第5節 訓練 ~破~
魔雲の取り込み方。
話だけを聞けば簡単そうな話ではあった。
雲斎が言うには精神を集中させ、周りにある魔雲を集まるように念じればいいとのことだった。
もっとも、精神集中というのが一般的な概念では無い気はするが、座禅を組んで集中するのと同じようなものだという。
慣れれば深く意識することなく魔雲を取り込めるようになれるのだそうだ。
「説明はこのくらいでいいじゃろう。やってみた方が早い…」
すっと目を閉じた雲斎。
と同時に周りにうっすらと漂っていた魔雲が雲斎に吸い込まれていくのがわかった。
ある程度吸い込まれると雲斎の体が光り、少し若返ったように見えた。
「これが…魔雲を取り込むということだ。魔雲を取り込めば身体能力が向上する。ワシが少し若くなったように見えるのもその作用の一つじゃ」
初老に見えていた雲斎だが、今は40代くらいに見える。
「見ているがよい」
雲斎が手を翳すと何もない所から柱が数本現れ、それを軽々と飛び移っていく。
明らかに人間離れした身体能力だ。
(あの柱も…魔雲で生み出されたのか…?)
つくづく便利な力だ。
身体能力を向上させ、柱も生み出せるとは。
その気になれば何でも生み出せるのだろうか。
いや…それは無いのだろうな。
魔雲の力、それなりの量があってこそだろう。
「さぁ次は貴殿の番じゃ」
いつの間にか柱から降りていた雲斎。
見た目も元に戻っていた。
(勝手はわかりきっていないが…座禅は以前に組んだこともある…その要領でやってみるか…)
目を閉じ、体から力を抜き、魔雲が集まるように念じてみる。
「すぐに魔雲が取り込めるわけが無いとは思うが、そこは回数を重ねれば…。
む…!?」
体が軽くなったような感じがする。
心なしか体に力が沸き上がるような…そんな感覚がハッキリと感じられる。
ゆっくりと目を開けると、うっすらと体が光っているように見える。
「なんと…一度目で成功するとは…。ふむ、稀に見る天才が召喚されてきたようじゃな…」
「これで…魔雲が取り込めているのか…?」
「柱に飛び乗ってみるがよい。先程ワシがやったようにな」
柱を見据える。
一番低い柱で3メートル程だろうか。
明らかに普通に届く高さではない。
しかし、今の俺ならすぐに飛び乗れる、そんな自信があった。
トン…。
軽くジャンプしたつもりだった。
だが、その高さは一番低い柱を越えていた。
「ほぉ…」
雲斎が感心したような声を漏らしていた。
ザッ…。
あんな高さから降りたというのに脚の痛みは全く無い。
「調整が難しいな…」
「まぁ鍛練を重ねるしかないじゃろうな。慣れるしかない」
感覚を掴むにはそれしかないか…。
とりあえず繰り返してみることにした。