第10節 問答
「で、だ…俺は明日からここを出ていいんだな?」
「もっと訓練を積んでいただいた方が私共としては安心できるのですが…」
「雲斎は認めてくれただろう。とっとと俺に何をして欲しいのか話せ」
急ぎ目的を達成し、元の世界に帰りたい俺。
もっと慎重に事を運んで欲しいと願うクレイディアス。
食事の後、目的を求める俺と、まだ早いと慎重になってほしいクレイディアスの意見がぶつかっていた。
リリア、リリクも同席しているが口は開かない。
「なぜ…そんなにも急がれるのですか」
「勝手にこの世界に呼ばれ、元の世界に帰るためには目的を達成しなければならない、と言われたのであれば急ぎたくもなる。
俺は元の世界で越えなければならない人がいるんだ」
「なぜそんなに兄上様を越えたいと…?」
「俺は何でもできる天才と言われた兄がいたために、まぁまぁ虐げられて生きてきた。
俺だって何でもできる、天才と言われていたのに、認められていたのはいつも兄だ。
俺はそれがずっと嫌だった。
これからも比べられるだろう。
だが、それを覆す為にも元の世界で兄を越えられるものを探さなければならないのだ」
我ながら無理矢理な理論を言っている気はするが事実だ。
俺は兄を越えたい。
兄を越え、周りの人間を見返したい。
何でもできる兄であろうが、何かしら越えられるものがある、それを探したいというのも事実だ。
きっと何かあるはずなのだ。
その為に戦争に出なかった兄を見返せる部分を作ろうと軍にも自ら飛び込んだ。
事実、上官には認められていたし、慕ってくれる部下も沢山できた。
この繋がりがあれば今後兄を、周りの人間を、見返せる筈なのだ。
だが俺は今異世界という、見知らぬ場所にいる。
早く帰って戦果を挙げ、見返してやりたいのだ。
「しかし…我々があなたを呼ばなければ…あの地で命を落としていたのですぞ」
「それに関しては感謝している。
だからこそ早くお前達の目的を達成したいとも思っているんだ。
この考えの何が悪いのだ」
「いえ…悪いと言っているわけでも、思っているわけでもないのです…ただ…心配なだけなのです…」
「だから雲斎が認めてくれたのだから心配は無いだろう」
「そうなのですが…」
どうも話が進まない。
いくら話してもクレイディアスが納得しない。
埒が明かない。
そう思った俺は強引なのはわかっているが強行策をとることにした。
チャキ…。
「こうしてでも目的を教えてもらう」
銃を構え、クレイディアスを狙う。
さすがに黙っていたリリア達も驚き、慌て始めた。
「ク、クレイディアス様…!!」
「ふぅ…仕方ないですな…。
わかりました。
話しましょう…あなたにしてほしいことを」
初めからそうしてくれれば良かったのだ。
我ながら強引すぎたとも思うが、結果的には良かったな。