第12節 旅立ち
次の日。
クレイディアスが用意してくれた荷物の説明を受けていた。
「寝袋、食料、簡素な調理器具…少し大荷物かもしれませんが、これらはリリクが持ちますので御安心下さい」
こいつが?
猫のようなこいつがどうやってこの量の荷物を持つというのか。
と思っていたその時、リリクの背中にある宝石のような物に荷物が全て吸い込まれた。
「これは魔倉と言います。
ある程度の量ならすぐ出し入れできるんです」
便利なものだ。
こんな物があれば召喚される前の状態で大いに役に立っただろうな。
だがこれは誰でも使えるものではないらしい。
俺や雲斎はおろか、クレイディアスですら使えないのだという。
「あと、こちらを…」
クレイディアスが瓶を数本並べた。
何本かは液体が入っており、薬なのだと予想ができたが、もう数本はパッと見た限りでは空っぽであった。
「なぜ空き瓶を持たないといけないんだ?」
「よく御覧になってみて下さい」
空き瓶をじっと見てみる。
うっすらと雲のような物が入っているように見える。
「これは魔雲を凝縮した物です。
あなたの魔雲の補充、及びリリアがこれを使用します」
「私がこれを使ってグイスからあなたを守ったり、道を作ったりします」
「俺を守るだと?その必要は無いだろう」
前日、訓練が終わった後雲斎が言っていた。
「お主のような異世界からの召喚者は特別な力を得ておる。
戦う力もそうだが、一番変わったのは体質だ。
少しくらいの怪我であれば空中に漂う魔雲が治癒してくれるであろう。
もちろん瞬時にではなく徐々に、ではあるが…」
つまり俺は大怪我をしない限りは自然に傷が治るのだ。
それゆえ、戦う力を持っている俺が守られる理由が無いのだ。
「リリアがあなたを守る理由、それは、あなたが過剰に魔雲を使用するのを防ぐためです。
確かに魔雲を補充できる瓶はお渡ししておりますが、あなたが魔雲を使いすぎると魔雲の保持量に影響が出てしまうのです。
最大の戦いに挑むその時まで、あなたには魔雲保持量をあまり減らして欲しくないのです」
なるほど。
理屈はわかる。
だが、こいつが戦えるようには到底見えない。
まぁ…そのあたりは様子見、か…。
「それでは出発していただきますが…まずはパイクの町を目指して下さい。
パイクの町には魔雲の凝縮瓶も手に入りますし、情報収集や休憩もできることでしょう」
「時間が惜しい。
休憩せずに進みたいのだがな」
「グイスと戦いながら進むとそうもいかないと思われます…。
無理はなさりませぬよう…」
やれやれ。
まぁこれも様子見、だな。
クレイディアスに見送られ、リリア、リリクを連れて神殿を出る。
ワッ!と歓声が上がる。
神殿前にはこの町にいる住人らしき人達が集まっていた。
「頑張ってくれー!」
「頼んだわよー!」
「我々に勝利をー!」
次々に上がる歓声の中を進んでいく。
「歓声に応えないんですか…?」
「言っただろう、急ぐ、と。
別に応えなくてもいいだろう?」
脇目も振らずに進む。
リリア、リリクはその小さな手で歓声に応えていたが、俺にはその時間すら惜しい。
こうして異世界での旅が始まったのだ。