表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話 分離術式

「ああ、時間(タイム)貸し(シェアリング)の話か。高効率(エフィシエント)機関(エンジン)なら好きなだけ持っていけ。並列(ベクター)機関(エンジン)もな。高性能(パフォーマンス)機関(エンジン)は三つ残してくれていればいい」

 暴走(スタンピード)明けにマーズの執務室に飛んだら書類から目も上げずにそう言った。

「随分と大盤振る舞いだな」

「それだけの活躍だったからな。まったく……不眠(スリープレス)は不貞腐れて純白天使エンジェリックホワイトはキレてたぞ」

「未熟なのが悪い」

純白天使(アレ)は面倒なんだからできれば穏便に済ませてほしいところなんだが」

「跳ね馬亭が範囲外だったからな」

 優男は書類から視線を上げる。

「めずらしい。いつもなら宿がどうなろうと気にしないくせに」

「厄介な荷物を抱えていてな。どうしてもそれを守らなければならなかった」

「ほう?」

「被害は殆どなかったんだろう? 貸しにしておいてやる。そしてその貸しで命じる。詮索するな」

 マーズは目を見開いて俺を見る。

「なるほど。それほどまで。あの少女には価値が」

魔術陣(マジックサークル)メモリへ魔術陣(マジックサークル)データロード》

 ガーランドは優秀だ。

「お、おい」

 マーズの狼狽を無視して第三種戦闘準備が進む。

自動(オートマティック)有効化(アクティベート)タスク最優先実行に全速攻魔術(インスタント)を設定完了》

「口には気をつけろ、マーズ・ホットウォレット」

 しばらく無言で睨み合う。その沈黙を破ったのは優男だった。ため息を吐き出す。

「いつから使う?」

「ASAPってやつだ」

「可及的速やかに、ね。わかった。Aコンソールが空けてある」


 一旦宿に戻り、シャーロットを引き連れてマーズの中央塔へ向かう。

 警備は俺を見ると軽く頭を下げてきた。手を上げて挨拶を返し、塔に入る。

 薄暗い回廊と階段をしばらく歩き、Aコンソールの部屋にシャーロットと共に入る。彼女はキョロキョロと周りを見、不安そうにしている。

 コンソール室には小さな机と椅子、そして折りたたまれた簡易椅子がある。

「なに、くすぐったいことはもうしない。それはあのとき全部終わらせたからな」

 小さな机の前の椅子に座り、隣に簡易椅子を展開してシャーロットを座らせる。

「ガーランド、分離術式(デマルチプレクサ)用意。例外部についての組み込みもよろしく」

 魔水晶をレンズの上に置くとガーランドが輝く。

書庫(アーカイブ)アクセス。分離術式(デマルチプレクサ)を構成します》

 魔水晶をコンソールに乗せる。分離術式(デマルチプレクサ)が取り込まれる。

 多次元多重化(マルチプレクス)された術式(コード)のうち、例外的な部分については別途術式(コード)を作成し、一般的な分離術式(デマルチプレクサ)を多少改変した。これで機械的にやれるようになる。

 分離(デマルチプレクス)したそれぞれの術式(コード)情報(データ)を分析し再構築する場合、人間ならば直感でやるが、解析(アナリティカル)機関(エンジン)には直感というものはない。

 解析(アナリティカル)機関(エンジン)にできるのは積和演算がいいところだ。

 ではどうするのか。

 大量の線型(リニア)変換(トランスフォーム)非線型(ノンリニア)変換(トランスフォーム)とで置き換えたものがそれを肩代わりする。この手の積和演算には並列(ベクター)機関(エンジン)が特に有効だ。

 ガーランドの静的(スタティック)術式(コード)解析(アナリシス)の結果も並列(ベクター)機関(エンジン)に取り込んでコード解析の手助けとする。

分離術式(デマルチプレクサ)に接続」

《接続しました。ストリーム稼働確認。分離術式(デマルチプレクサ)稼働。情報断片(パケット)の解析部への投入を確認》

 遠くでギアの軋む音と蒸気の吹き出る音がする。

術式(コード)の全取り込み終了しました。あとは静的(スタティック)術式(コード)解析(アナリシス)待ちですね》

「どれくらいかかりそうだ?」

《ざっと20時間ほどでしょうか》

除去観察(デキャップ)できないのがどうにもな」

《それはお勧めできませんね。間違いなく斬首刑(デキャピテイト)です》

「だろうな。行くぞシャーロット。ここでやれることはもうない」

「は、はい」

 シャーロットは戸惑いながらそう答えた。

除去観察(デキャップ)というのはICの表面を削り取り内部回路を露出させたあと顕微鏡などで観察しチップの動作を把握する手法です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ