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エピローグ

 日当たりの良いテラスで、白髪の老婆と小さな子どもたちが遊んでいる。

「あの日からモンスターは消えて、世界は平和になったの。というのが、私の体験した不思議なお話」

「えー、じゃあおばあちゃん、眩しくないの?」

「そうね。あの日に全部治ってしまったのよ」

 老婆はそう言うと、木漏れ日を眩しそうに見上げる。

「何の話をしている」

 右手に杖を持ち、ゆっくりと歩く老爺が不機嫌そうにそう告げる。

「昔話ですよ」

 老婆は立ち上がると老爺のために椅子を引く。

 老爺の左目には眼帯、左の袖はだらりと下がっている。

花輪(ガーランド)つくったの! お祖父様どうぞ!」

 少し離れたところで遊んでいた幼女が駆け寄り、花輪を老爺に手渡す。

「んむ」

 戸惑った老爺を見て老婆は笑う。

「あらあら。素敵ね。あの子も素敵だったけど」

 老婆は老爺が差し出した花輪を受け取ると、老爺の左袖にそれをくくりつける。

「ガーランドはその位置じゃなくちゃ、ね」

 老爺は困ったような寂しいようなそんな微笑みを浮かべる。

「さ、もうお話はおしまいよ。あっちで遊んでらっしゃい」

 老婆の声に子どもたちが広い庭を走っていく。

「いつもの質問をするわね。あのとき、何があったの?」

「……女神を殺した。それだけだ」

「それだけで、こんなことになるのかしら?」

 老婆は自分の髪をかき上げて耳を見せる。

「あれは世界の歪みだった。そういうことだよ」

「その答えは聞き飽きました」

「それ以上言いようがない」

「昔からそう。魔術師(ウィザード)は言葉が足りないわ」

 老婆は嘆息すると老爺の右手を両手で包み込む。

「でも、あなたの愛は確かだから、その答えで満足すべき、なのかしらね」

「……いつも思うが、あのときのお前はどこに行ったんだ?」

「あれもあたし。これも私。姿形は変わったけれども、魂の本質は変わらないわ」

 老爺は包まれている手を見やる。

「お互い、随分と枯れたな」

「そうね。あたしだったら考えられないけれど、私はこれでよかったと思っているわ」

「言っている意味がよくわからんな」

「わからなくていいのよ。私がわかっていればそれで十分」

 老爺は嘆息すると右手で花輪を撫でる。

「最期までわからなかったが、いいやつだったな」

「そうね。いい人でしたね」

「おばーちゃーーーん! このお花なーにー?」

 庭の花壇を指差して幼女が声を上げる。

「呼ばれているぞ、行ってこい」

「あなたもどうぞ」

 老婆に手を差し出され、やれやれとその手を取る老爺。

「まったく、人使いの荒い」

「惚れた弱み、でしょ?」

 老爺はふん、と息を吐くと二人寄り添って歩いていった。

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