第2節 発端
そもそもなぜこんなことになったのか。
もともとは軍人の俺が。
とある島で敵対勢力の進行を待ち構えていた俺は、戦闘機の奇襲を受け爆発に巻き込まれて死んでいたはずだった。
(大したこともできぬまま…俺は死ぬのか。あの兄に…追いつけぬまま…)
若くして会社の長となり、特例で戦争に駆り出されることもなく、俺のように命を懸けることもなく生きていくであろう、あの兄。
兄ではなく俺に戦争に参加する通達が来たときは父も母も内心喜んでいたようであった。
兄が戦争に出ることだけは避けたかったようだったから。
何でもできる兄。
運動も勉強も商売も何もかも。
俺だってできるのに。
俺だって兄のようになれたはずなのに。
だが両親が、世間が、世界が俺を拒んだ。
何度も見返してやろうと思った。
叶わなかった。
悔しさはある。
しかしもうどうにもならない。
俺はここで命を散らすのだから。
だが…。
俺は死ななかった。
なぜか目は開かないが周りから声がするのはわかる。
誰か救援に来て治療でもしてくれたのだろうか。
いや…そんなはずはない。
あの島は孤島なのだ。
すぐ救援が来たりするわけがない。
しかし俺の体は痛みすらない。
一体何が起こっているというのだ。
目は開かないが周りの声がだんだんとはっきりしてきた。
意識がはっきりしていくのもわかる。
しかし…。
周りから聞こえてくるのは知らない言語であった。
英語でも…中国語でもない…。
なんだこの言葉は…?
そう考えていると額に何かが触れた。
「これで…私達の言葉がわかるようになったと思います」
「うむ…。さぁ勇者殿、目をゆっくりと開けられるがよい…」
勇者殿…?
俺のことか…?
急に言葉がわかるようになったが、勇者殿と呼ばれることに理解が追い付かない。
どうであれ状況の確認をしなくてはならない。
ゆっくりと目を開ける。
目の前にいたのは1人の老人と2匹の空飛ぶ猫であった。