第15節 異邦人
あの谷を越えてから数日。
新たな町に辿り着いた。
パラスの町と呼ばれているその町は、パイクの町よりも大きく賑わっているように見えた。
「随分と人が多いな」
「この辺りでは一番大きな町ですからね」
見回してみると様々な人種が暮らしているようだ。
出店も立ち並んでおり、様々な物が売られている。
「少し見て回ってみますか?」
「どのみちこの町で一泊するんだろう?
宿を取ったら歩いてみるか…」
赤い屋根の大きな宿屋。
地下部分には酒場もあると聞いた。
宿で部屋をとり、出店に向かってみることにする。
売られている物を見ると果物を焼絞ったであろう飲み物や、焼いた蕎麦、ラジオ焼きに似たような物もあった。
「随分色々な物があるな…」
「こことは違う異世界の食べ物もあるかもしれませんよ」
「なんだと…?
俺の世界にあったものもあるのか?」
「そこまでは少しわからないですが…」
確かに先程見たラジオ焼きのようなものは俺の世界にある物とよく似ていた。
「異世界の者が出店を出している可能性もあるのか?」
「それはあると思うわ。
召喚された全員が戦いに赴いて死んでいったわけでもないから…。
戦ったけど怪我で引退をして、商人になったとか、食堂の店員になったとか、農業をしているとか、そんな風にこの世界に残った人の話を聞いたことがあるもの」
「戦いに負ければ…この世界に取り残される…ということなのか…?」
「…。
残念ながら…そういうことになります…」
やはりか。
俺が元の世界に戻りたい話をした際、クレイディアスがしきりに勝利を何度も望んでいたのを聞いて予想はしていた。
やつらを倒さなければ元の世界に戻ることは叶わない。
今一度気を引き締める必要があるな。
「おや…?あんた…」
声をかけられた。
誰だ…?
当たり前だがこの世界に気軽に声をかけてくるような知り合いなぞいない。
その辺の店の主人だろうか。
声の主を見て驚いた。
(俺と同じ…黒髪…!?)
真っ黒な髪だった。
この世界には黒髪の者はいない。
いるとしたら異世界の人間だ。
クレイディアスが言っていた。
「あんたも…この世界の人間じゃ…ないね?」
「あぁ…お前も…だろう?」
「いやー、マジかー!同じ黒い髪だし、同じ世界から来た人間なのか!?」
間近…?
一体何を言っているんだこいつは。
よく見ると俺と同じ、日本人らしい顔つきではある。
「お前は…日本人…なのか?」
「そうそう!日本人!
え、あんたもなの!?
マジか!!ウケるわー!!」
こいつが言っていることの意味がよくわからんが…同じ日本人なのは確かなようだ。
「いやー、やっぱいるんだなー、同じ世界から来た人!
やっと会えたー!って感じだけどさー!
あ、俺、佐藤 由紀彦ってんだ!よろしくな!」
なんか…馴れ馴れしいやつだ…。
「俺は…龍二…榊 龍二だ」
「龍二ね!!よろしくよろしく!」
手を取ってぶんぶん振られる。
話しづらいし…面倒だな…こいつは…。
「こうして会えたのも何かの縁だからさぁ、一緒に酒でも飲まね?」
「…。
いや、遠慮しておく」
「えぇー?ノリ悪いなぁー」
面倒くさい…。
これ以上関わるともっと面倒になりそうだ。
俺はリリアとリリクを捕まえて両脇に抱えると一気に走り始めた。
「あっ!ちょ、ちょっとぉー!」
不意を突くことができたからかは知らないが、一気に逃げることができた。
リリアとリリクは急に俺に捕まって小脇に抱えられて驚いていたが、あいつのことは俺と同じで面倒に感じていたようだ。
逃げた先であいつのことを面倒なやつだと話していた。
「ふーん…あれがこの地域の召喚された人、ね…。
大したこと…なさそうだなぁ…ククッ…」
取り残された由紀彦が悪どい顔で笑みを浮かべていたことを…俺達は知る由も無かった…。