序章
「パパ、またあのお話が聞きたいな」
「あぁ…あのお話か」
こうしてあのお話、をするのは何度目だろうか。
良いこともあったが悪いこともあったあの話を。
ただ…それがあったからこそ今の自分がいるのも確かだ。
「それじゃ今日はどこからお話をしようか…前の続きからでいいか?」
「うぅん、最初からがいい!」
最初から、か…。
話している最中に寝てしまうかもしれないというのに。
話を簡潔にしようと思っても簡潔にできるわけがない、そんな長い話なのにまた最初からとは…。
ただ…そんな長い話だというのに、つい昨日のことのように思い出せるのは、やはりそれだけ印象に残っているのだろう。
いや、忘れるわけがない。
俺が…今の俺がこうして平穏に過ごしていられるきっかけになった話なのだから。
「じゃあ話を始める前に飲み物を持ってきてもいいか?長くなるからな」
「うん、もちろんだよ」
これも決まりきったことだ。
何度も話し、寝てしまったとしても結局ずっと話してしまう。
最後の方まで。
武勇伝とか自慢したいとかそんなものではないのだが、ついつい思い出に浸ってしまう。
飲み物は欠かせない。
キッチンに行き飲み物を探そうとしたが、すでに飲み物が用意されていた。
こうなることがわかっていたかのように。
妻が用意してくれたのだろう。
ふっと口元が緩み、「ありがとう」とつぶやく。
これもいつものことだが。
「さて…用意もできたし、話していくとしようか…」
こうして話し始めるのは俺の半生とも言うべき、様々な経験をしてきた物語。
短時間では語ることのできない、とても大きな物語だ…。