第13節 谷への回帰と、変化していく気持ちと
パイクの町に何事も無く辿り着き一泊した後に谷を目指し、要所要所で戦闘があり、谷に辿り着いた頃には谷を越えるための魔雲凝縮瓶を使い切っており、仕方無しにパイクの町に戻り、魔雲凝縮瓶を補充、また一泊した後に谷に帰ってきた、それがここまでの話だ。
急ぎたい急ぎたいと思う俺の意思とは裏腹に妙に時間をとられるようなことばかりが起きている気がする。
仕組まれているのではないか、と思えてしまう程に。
いや…流石に考えすぎか。
確かに多数の戦闘があり、リリアが俺に無理をさせないようにと魔雲凝縮瓶を使いきってしまったことには呆れるものを感じたが、その成果もあってか俺の保持量は全くと言っていい程減少していない、とリリクは言う。
これから訪れるかもしれない更なる強敵を撃破するには俺の力が必要なのだそうだ。
ここまで温存できているのは喜ばしいことだと言う。
それでも…俺に纏わりついた元の世界に帰りたいという焦り。
拭い去れない。
急ぎたい。
その気持ちがどうしても口に出てしまうのを止められなかった。
「さて、戻ってきたわけだが…ここをどうやって越える?」
「私の魔雲の力で道を作るわ」
「早めに頼むぞ」
「ちょっと詠唱に時間がかかるの。
あまり焦らせないで」
「瓶を使い切ってなければもっと早く通れた筈だったんだがな」
「わかってるわよ…なるべく早めにできるようにするから」
我ながら冷静さを欠いている。
リリアに当たっても仕方無いのに。
この世界を大して知らないのに焦って進もうとする俺はバカなのかもしれない。
見返してやりたい。
その気持ちだけが俺を無理矢理突き進ませる。
頭の中はそれでいっぱいだ。
そういえば…。
そんなことを考えないでいたことがあっただろうか、とふと思った。
いや、無い。
見返してやりたいという気持ち。
嫉妬心なのだろうが、それを感じない、忘れることなど一度も無い。
今こうして違う世界にいる俺が、未だにその気持ちを捨て切れていないのは…俺の気持ちが弱いからなのだろうか。
他人に気分を害させてまで考え、口に出してしまうこの気持ち。
見直さなければいけないだろうか。
事実、こんな態度を取る俺に対し、リリア、リリクは嫌な顔一つしない。
元の世界では当然嫌な顔をされ続けてきた。
それをこの二人は一切しない。
それなのに俺は悪態をついてしまう。
そんな俺は…やはり弱いからなのだろうか。
リリアの詠唱の最中、ずっと色々な事をいつの間にか考え続けている。
なぜだ…?
この世界の空気がそうさせているのだろうか。
「あの…」
リリアに声をかけられてハッとした。
いつの間にかリリアの詠唱が終わり、谷には光輝く道ができていた。
「道、できたわよ」
「…あぁ」
光輝く道を歩き始める。
何やらふわふわとした感じがする道だ。
少し強く踏み込めば道が抜けそうな感じすらする。
もちろんそんなことは無く、無事に道を渡りきることができた。
「渡りきることができたな。
次はどこを目指す?」
「この先に商人達が居を構えるキャラバンがあります。
そこに向かいましょう」
「よし、行こう…それと…」
「ありがとう、道を作ってくれて」