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3章 青の勇者 ゴーヴェン


 ◆・◆・◆



挿絵(By みてみん)


 俺は赤の勇者、ブルーム。


 腕試しのつもりで黒の勇者カインドに挑んだら返り討ちに遭ってしまった。


 だが、負けたのに俺はワクワクしていた。


 こいつと旅をすれば強いやつと戦えて楽しいだろうって、そんな軽い気持ちで付いていったんだ。


 出会いは冷ややかで、鋼のように無機質だった。


 青い鎧に身を包んだ男――ゴーヴェン=ドラッグ=ウェストフィールド。


 鋭く冷たい黒髪に、不動の意志を宿したその眼差し。


 彼はただ、じっと俺たちを見据えていた。


「おまえたち、この先の魔王城に行くのか? 悪いことは言わない、引き返せ」


「なんでだよ」


「おまえたちは弱い、死にに行くようなものだ」


 その声には微塵の迷いもない。


 俺たちを追い返そうとするその態度に、熱い血が一気に沸き立つ。


「なに? 俺たちが弱いだと? ふざけんじゃねえ!」


「どうしても先に進むというならば、この私を倒して行きなさい」


 まさに挑発だ。


 俺はその言葉に応じるかのようにバトルアックスを握りしめ、構えを取った。


 横ではカインドも剣を手に、一瞬の隙すらも見逃さぬように構えている。


 しかし、いざ向き合ってみると、その重厚感たるや――まるで巨大な壁に立ち向かっているかのようだった。


 青の勇者、ゴーヴェンは、ただでさえ、強かった。


 そして、──。


「フィジカルブースト……『ストアリング』、『アジリティ』、『デクステリティ』」


『フィジカルブースト』で己の力を強化し、身体能力を底なしの域にまで高めている。


 彼の動きは、普通の人間の常識などまるで通用しない速さと力を宿している。


 俺たち二人がかりで挑んでいるのに、やつの前には手も足も出せねえ。


 奴は俺たちの攻撃をことごとく受け止め、無効化している。


「この『アイギスシールド』の前では、あらゆる物理攻撃は無効化される。おまえたちに勝機はない、諦めろ」


 くそっ、ここまで強いとは思わなかった。


 焦りと苛立ちが膨らむばかりだ。


「どうした、赤の勇者、おまえの攻撃はそんなものか」


 冷ややかな声が、さらに俺の怒りに油を注ぐ。


 物理攻撃無効化だと?


 上等だ。


「くそ、ここで奥の手を見せることになるとはな……見せてやるぜ、俺の『アトリビュートチェンジ』をな!」


 一気に属性を変え、攻撃を魔法属性に切り替えた瞬間、ゴーヴェンの『アイギスシールド』がその力を発揮する暇もない。


 だが、それでもやつの「フィジカルブースト」で強化された動きには手数で押され、なかなか追い詰めることができねえ。


 どうにかして、あのフィジカルブーストを打ち消さねえと、俺たちの勝機は見えてこない。


 その時、カインドが言った。


「僕が一瞬彼の隙を作ります。その間に『マジックデモリッション』で『フィジカルブースト』を解除してください……僕に考えがあります」


 考え?


 カインドのやつ、一体、何を……。


「物理攻撃が無効化されるなら……魔法属性の剣ならどうです? ソードエンチャント……『заморози』……!」


「うむ。いい線を行っているが……おまえでは遅すぎる」


 その時の俺は、青の勇者ゴーヴェンの圧倒的な力の前で、まるで自分が小さな虫ケラにでもなったかのような無力感に苛まれていた。


 あの冷徹な眼差し、揺るがない態度、俺たちが放つどんな攻撃も、彼の盾と槍の前ではただ無力に打ち消される。


 心臓がバクバクと音を立て、全身に汗がにじむ。


 悔しい、悔しさで拳が震える。


 カインドもまた、俺と同じ思いを抱いていたのだろう。


 俺たちは二人で同時に攻撃を仕掛けたが、まるで壁に突っ込んだように跳ね返された。


 ゴーヴェンが使う「フィジカルブースト」で強化された身体能力、その速さと力に、俺たちはただ防戦一方になるしかなかった。


「くそっ……こんなところで、こんなやつ相手に……!」


 俺の声が震える。


 悔しさと苛立ちが混ざり合い、頭が沸騰しそうなほど熱くなる。


 しかし、冷静に見つめるカインドの瞳が、そんな俺を一瞬で正気に引き戻した。


 奴が俺に託した一言、そいつに賭けるしかない。


「いいか、カインド。見せてやろうぜ。俺たちがこの先に行く覚悟をな!」


 俺は「マジックデモリッション」を発動した。


 その瞬間、ゴーヴェンの力がわずかに削がれるのを感じた。


 カインドが一瞬動きを見せる。


 奴もまた、この時を待っていたのだ。


「ソードエンチャント……『заморози』!」


 炎の力を剣に宿し、まるで閃光のようにゴーヴェンに向かって放たれる一撃。


 俺の全身に緊張が走る。


 やれ、いけるぞ――!


 その剣が、奴のアイギスシールドを超え、確かな手ごたえをもってゴーヴェンの防御を打ち破った。


 轟々と燃え上がる炎の中で、俺たちはついに奴を倒すことができたんだ。


 ゴーヴェンは静かに立ち上がり、俺たちに一礼した。


「ほう……私を退けるとは大したものだ。おまえたちなら魔王を倒せるかもしれんな」


 その言葉に、俺の胸が高鳴った。


 奴が俺たちを認める――その瞬間の感動は、何にも代え難い。


 俺たちはここまで来た。


 そして、この先も進み続ける。


 青の勇者ゴーヴェン、おまえに見せてやるぜ、俺たちの覚悟ってやつをな。


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