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第一部 9話 協力関係

「では初めに……奏ちゃんは元気かな? 今もそこにいるんだろう?」

「はい! 元気です!」


 祭教授の質問に奏が答える。

 ちなみに奏の声は祭教授には聞こえない。


 本人も聞こえないと知っているはずだが、今も元気に手を上げている。

 ……もちろん祭教授には見えてもいない。


「元気です。見せられないのが残念ですよ、こんなにうるさいのに……痛ッ」

 俺が嫌味を言うと、隣に立っていた奏が俺のこめかみを拳で叩いた。


「ははは、その辺りはいつも通りか。特に異常もないよね?」

「……ええ。肉体的にも精神的に問題は感じません。奏の様子も変わらない」


 見れば、奏が分かりやすく「むー」と睨んでいる。

 うん、いつも通りだな。


「……強いて問題を挙げれば、約束が違うくらいです」


 俺が続けると、祭教授は「えぇ?」とわざとらしく視線を逸らす。

 だが俺は逃がすつもりはなかった。


「奏を殺した犯人の情報を教えると言うから協力しているんですよ」

「……む」


 俺は体を前に乗り出した。この条件で、俺は祭教授の研究に協力している。

 それどころか、能力関係の雑用まで引き受けているほどだ。


「……手持ちの情報は全て渡しているよ。私のコネも最大限に使ってね。

 この町以外での目撃情報も集めているし、捜索だって行っている」


 この時ばかりは申し訳なさそうに、祭教授は表情を曇らせた。

 手がかりを掴めていないことは自覚しているのだろう。


「何せ、襲撃を受けて生きているのは君一人だ。

 もちろん何か分かったら、すぐに知らせるさ」


「…………」


 どこまで本気かは分からないが、教授にとって俺が重要な研究対象なのは間違いないらしい。約束を守る気がないわけではないと思う。


「……分かりました」

「それは何よりだね」


 祭教授は明るく『ぽん』と手を打った。

 そのまま「次だ」と続ける。


「学校はどうだい?」

「……その質問は重要ですか?」


 突然、プライベートに踏み込んでくる。

 時折、この人はこの手の質問をするのだった。


「もちろん。心理面のケアも重要に決まってる。

 君たちの能力と大きな関係があるのは理解できるだろう?」


「…………」


 俺は黙り込んだ。

 トラウマが能力の源ならば、無関係とは言えない。


「いつも通りですよ。普通に学校に通って――」

「おぉ……お兄ちゃんが負けた」

「――うるさい」


 俺が答えようとすると、奏が茶々を入れた。

 じろりと俺は睨むが、奏はにやりと笑う。


「ふふ……特に人間関係に問題もないと」

「はい。相変わらず無難に過ごしてますよ」


 祭教授は俺の返事に軽く目を細めた。

 別に嘘ではない。ただ昔とは少し違うだけだ。


「…………まあ、良いかな」


 随分と長い間、祭教授は俺の顔を眺めていたが、不意に視線を切る。

 研究内容が内容なだけに、祭教授はカウンセリングの資格もあるらしい。


「次だ。軽い身体測定を受けてほしい」

「またですか?」


 思わず反射的に答える。毎回やっていてはキリがない。

 祭教授が苦い顔を浮かべながら、タバコを持ったまま器用に頭を掻いた。


「そう言わないでくれよ。君たちは不安定だ。少しの変化も見逃したくない」

「……分かりました」


 俺は仕方ないと頷いた。

 これも犯人のためだ。


 ――ここで、祭教授の固定電話が鳴った。


「失礼するよ」


 祭教授は席を立って、電話で二言三言話していた。

 その後、電話を切って席に戻る。


「? どうしました?」

「……いやね? 間が良いのか、悪いのか、分からなくてね?」


 珍しく歯切れの悪い様子で、祭教授は困り顔を見せる。

 さらに、まるで時間を稼ぐように灰皿のタバコから灰を落としてから、おもむろに『すぱー』と一服した。


「昨日、町の南部で起こった殺人事件は知っているかな?」

「学生が犯人で逃亡中……とだけ」

「ああ、その事件だ。その事件の新情報があった」

「?」


 ここで祭教授は一度、大きく溜息を吐いた。

 そうして「ついさっき約束したからね」と、諦めるように白状した。


「その学生が南の大通りで目撃されている。

 血塗れでボロボロだったらしいが――赤と青の短刀を握っていたそうだ」


「! ……奏、行くぞ」

「ん? うん」


 奏に声を掛けると、俺はすぐに席を立った。

 祭教授がわざとらしく、悲しそうな顔をしてやれやれと首を左右に振った。


「定期検診はまだ途中だよ?」

「……昼まではかかりますよね? 続きは別の機会にお願いします」


 落ち込んだ様子で、祭教授はもくもくと口から煙を吐いた。

 さらに「そんなこと言って、呼び出しても来ないじゃんかぁ」なんて言う。


「そう言えば……」

「んん?」


 何となく借りを作るのは癪だな。

 俺は少しやり返すことにした。


「研究室は禁煙ではないのですか?」

「……え?」

 

 祭教授が一瞬だけ狼狽したのが分かった。

 しかし、すぐに持ち直す。


「ははは、バカだな。そんなわけないじゃないか。

 ウチの研究室は禁煙じゃない。現に私が吸っている」


 祭教授がこれ見よがしに灰皿からタバコを持ち上げた。

 そのまま、ついでとばかりに『すぱー』ともう一服する。


「そうですか、それは良かった……ちなみに大学構内は全館禁煙ですよ?」

「ち」

「あはは!」


 俺の言葉に祭教授が舌打ちする。

 奏が楽しそうに笑った。


 ひとまず、俺は犯行現場へと向かうことにした。


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