリィ】システム、“魔砲少女”の持つデバイスには、“核”を索敵するモードが搭載されている。
「「モードチェンジ!“核”索敵モード!」」
『『CORE SEARCH MODE ACTIVATE.』』
アインスとゼロが、“マギアロッド”の柄の部分にあるボタンを押すと、二人の右目の部分にモノクル型のデバイス、“核サーチアイ”が装着される。
すると、“核サーチアイ”にイカゲッソーの像が映し出され、イカゲッソーの“核”を索敵し始めた。
そうこうしている内に、イカゲッソーの切られた足は全て元通りに再生し、再び俺達に向かって足を伸ばしてきた。
『ギュリュリュゥウウウウッ!!』
「皆っ!アインスとゼロを守るよっ!」
「「「「「了解っ!」」」」」
“核”索敵モードの“魔砲少女”は、その間他の魔砲が使えず、無防備な状態となるため、“核”が見つかるまでは、俺達で敵の注意を引いておく必要がある。
「「『サンダーカッター』!!」」
「『ファイアボゥル』っ!!」
「『アクアアロー』っ!!」
「『シャドゥカッター』!」
ホワイトとグリーンの雷の魔法と、レッドの炎の魔法、ブルーの水の魔法、そして俺の闇の魔法がイカゲッソーに炸裂する。
俺の闇の魔法は、まだまだ威力調整や命中率に難があるのだが、的の大きいイカゲッソー相手ならば、多少狙いが逸れても外すことは無いし、威力に関しても出し惜しみをする必要は無い。
『ギュララリィイイイイイッ!?!?』
イカゲッソーの全身から、青色の体液が噴き出すが、致命傷には至っていない。
「“戦装具・小型浮遊砲口”起動っ!」
「“戦装具・機銃”起動っ!」
すると、先程まで巨大な剣を持っていたユウナことヴァルキリールビーの周囲に、レーザー砲を搭載した小型ビットが複数現れ、先程までは刀を持っていたヴァルキリーパールの右手に一丁の機銃が現れた。
どうやら、剣や刀も含めて、彼女達の持つそれらの武器のことを“戦装具”と呼ぶらしい。
「「発射っ!!」」
二人が叫ぶと、ルビーの小型浮遊砲口から赤いレーザー光が、パールの機銃から連射弾が、イカゲッソーへと向けて一斉に放たれた。
『ギュラリュラリュルルルルゥウウウウウッ!?!?』
それらの攻撃を受けて、さらなるダメージを受けたイカゲッソーは、攻撃を回避しようと海中深くへと潜り込もうとしていた。
「させないよ!ホワイト!」
「うん!」
「「『アクアウィップ』っ!」」
だが、海中深くへ潜り込む前に、ブルーとホワイトが水の鞭でイカゲッソーの足をまとめて結ぶようにして掴んだ。
「いっせーのー!」
「せぃっ!!」
『ギュリリリリリィイイイッ!?』
そして、二人はありったけの力でイカゲッソーを逆さ向きに持ち上げた。
つまり今、イカゲッソーは、全ての足をホワイトとブルーの『アクアウィップ』で結ばれた状態で、足を上にした状態で持ち上げられているわけだ。
「水中に逃げようたってそうはいかんってこっちゃ!『ファイアパンチ』っ!!」
『ギュリリリィイイイッ!!』
持ち上げられたイカゲッソーの頭部に向かって、右手に炎を纏わせたレッドがパンチを繰り出そうとするが、イカゲッソーは水の魔術である『アクアシールド』を張って、レッドのパンチを防ごうとする。
「“戦装具・剣”起動!」
すると、今度はルビーが“戦武具”を小型浮遊砲口から巨大な剣に換装した。
「はぁああああああっ!!」
そして、それを両手で持って振り下ろし、イカゲッソーの張った『アクアシールド』を斬り裂いた。
『ギュルリッ!?』
「今だよ、レッドっ!!」
「サンキュー、ルビーっ!!せやぁあああああっ!!」
斬り裂かれた水の盾の間から、レッドがイカゲッソーの懐に飛び込むと、イカゲッソーの頭部めがけて『ファイアパンチ』を叩き込んだ。
『ギリリリリィイイイイイーッ!?』
頭部を下にしたイカゲッソーが、炎に包まれながら叫び声をあげた。
と、そのタイミングで、アインスとゼロの“核サーチアイ”に映し出されたイカゲッソーの像に、“核”の位置を示す赤い印が浮かび上がった。
「皆さん!“核”の位置が分かりましたわ!イカゲッソーの頭の一番上、三角形の頂点の位置にありますわ!」
「了解した!じゃあ、ボク達で外皮を削るから、ゼロ達は魔砲の準備を!」
ゼロの報告を受けたグリーンが、改めてゼロとアインスに指示を出す。
「任されましたわ!」
「了解!」
「「モードチェンジ!カノンモード!」」
『『CANON MODE ACTIVATE.』』
二人の持つ“マギアロッド”がガチャンガチャン!という機械音を立てながら、先端が鋭利な槍状へと変化する。
「「『バスターキャノン・フルバースト』っ!」」
『『BUSTER CANON BURST CHARGE.』』
そして、“マギアロッド”の先端に大量のマナが集束していく。
『ギュリリリュゥウウウウウウッ!!』
自身のピンチを悟ったのか、イカゲッソーが、口から『アクアアロー』をイカ墨のごとく大量に放って攻撃してくる。
「ゼロとアインスの邪魔はさせないよ!『サンダーアロー』っ!!」
「“戦装具・刀”起動!『水龍の嘶き』っ!!」
グリーンの雷の矢と、パールの居合斬りのような攻撃が、イカゲッソーの放った水の矢をことごとく撃ち落としていく。
そんな三者の攻撃をかいくぐりながら、俺はイカゲッソーに接近し、“核”があるという頭のてっぺんへと近付き、魔法を放った。
命中精度に難ありだが、ここまで近付けば外すことは無い!
「はぁああああっ!!『シャドゥボゥル』っ!!」
『ギュララリリリュゥウウウウウウッ!?!?』
俺の放った闇の魔法は、イカゲッソーの頭部の外皮を吹き飛ばし、中に隠されていた青い塊、“核”を露出させた。
『『FULL CHARGE.』』
そして、ちょうどそのタイミングで、アインスとゼロの“マギアロッド”から、魔砲に必要なマナの収束が完了したことを告げる機械音声が聞こえてきた。
「準備出来たよ!皆、離れてっ!」
アインスの言葉で、イカゲッソーを捕まえているホワイトとブルー以外のメンバーが、その場から距離を取った。
「いきますわよっ!!」
「「『バスターキャノン・フルバースト』!ファイヤーッ!」」
『『BUSTER CANON FIRE!』』
次の瞬間、ズドンッ!!という空間を震わせるような振動と共に、収束された魔力の塊が一直線に放出され、イカゲッソーの露出した“核”へと向かっていく!
『ギュリリリリィイイイイ……ッ!!』
二人の魔砲で“核”を貫かれたイカゲッソーは、断末魔の悲鳴をあげながら、消滅していった。
ちなみに、ブルーとホワイトは魔砲が当たる直前に、その場から退避していたので、無事だ。
『ミッションコンプリート!
よくやったぞ、諸君っ!!初めての“3GMS”による共闘ミッションでこれだけの成果を上げるとはっ!!実に素晴らしいっ!!』
そこへ緑川博士からの通信が入った。
何やら聞き慣れない単語が耳に入ったが、俺はそれよりも気になっていたことを確認するために、ヴァルキリーパールの元へと駆け付けた(本当はヴァルキリールビーとなっているユウナとも話をしたかったのだが、ユウナもここは空気を読んでくれて、視線で「行け」と言ってくれていた)。
俺と同じように、マリ、マチ、ユウト、フレンダも、ヴァルキリーパールの周りへと集まっていた。
「あ…、えっと…、な、何でしょうか…?」
突然俺達に囲まれて、戸惑っている様子のヴァルキリーパール。
その顔は、見れば見るほどマリとそっくりで、やはり行方不明となっているマリの双子の妹、マミなのではないかと思ったが、彼女がマミだとすると、俺達幼馴染とおよそ10年ぶりに再会したというのに、この反応はおかしい…
「えっと…、あなた、名前は…?マミちゃんじゃ、ないの…?」
マリの質問に、ヴァルキリーパールはこう答えた。
「えっと…、私の名前は白波麻里亜って言います」
「白波、」
「麻里亜…」
彼女の名前が白瀬麻美ではなかったことに、少しショックを受ける俺達だったが、彼女はさらにこう続けた。
「あ、でも、この名前は碧風博士が付けてくれた名前で、その…、私、記憶喪失で、本当の名前とか覚えてないんです…」
「「「「「ええっ!?」」」」」




