表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/26

第一部 8話 定期健診

 今日は定期健診の日だった。

 俺は白桐大学の研究室を訪ねていた。


「……おい、奏。あまり勝手に触るな」

「え!? さ……触ってないよ」


 俺が注意すると、奏は後ろに手を回す。さらに首を大きく左右に振った。

 しかし、テーブルの隅に置かれていた人形の位置は明らかに変わっている。


「ははは、別に良いよー。良かったら持っていくかい?

 学生のおみやげでね。私はこういう物には無頓着だから」


 中性的な声が聞こえてくる。

 目を向ければ、小柄な女性が部屋に入ってくるところだった。


 明らかにサイズの大きな服を着ている。

 今は短髪を白めの銀色に染めていた。気分でコロコロと変えるのだ。


 明らかに日本人の平均よりも低い身長もあり、酷く幼く思える。

 見た目はせいぜい女子高生……下手すれば中学生にすら見えるだろう。


 しかし、立派な成人女性だ。

 その証拠に、彼女は口にタバコを咥えている。


 それどころか右手には灰皿、左手にはコーヒー。

 器用に持ちながら、口を歪めて「よっとっと」なんて言いながら、足で自分が入って来た扉を閉じる。その様子は小さなおっさんにしか見えない。


 いや、俺は中身もおっさんだと知っている。

 頼りなくふらふらと、彼女はテーブルを挟んで、俺の向かい側に座った。


「いいの!? やったー!」

「……ダメに決まってるだろ。真に受けるな」


 今は来客用の部屋に通されていた。何度も来た場所だ。

 俺が持つ異能力の第一人者と呼ばれるこの人の定期健診を受けている。


 流石にこの部屋は綺麗なもので、大きなテーブルと革張りの椅子がある。

 だが、俺はこの人のだらしなさをよく知っていた。


「先生も甘やかさないでくださいよ」

 俺はキッと、目の前の相手を睨みつけた。


 ついでに楽しそうに遊んでいた奏もちらりと見て、牽制する。

 奏は斜め上を見ながら、下手くそな口笛を吹こうとして吹けていなかった。


「はは、ごめんごめん。悪かったよ。統哉とうや君が言うなら駄目だね。

 いやー、いつも来てもらって悪いねぇ」


 そう言って、彼女は咥えていたタバコを手慣れた様子で灰皿に置く。

 さらに『すぱー』と聞こえそうな仕草で煙を吹いた。


 ……この姿を見る度、女子中学生がタバコを吸ってるように感じるんだよな。

 まったく心臓に悪い。見た目は奏と同年代なんだから。


 俺の視線に気づいて、へにゃっとした笑みを浮かべる。

 だが、俺は知っている。この笑みは表面上だけだ。


 この人が本当に笑うと、背筋が冷える。

 それくらい――見る人を圧倒する獰猛な笑みだ。


「じゃあ、始めようか。まずはいつもの問診からだよ」

 祭司教授はコーヒーを熱そうに啜った。


読んで頂きありがとうございます!

ブックマーク、評価など頂けると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

以下のサイトにURL登録しています。

小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ