第3節 異世界とは何だ
「我々の言葉がわかりますかな?」
「…あぁ」
見た限り同じ国の人間ではないし、何より傍にいる空飛ぶ猫がいる時点で異質なことがわかってはいた。
「まず自己紹介をさせていただきます。私の名はクレイディアス。この世界ディクラウドで召喚士をしております。隣にいるのはリリアとリリク。使い魔でございます」
話しながら手に持っている本のページをめくり始めるクレイディアス。
ページをめくる手を止めるとまた話し始めた。
「サカキ…リュウジ様…で合ってますかな?」
「…あぁ」
なぜ俺の名前がわかったのだろうか。
榊 龍二。
紛れもなく俺の名だ。
「年齢は…ふむ…21歳…ご家族は父君、母君、そして兄君がいらっしゃる…ふむ…」
家族構成まで当てられている。
あの本に書いてあるのか…?
しかしなぜ俺の家族構成があの本に書かれているのだ。
不思議を通り越して奇妙だ。
「おい…なぜそんなことがわかる。なぜそんなことを確認する必要がある」
「あぁ、確認ですよ。あなたがどんな人間でこの世界を救ってくれ得るのかどうかの、ね…」
世界を救う…だと…?
ディクラウドとか言っていたな。
一体どこの国だ。
世界を救うとは何なのだ。
疑問しか浮かばない。
「さて、疑問にお答えしましょうか…ここがどこで…世界を救うということはどんなことをすればよいか…」
!?
俺の考えていることが…わかるのか…?
「少し目を閉じていただけますでしょうか」
「なぜだ」
「あなたの疑問に答えるためです」
「…まぁ…いいだろう…」
目を閉じると額に何か触れた。
目を覚ます直前の時に感じたような感触だ。
と同時に頭の中に様々なことが流れ込んできた。
この世界、ディクラウドのこと、この世界で何が起こっているのかということ、魔雲というものがあってそれを使うことで魔法が行使できること…。
様々な情報が次々に流れ込んでくる。
とても多い情報量なはずなのに不思議と混乱はしていない。
「この世界のことはわかった気がする。だが…具体的な目的は聞いていない。そして…俺は元居た世界には帰ることができるのか、それが一番気掛かりだ」
「まず…最後の質問にお答えしましょう。元居た世界には目的を達成していただければ帰ることができるでしょう。すべてが終わったのちに私が戻します」
なるほど、交換条件というわけだ。
俺がこの世界を救わなければ、元居た世界に返す手段を行使しない、というわけだ。
実に分かりやすい。
「で…世界を救うとは」
「とある場所にいる者達を倒し尽くしてほしい、それだけでございます」
「どんなやつだ」
「魔雲を使い世界を掌握しようとしている者達です」
魔雲を使って世界を掌握しようとしている…それはこいつらも同じようなものではないのか…?
まずい、そんなことを考えてしまったのではまたこいつに考えを読まれてしまう。
「その者達はこの世界の全てを手に入れようとしているのです。そう、なにもかも」
俺の先ほどの思考を読んでいるのであれば、先にそのことについて話してくるものと思っていたが…敵のことしか話してこない…。
思考を読まれていないのか…?
「その者達に対する手段、戦闘手段をこれからあなたには学んでいただきたいのですが…」
戦闘手段。
先ほど知識として流れてきてはいるが、実際にどうしたらいいのかは身についていない。
学ぶしかないだろう。
「ではこちらへ…」