第1節 足止め
「で、ここを進むためにはお前たちの力があれば何とかなるのだろう?」
「そうだけど、今はちょっと無理っていうか…」
「なぜだ」
「さっきあんな戦闘があるなんて思わなかったし、思ったよりも魔雲を使っちゃったから、どこかで補充しないといけなくて…」
「どこで」
「えっと…ま、町まで…」
「どこの」
「通ってきたパイクの町まで…」
溜息が漏れる。
通ってきたパイクの町と言われる場所は2日前に通った町だ。
つまり2日かかるということだ。
冗談ではない。
1日どころか1時間だって惜しいというのに。
しかしそこまで戻って魔雲というものを補充しないと、この先の空間を通り抜けられないのだ。
空間と言うべきか、奈落と言うべきか、空と言うべきか…とても迷うのだが、そんな場所がこの先にある。
雲に覆われた世界、ディクラウド。
雲に覆われた、と言うよりは雲の中にいる、と言うのが正確なのだろうか。
なぜならこの世界、各大陸が浮遊大陸と呼ばれており、浮いているのだという。
空間、奈落、空、言い方に迷ったのはそこだ。
この先に道が無く、次の道が空の先にあるのだから。
魔雲と言うのは所謂魔法の触媒に使うものなのだそうで、それを使うことで道を一時的に作ることができるのだそうだ。
当然攻撃魔法に使うこともできるわけなのだが、それを先ほどの戦闘でほぼ使い切ったのだという。
「なぜ考えも無しにほとんど使う真似をする?」
「べ、別に考え無しに使ったわけじゃない!リリクが危なかったから仕方ないじゃない!」
「ケ、ケンカはやめようよ…」
リリク。
俺がこの世界に来た時から一緒にいる猫。
猫のようなもの、と言った方が正確だが…。
なお魔雲を使いきってしまった方はリリアという。
こちらも…まぁ…猫のようなもの、だ。
背中には羽根、頭には魔女がかぶっていそうな三角帽子。
その手…前脚には星がついた杖を持っている。
確かに先ほどの戦闘時、リリクが魔物に攻撃される直前だった。
俺の攻撃は間に合わなかっただろうし、助けるためなら仕方のないことだったとは思うが…。
それでこの先に進めなくなってしまったのでは話が変わってくる。
もっとも…この先に進むためにはどうしても魔雲が必要だ。
「いいか、俺は1日でも早く元の世界に帰りたいんだ。時間の無駄になるようなことは今後控えてもらいたい」
「わ、わかってるわよ!」
「どうしても戻るしかないのか…」
「うぅ…ごめんってば…」
腹が立つが仕方がない。
来た道を引き返し、パイクの町に戻ることにする。
とりあえず魔物はいなそうだし、夜も歩けば2日かからずに到着できるだろう…が…。
夜通し歩くのは危険なこの世界、どうしても2日かかってしまうことは明白である。
「1週間でこんな後戻りをする羽目になるとはな…」